魔女は微笑みながら涙する

Cecil

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身辺調査

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かごめの救出作戦は、沙霧を中心に作戦要綱が纏められていく。
 祈からの情報を元に、まずは可憐の調査からスタートした。

雫とサレンの二人が、水島可憐と言う少女を一日で、徹底的に調べあげた。
 可憐は現在は一人暮らしである。
 二人の母親は、既に他界している様で彼女は、母親の残した家と遺産で生活しているようだが、ここにも不可解な点はある。
 彼女の二人の母親は、年齢的にはまだまだ若く、亡くなる様な年齢ではない。
 妖との戦いも既に引退しており、妖に殺されると言う事も、殆ど考えられない。
 だが可憐が13歳の時に、事故で二人共に命を落としている。

この事故に不可解な点があるのだが、警察は深く介入する事はなく、事故として簡単に処理してしまった。
 どの事件や事故でもそうだが、魔女が関わる事には、警察は深く介入はしない。
 魔女を相手にすれば、自分達の命が危ないとわかっているので、殺人事件などでない限りは、簡単に処理してしまう。
 重大事件と断定されたら、魔女に協力を依頼して、魔女と共に捜査する。
 この時協力する魔女は、基本妖討伐を引退した魔女である。

サレン達の話しを聞いて、一葉は可憐の母親の死にどんな疑問があるのか、それがわからない。
「簡単に説明すると、魔女はこんな簡単には死なないと言う事ですわ」
 可憐の母親は、二人共に突然死とされ、所謂急性心筋梗塞と診断書にあるのだが、体内からは、微量の薬物反応も見られると記載がある。
 ただし、薬の成分は不明と追記されている。
「私達魔女は、人間が扱う薬品の類は全く効かないのは、最弱ちゃんもわかってるよね?」
 雫に聞かれて、普段全く病気をしない一葉は、そうでしたと思い出す。
 見た目は人間だが、中身は全く違う生き物なので、人間用の薬は一切効かないのだ。
 人間には人間用の薬を、魔女には魔女用の薬と言った具合に、魔女専用の医者や薬剤師が存在しており、魔女は魔女の医者に掛かり魔女の薬剤師から、薬を処方されるのである。

沙霧も遺体から、微量の薬物反応があった事が気になっていた。
 魔女を殺せる様な薬物は、そんな薬品は未だに発見されてはいない。
 もし可憐が、母親を殺したのならどんな薬物を用いたのか、それが判然としない。
「薬品は、眠らせる為にだけ使用して、眠った二人を殺害したんじゃないですか?」
 一葉は、自分の意見を述べる。
「確かにあり得るわね。本人に聞くのが一番ね」
 そう言うと、沙霧はこの話しを切り上げて次の資料に目を通し始める。

調査結果には、水島可憐の幼少期についても詳しく記されている。
 一部を抜粋する。
 水島可憐は、幼少期より自分より弱い魔女を見下すところがあり、保育園時代には彼女に敵う魔女が存在しておらず、彼女はいつも詰まらないと言った感じで過ごしていたと、当時の先生は話している。
 頭脳も魔女としての能力も、当時の同級生より数段上を行っていた為に、可憐にとっては詰まらない日常だったようだ。
 初等部時代には、取り分けて目立つ存在ではなく、敢えてそうしていた素振りすらある。
 学校では優等生だが、プライベートでは魔女好きの年上の人間の女性から、お金を貰っては自分のあられもない姿を撮影させるなど、とても小学生とは思えない行動を取っている。
「初等部にして、既に破廉恥だな」
 雫の言葉に一葉も同意する。
「この変から、行動がおかしいですわね」
 サレンの言葉に、二人は資料に目を通す。

初等部高学年になると、年上の魔女と肉体関係を持ちながら、薬品の知識を教えてもらっていたようだ。
 資料によれば、魔女専用の大学に通う魔女複数名と関係を持って、薬品の知識を学んでいたようだ。
「この時には、母親の殺害を考えていたって事なのかな? でも自分のお母さんを簡単に殺せるものなの?」
 響の疑問は尤もである。
 自分を産んでくれた母親を、自分を大切に育ててくれた二人の母親を、殺そうなんて普通は思わない。
「毒親ならあり得るけど、資料を見る限りだと、普通の良い母親よね」
 可憐の二人の母親は、二人共に中級魔女だが、素行は悪くない。
 とても真面目で、周りの評価は高い魔女ですらある。
 そんな母親を殺害したのだとしたら、その動機は何なのか?
 いくら考えても、動機は思いつかない。
 可憐がもし本当に母親を殺害したのなら、何故母親を殺害するに至ったのか?
 簡単に母親すら殺せる一面があるにも関わらず、誘拐した魔女の魔力を奪いはしたものの殺害しなかった理由は?
 一葉には、水島可憐と言う魔女の考えが全くわからなかった。

