魔女は微笑みながら涙する

Cecil

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戦争を終わらせた幼き魔女

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人間は何故争いをやめないのか?
 子供の私にだって、戦争なんてものが何も生み出さないと、憎しみと悲しみしか生み出さないとわかるのに、これだから人間はと思いながらも幼き魔女は両手を天高く掲げる。
 その刹那彼女の頭上には無数の光の矢が現れた。
「暫くは争いは駄目ですよ」
 そう言って彼女は、ゆっくりと両手を下ろした。
 人間が数年間続けてきた戦争は、この瞬間に終わりを告げたのだ。
 僅か七歳の幼き天才魔女によって……

領地争い、権力の誇示。その他諸々の理由で人間は争う。戦争の歴史は人間の歴史だと言われる程に、人間の歴史に必ずと言っていい程に、戦争は付き物である。
 しかし同じ世界に住み、人間と取り敢えずは共存している魔女の皆様に取っては、大迷惑である。
 人間なんてか弱くて脆い生き物の争いに、こちらを巻き込むなが本音。
 しかし、人間の文化や科学は素晴らしい。そしてその科学にお世話になってるのは、確かなので人間が相手に出来ない妖なんて存在を、妖から人間を守る事で、そして魔女は人間の科学を使って便利な生活をする事で、バランスを取っていた。

しかし人間は再び争いを、戦争を始めてしまった。
 最初は、沙霧達の住む日本は巻き込まれていないと言う理由で静観していたが、戦火の拡大により世界大戦の様相を呈し始めた。
 歯止めが効かなくなってしまったのだ。
 その事態を憂慮した人間側から、戦争を終わらせてくださいと懇願された。
 人間が始めた戦争なんだから、人間が終わらせなさいが魔女側の意見だったが、人間との共存を望む魔女により、まだ七歳の沙霧に白羽の矢が立ったのである。
 
魔女と人間は、見た目は同じだが、強さに関しては天と地程に開きがある。
 人間の力、人間の科学力では魔女に傷一つ付ける事は出来ないが、魔女が軽く魔力を使用すれば人間なんて、簡単に死んでしまう。
 それでも魔女側が人間に対して、力を行使する事はなく、人間と共存してきたのだ。
 
「どうして、私なのですか?」
 七歳とは思えない口調と落ち着きで、沙霧は母親に自分が選ばれた理由を問う。
「人間に魔女の恐ろしさを見せる為です」
「どう言う事ですか?」
 いくらエリートで、頭の良い沙霧でも母親の言葉の意味を、完全に理解は出来ない。
 いくらエリートでも、まだ七歳である。
 普通なら、お人形で遊んでいてもなんらおかしくない年齢である。
「人間に魔女を怒らせたら、どうなるかを教える為ですよ」
 魔女を怒らせたら、子供でも恐ろしいのだと、僅か七歳の幼女にすら、人間は滅亡させられるのだと言う事を、魔女の恐ろしさ、魔女の力を改めて知らしめる狙いもあり、僅か七歳の沙霧を選んだのだ。

正直良くわからなかったが、戦争なんて愚かな行為を終わらせられるのなら、力なき民衆がこれ以上苦しまないのなら、家族や大切な人が戦争の犠牲になって悲しむ人が減るのなら、沙霧はそれで良かった。
 沙霧はとても優しい女の子だった。

沙霧の一撃で戦争は終わった。
 沙霧の一撃の後に、大人の魔女からこれ以上戦争を続けるのなら、人間を滅ぼしますと恐ろしい宣言がなされた事もあり、戦争はあっさりと終結を迎え、少しずつ日常生活が戻ったのである。

終戦から十年後。
 世界に平和が戻り、戦争の爪痕も和らぎ始め魔女も人間も平和を謳歌していた。
 妖と呼ばれる存在は、相変わらず存在し、魔女にとっては、戦争前とあまり変わりはしないが、人間同士の争いが無くなっただけ、まだマシである。
 当時七歳だった沙霧も、十七歳になり誰もが振り向く美少女に成長していた。
 街中を歩けば、誰もが振り向き、軟派な人間の男共は無謀にも声を掛けて、その都度もれなく吹き飛ばされていた。
 魔女は人間と付き合う事はない。
 それには、大きな理由がある。
 魔女と人間の間に生まれる子供は、人間となり魔女にはならないのだ。
 魔女は魔女と結ばれる事で、魔女が生まれる。
 その為、魔女には人間と違い男女間での性行為によって、子を成すのではなく、魔女同士、所謂女性同士での性行為によって子を成す事が、出来る特殊な能力を持っていた。
 魔女としての能力を失わない為に、備わった能力なのだろう。

魔女である沙霧は、人間の男の子に興味はないし、人間の女性にも興味はない。
 だが人間との共存には賛成している。
 人間が生み出す科学は面白いし、便利なので利用させて貰う。
 スマホやパソコンも、その一つであり沙霧達魔女も、持ち歩いて利用している。
 魔女として、妖と戦い、戦争すら終わらせた沙霧だが、普段は一人の普通の女の子。
 スイーツにも、ファッションにも恋愛にだって興味のある普通の女の子である。

エリート魔女の家系に生まれ、幼き時から魔女としてのエリート教育を受けてきた。
 元々の高い能力に加え、血の滲むような修行と弛まぬ努力によって、沙霧は誰もが認める魔女に、周りから憧れの対象として、羨望の眼差しを向けられる存在になったのだ。
 本人は努力するのは当たり前と思っているようだが、普通の魔女なら彼女の修行プランの半分もこなせないだろう。
 それ程に厳しい修行を乗り越えて、今がある。
 
それにしても、人間の男共がウザい!
 急いでいるのに、仕方ないので強硬手段。
「殺すぞ!」
 その一言と、鋭い眼光。そして沙霧の周りに光の矢が集まり始めるのを見て、軟派していた男共はその場に尻もちをついて、失禁してしまった。

ウザい男共を蹴散らすと、沙霧は目的の場所へと急いでいた。
 昨晩妖によって、人間が襲われた場所に。
 能力を持たない人間が、妖と遭遇すると言う事は死を意味する。
 能力を持つ妖にしか、奴らは殲滅出来ない。

現場に辿り着くが、妖の痕跡は残ってはいない。ただ無惨に妖の餌になってしまった人間の、被害者の大量の血痕のみが、現場に残っていた。
「人間を食べて満足して、帰って行った」
 そんなところだろう。
 これ以上ここにいても仕方ないので、現場を去ろうとした瞬間、沙霧は新たな妖の気配を感じ取る。
「向こうか、距離はそんなに離れていない」
 沙霧は妖の気配が現れた方へと、駆け出していた。同じ妖かはわからないが、これ以上被害者を出したくはなかった。

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