魔女は微笑みながら涙する

Cecil

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狙われた少女

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沙霧さんのお宅でお世話になって、早十日が経った。もちろん修行もしているが、相変わらずの最弱ぶりは健在である。
 先ずは攻撃の属性を鍛える事になったのだが、元来の性格なのか、一葉は攻撃と言う行為自体が苦手なようで、いつも沙霧や雫にコテンパンにやられてはサレンさんに回復してもらうを繰り返している。

「最弱ちゃん、もっと全力で打ち込まないと」
「一葉、貴女はまだ長距離での攻撃は出来ないのだから、今は接近戦を意識しなさい」
「はい! でも傷つけたくないんです」
 その優しさは素晴らしいが、そんな事では自分の命が危ぶまれてしまう。
 妖は、人間の悪意の塊だと言われており、奴らに知性は基本ない。
 人間の悪意から生まれ、ただ人間を襲い貪り喰う事しか考えがないのだ。
「一葉さん、優しいのはいいですけど、妖は知性などありません。ただ人間を喰らう事しか考えていない醜い生物です」
 だから情は捨てなさいとサレンさんがアドバイスをくれるが、妖相手ならいざ知らず沙霧や雫が相手となると、本気を出せない。

「なら妖に見立てた相手を作ればいいのでは?」
 響の言葉に沙霧と雫が頷く。
「そうね。なら私と雫で偽の妖を作ればいいわね」
「お嬢の言う通りだな」
 二人は顔を見合わせると、何体かの偽妖を出現させる。
 召喚とは違うが、別の物体を作り出す事は、かなり高度な魔術であり、沙霧や雫、サレンと言ったエリートと呼ばれる魔女にしか出来ない。
 一般レベルの魔女には不可能である。

「これなら本気になれるでしょ」
 目の前に現れた偽の妖は、まるで本物の妖に見えて、今までの恐怖が蘇る。
 恐怖で足が竦む。
「一葉さん、倒さなければ貴女がやられますわ」
 サレンのその言葉に、必死に恐怖を押し殺して偽の妖と対峙する。
「一葉お姉ちゃん頑張れ!」
 響の応援に頷きながら、今まで教えて貰った事を反芻する。
 魔力はコアで精製される。
 コアから全身に巡らせる事で、魔女は人間とは比べ物にならない程の高い身体能力を得るのだ。
 まだ魔術と呼ばれる技術を使えない一葉は、妖と戦うには、肉弾戦しかない。
 
両方の拳に魔力を集中させる。
 今の私にはこれしかないんだから、もう逃げたくない!
 逃げるだけの弱い魔女になりたくない!
 誰かを守れる位に、大切な仲間を大切な人を守れる魔女になりたい!
「やぁあああー」
 掛け声と共に、妖へと向かっていく。
 一体、また一体と倒していくが、新たに沙霧が作り出した妖だけは、今までと違って強敵だった。
 敢えて知性を与えたのだ。
 基本妖に知性はないが、絶対ないとは言い切れない。
 そして敵は妖だけではない。
 同じ魔女が敵として立ち塞がる事も、十分に考えられるのだ。
 知性のある魔女と戦う事になれば、妖と戦うのとは比べ物にならない程に、戦略を練らなくてはいけない。
 その事を考えて、沙霧は敢えて一葉に厳しい試練を課しているのだ。
「お嬢様、一葉さんにはまだ早いのでは」
「そうね。でも、乗り越える必要があるのよ」
 一葉の為に、一葉自身の為にも絶対に乗り換える必要がある。
「お嬢の言う通り。敵は妖だけじゃないからね」
「そうだけど、お姉ちゃんは修行を始めたばかりなんだよ」
 普通なら十歳までには、魔女としての修行を開始するが、一葉は母親が行方不明の為にまともに修行出来ずに来た。
 他の魔女の何倍も努力をする必要がある。
「危なくなったら、ちゃんと消すから大丈夫よ」
 そう言って、沙霧は一葉に視線を向ける。