中等部一年の時に、二人の母親が死亡して可憐は一人で暮らし始める。
 この頃には、大学生の魔女との付き合いも終わり、誘拐を始めている節がある。
「調べてみたら、この頃から魔力を奪われた魔女が、偶に発見されているんだよな」
「可憐は、邪魔な母親を消して、一人になったから行動を起こしたと考えられるわね」
 沙霧の言葉に、一葉は恐ろしい事を考えてしまう。
 可憐は、自分の目的を遂行する為に邪魔な母親を殺害した?
 もしそうなら、可憐は何の為に魔力を奪っていたのか?
「あの、魔女が他の魔女から魔力を奪ったらランクは上がるもんなんですか?」
 自分も魔女だが、基本何もわかっていないので、一葉は質問する。
「変わらないわ。例えば、私が雫やサレンから魔力を奪っても、ランクは変わらない。ただ奪う前よりも、少しだけ長い時間戦えるとか、その程度なのよ」
「そうなんですね」
 それなら、何故可憐は他の魔女から魔力を奪ったの?
 ますます可憐の事がわからなくなった。

資料を見る限り。一葉には、水島可憐と言う魔女の事が、全く理解出来なかった。
 真実かはわからないが、自分のやりたい事の為に、邪魔になる母親二人を殺害して、一人になると自分より弱い魔女を誘拐して、奴隷にして必要なくなったら、魔力を奪って捨てる。
 記憶は消すが殺害はしない。
 それも解せない事の一つである。
 普通に考えれば、いくら記憶を消したとしても何の拍子に記憶が戻るかわからない。
 捨てられた魔女に記憶が戻れば、自分の犯行が全て表沙汰になってしまう。
 表沙汰になると言う事は、自分のやりたい事が出来なくなると言う事なのに、可憐はバレるとは一切考えてない節すらある。
 彼女の目的は何なの?
 一葉は混乱する頭で、必死に考える。

どの位の時間が経ったのだろうか?
 気付くと、目の前に夕食が準備されている。
「一葉さん、考えるなら夕食の後にしましょうね」
 サレンに諭されて、一度考える事を止めて食事を取る。
 サレンお手製の温かいスープが、身体を温めてくれる。
「とっても美味しいです」
 それは何よりですわと、サレンは満面の笑みを浮かべる。
 食事を終えると、沙霧から何をそんなに悩んでるの? と聞かれてしまった。
 考えは纏まってはいないが、一葉は可憐について考えていたと、正直に答える。
「正直全くわからないんです。もし私の考える通りだとして、どうして母親を殺害出来たのか、どうして誘拐した魔女は殺さずに記憶を消しただけなのかが」
 一葉は、もし可憐が本当に目的遂行の為に邪魔な母親達を殺害したのだとして、誘拐して来た魔女は記憶を消して捨てただけと言うのが、どうしても解せないのだ。

一口お茶を飲んで、渇いた喉を湿らせてから再び話しを続ける。
「もし私なら、自分の犯行がバレてしまう事を恐れて殺してしまうと思うんです。なのに可憐さんは、記憶を消しただけです。可憐さんには、絶対に犯行がバレないって言う自信でもあるんでしょうか?」
 一葉の話しを聞いていた三人も、どうやらそこの部分は、腑に落ちていなかった様で一葉の意見に同意する。
「確かに、私も犯行がバレるの怖いし、これからも続けようって考えるなら、可哀想だけど殺すと思うし」
 響がそう答える。
「だから、余計に可憐さんって人がわからないんです。彼女がなにを求めて、こんな酷い事をしているのかが」
 予測はあるが、いくら考えても明確な答えは見つからない。
「直接本人に聞きましょう」
 救出作戦は明日の早朝から行われる。
 沙霧は、明日の為に早く休みましょうと解散して休む様に指示する。

沙霧と共に部屋に戻った一葉は、答えが見つからない事に釈然としないまま、沙霧と共にお風呂に来ていた。
 未だに一人では、お風呂にもトイレにも行けない状態である。
 迷子になるからである。
 普段なら沙霧の綺麗な裸体に釘付けになってしまうのだが、今日はどうしてもそんな気持ちにはならなかった。
 そんな一葉を、沙霧がそっと抱きしめながら、答えは明日わかるわよと、もう考えるのは止めなさいと言ってくれる。
 沙霧の柔らかい肌に包まれながら、一葉は頷くと、そのまま沙霧の胸に頭を乗せて、沙霧に甘える。
「あら、今日は甘えん坊さんなのね」
「怖いんです。私、魔女同士の争いなんて初めてですし、自分がミスして失敗したらと考えると」
 自分のミスで、かごめを救出出来なかったら、追い詰められた可憐が最悪かごめに手を掛けてしまったら、いくら修行をしているとは言え、自分はまだまだ未熟である。
 どうしても不安が拭えない。
「大丈夫よ。一葉は一人じゃないわ」
「で、でも……」
 どうしても不安が拭えない。
「本当に怖がりなんだから」
 なら安心出来るおまじないねと言って、沙霧は一葉のおでこにキスをする。
「私が、貴女を守るわ。絶対に、だから安心して」
 その言葉とキスで、一葉はようやく落ち着く事が出来た。

かごめ救出作戦は、明朝である。
 沙霧のお陰で、一葉は眠りにつく事が出来た。
「初めてだし怖いわよね」
 沙霧自身も、初陣の時は怖かった。
 妖討伐なら怖くはないが、相手が同じ魔女となれば、話しは別だ。
 怖くて怖くて、泣きながら母親に甘えた事を思い出して苦笑い。
「貴女は、私の大切な存在。だから、絶対に守るから」
 そう言って眠る一葉に、そっとキスをすると沙霧も眠りについた。
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