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なのかめ
しおりを挟む週の真ん中水曜日は、一番気分が重く、一番《らしい》と、僕は思った。休みから遠く、週初めのような「さあがんばるぞ」的な思いも綺麗さっぱり消え失せ、中弛みした気怠さが蔓延する。
本日そんな水曜日。天気は曇。
僕はぼんやりと欠伸をしながら、昨日の事を何度も思い返してはあの様なストレスを僕はこれから何度味わいながら生きていくのかと、憂鬱な気持ちになるなど、有意義に惰性的で非生産的な昼を送っていた。僕は今、家である。
水曜日はその疲労の溜まり方から、一限の授業を取っており、僕を慢性的に寝不足にさせた。しかし僕は今、眠ったり起きたりしながら、部屋で一人天井の染みを数えている。もう何度も数えているので、数はわかっている。四六個ある。答えの解っている物を確かめ直すのは、無意味に時間を消費するには持って来いである。
スマホが震えるが無視する。
無視していると、ようやく震えが止まった。
形容しがたい感情が僕の底の方で渦巻いていた。染みの数は変わらず四六個だった。ゲームも手に着かず、仰向けで息をしていた。スマホが震え出す。無視する。止まる。
チャイムが鳴る。
「えっ?」
鍵が開く。
「あっ」
扉が開く。
「やば」
スマホを鳴らしたのも、チャイムを押したのも、合鍵を持っているのも、扉を開けたのも、後輩兼彼氏であった。
僕はそれが解っていたから無視していたのだ。
布団に丸まり、背を向ける。何故か緊張する、心臓が脈打つのが聞こえた。
「せんぱぁい……具合悪い? ポカリ飲めます?」
肩に手が置かれ、抵抗虚しく、身体がひっくり返される。
「ねえ、せんぱ……」目を見開いた後輩の顔。
「わ、か、僕と、別れろ……」
それ見ながら絞り出す喉、腫れて痛い頬。
昨日あの男は笑いながら僕を殴りつけ、後輩が大切にしていた鉢植えやプランターをなぎ倒して僕の手を踏んで言った。
『痛いの嫌いだろ?』
僕はその時、嫌いじゃないなーとか、この惨めさたまらんなーとか、思っていた。ただ、割れて零れた土に我慢できなかった。ので相手の脚に思いっきり噛みついてしまった。相手が痛がり、その時顔を蹴られた。起きたら顔と手が腫れていて、面倒臭くて学校を休んだ。
後輩は人気者らしい。
なのでこの度彼を解放してあげることにした。このまま嫌がらせを受け続ける日々を過ごしても構わないのだが、なんか、割れたプランターを見て、悲しくなった。
頬の脈打つ熱と、僕という存在の不毛さと、他人を巻き込む罪悪感に今更ながら耐えきれなくなったのだ。
そもそも僕は。
「先輩、その顔どうしたんですか?」
「いっ触るな……」
「あ、すみません。これ冷やしました? どうせ冷やしてないですよね、保冷剤持ってきますね」
「なあ、はなし……」
心配そうな顔で立ち上がり、勝手知ったると言う具合に僕のキッチンを使う。そして保冷剤を丁寧にタオルに包み、僕の頬に当てた。そして目を細めた。本当に怒ってるときの顔だ。
「別れませんからね」
「ええ……?」
「先輩、いま不幸のどん底ですか。人生に絶望してますか」
「ま、まあまあ……」
「甘いですよ」
「……はい?」
「俺が、先輩をもっと惨めで可哀想な生き物にしてあげます。そういうの好きでしょう。死んだ方がマシだってくらい滅茶苦茶な瞬間、俺ならあげられますよ」
「あの」
「俺が先輩を不幸にします。だから別れません、別れて欲しい男に粘着されるの、嫌ですよね?」
優しく頬に保冷剤を添わせ、僕の手を握った。痣が痛いが、包まれているから後輩は気付いていないようだった。
「ね、まずは先輩にそんな事吹き込んだゴミを吊し上げて、構内に俺達が付き合ってること公表しますからね」
不幸のプランニングがなかなかヘヴィで独特なのだが、僕たちは当分別れられなくなりそうだ。
痛む七日目。
出る涙は痛みからか、それとも別の感情からか、ただとんでもない奴を彼氏にした事はわかった。
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