知性があるだけで、こんなにも変わるものなの?
 さっきまでと違い、攻撃が全く当たらない。
 考えろ! 考えないとやられてしまう。
 こちらの攻撃は全く当たらないが、向こうの攻撃は確実に自分を追い詰める。
 このままでは、間違いなくやられてしまう。
 相手の動きを止める事が出来れば。
(相手の動きを止める。そうだ!)
 成功するかはわからないが、一葉は魔力を足に集中すると、妖の下腹部に強烈な一撃を加える。
 妖の動きが止まった。
 今だ! 動きの止まった妖に強烈な一撃を加える。
「やった?」
 しかし、妖は一葉に攻撃を仕掛ける。
 やられる! 一葉がそう思った瞬間に妖は消えていた。
「今日の修行はここまでね。中々悪くなかったけど、最後油断したのは頂けないわね」
 沙霧は、最後まで油断してはいけないと、妖が消滅したのを確認するまでは、絶対に油断してはいけないとアドバイスをくれる。

「一葉さん、頑張りましたわね」
 ご褒美ですと、熱い抱擁をくれるサレンさん。
 やっぱりサレンさんの爆乳は破壊力が凄いと思いながら、サレンの爆乳の感触を味わう。
「最弱ちゃんは、爆乳が好きなのか?」
「サレンお姉ちゃんは、特別だと思うけど」
 爆乳に加えて、母性溢れるサレンさんには、多分誰も敵わないと、三人はうんうんと頷き合う。
「爆乳って言うか、胸が好きなんです。お母さんを思い出すから、お母さんに抱きしめられたのを思い出して安心します」
 最後に抱きしめられたのは、母親が家を出て行った日。
 母親に抱きしめて貰った最後の日になってしまった。
「必ず帰って来ますわ」
 そう言って、サレンは再度強く一葉を抱きしめてくれた。

そろそろ新しい奴隷が欲しい。
 水島可憐は、学園中を歩きながらターゲットに出来そうな女の子を物色する。
 ターゲットにするのは、純粋で大人しくて自分より弱い魔女である。
 いくら大人しくても、自分より強い魔女では自分がやられてしまう。
 そこら辺は怠りなく行動を起こす。
「可憐様、あの娘なんて如何です?」
 可憐の奴隷の一人が一人の少女を指差す。
 中等部の生徒だろうか?
 一人で花を愛でている。
「中々いいわね。あの娘の事調べなさい」
「わかりました」
 どうやら可憐のお眼鏡に叶ったようだ。
 大人しそうで、純粋そのものに見える少女。
 彼女の名は水無月かごめ。
 中等部の生徒で、響の友人でもある。

かごめは、臆病な性格で人付き合いは苦手だが、花を愛でる事が大好きな優しい女の子。
 唯一響とは仲良くしているが、普段から一人でいる事の多い少女である。
 一人で居る事が多いのは、可憐にとっては好都合である。
 誘拐しやすい。
 そして魔女が誘拐されても、人間の警察は動けないし、妖と戦っているのだろうと考えられて、数日帰らなくても家族も心配はしない。
 そう言った条件が可憐に有利に運んでいたのだ。すぐに家族が動くのであれば、事件がすぐに表立ってしまう。
 そして可憐は、攫った少女に家族には妖と戦っていると、友人の家にいると連絡させている。
 その事で、誘拐されたのでは? と言う家族の不安を事件がバレるリスクを下げているのだ。
 こういう事には頭の回る少女だった。

「可憐様、調査を終えました」
 奴隷の少女が差し出したファイルには、水無月かごめの詳細が記載されていた。
 母親は両方下級の魔女で、かごめ自身の能力も低い。
 大人しい性格の為に、友人はほぼいない。
 攫うにはうってつけである。
「良く出来たわ。ご褒美をあげましょう」
 そう言うと、可憐は奴隷を足蹴にしながらかごめ誘拐の段取りを考え始めた。
 足蹴にされた奴隷は恍惚の表情を浮かべて悦んでいる。
 完全に洗脳されて、可憐に愛される事だけを望む様になっていた。

一葉は真剣に悩んでいた。
 修行を始めたばかりとは言え、いつまでも肉弾戦しか能がないのは、正直言って辛い。
 弱くてもいいから、長距離から戦える様にならなくては、肉弾戦=怪我のリスクが死のリスクが高まってしまう。
 沙霧達の様に距離を置いて妖と戦える様にならなければ、折角能力が解放されたのだから、しっかりと使える様になりたい。
「一葉さん、何か悩み事ですか?」
 心配そうにサレンさんが、私の顔を覗き込んでいる。
 沙霧さんも綺麗だが、サレンさんも本当に綺麗で美しい。
 間近で見ると緊張してしまう。
「悩みと言うか、私も皆さんみたいに距離を置いて戦える様になりたいなって」
 今のままでは、怪我のリスクが高過ぎて、どうしても防御を考えてしまい、攻撃が遅れてしまう。
 遅れてしまえば、相手を確実に倒す事が出来ない。
 一葉は一葉なりに考えているが、沙霧の様な光の矢をどうすれば放つ事が出来るのか、そのやり方がわからないのである。
「そうですね。お嬢様は光の矢を得意としますが、敵に合わせて、炎だったり水系だったり、雷だったりと多彩です」
 妖にも色々な種類がいるのだと教えてくれる。炎が聞かなければ、水系だったり、雷系だったりと攻撃を変える必要があるのだと、それを聞くとますます肉弾戦では限界があると感じてしまう。
「どうすればいいですか?」
「そうですねぇ~先ずはイメージトレーニングが大切ですね。自分が魔力を相手に飛ばして攻撃してると言うイメージがなければ、上手く作り出す事は出来ませんから」
 サレン曰く、魔力で攻撃すると言う事はその攻撃をイメージする必要があると言う。
 攻撃に特化してる魔女は、このイメージが戦いを上手くイメージ出来、防御に特化してる魔女は守りを上手くイメージ出来、回復に特化してる魔女は治癒を上手くイメージ出来るのだと言う。
 全てを使える魔女は、全てをイメージする能力が高いと言う事になる。
「イメージですか、頑張ってみます。ありがとうございます」
「お役に立てて嬉しいですわ。でも焦らずに一歩ずつですよ」
 そう言って、爆乳で顔を包み込むと無理はしないでくださいねと優しく呟いた。
 本当に優しい女の子である。

サレンのアドバイスを元に、先ずは自分が魔力を上手く扱っている場面をイメージする。
 妖は取り敢えず一体だが、肉弾戦では勝てない。距離を空けて上手く攻撃する必要がある。
 相手は、炎に強いから攻撃するなら水系である。
 水龍をイメージする。
 水龍で一気に相手を蹴散らす。
 イメージをそのまま右手の魔力に、右手を軽く上げて、魔力を放出する。
 結果は、水龍は出て来ないが1m先に水を帯びた魔力が飛んでくれた。
「やった! まだまだだけど出来た」
 このイメージを忘れずにと、一葉は再び修行を始めた。

そんな一葉を遠くから見つめていた沙霧達。
「お嬢の言う通りで、かなりの素質はあるみたいだね。まさか、こんな短期間であそこまでとは」
「私の予想以上ね。いくらサレンのアドバイスがあったとは言え」
「私のアドバイスと言うよりは、一葉さんが努力家なんですわ」
「お姉ちゃん凄いね。本当に強い魔女になるね」
「ええ、私達の協力な味方になるわ」
 四人は、嬉しそうに修行する一葉を見つめていた。
 一葉が戦力になるのは、まだ先の話だが着実に一歩ずつ魔女として、成長している一葉だった。

いつ攫おうかな? きっと私好みの可愛い奴隷になるわ。
「奴隷もいいけど、私の子供を身籠らせるって言うのもありよね」
 かごめは美少女の多い魔女の中でも、更に美少女の部類に入る。
 そんな美少女のかごめとの子供はさぞかし可愛いだろう。
 可憐は、かごめを奴隷にするのをやめて、自分の子供を身籠らせる相手に決めて、誘拐計画を練っていた。
 本当に楽しみで仕方ないと言った表情を浮かべながら、かごめとの目眩く甘い生活を考えながら、奴隷を足蹴にしていた。
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