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第2弾 いつか王子様が
Milk(牛乳)
しおりを挟む午後4時頃。
昼過ぎに始まるショウのキャストは早めに昼食を摂るので夕食の時間もやたらに早い。
「ビーフカレー、大盛りで~」
「あ~、俺も」
「同じく」
配膳台からカレーライスをのせたトレイを持ってテーブルに向かうメラリー、ジョー、ロバート。
「冷やしうどん下さい~」
1人だけ冷やしうどんの太田。
太田は少しバテ気味なのでカレーを食べる気力がないらしい。
避暑地とはいえ野外ステージで踊るバッキーの中は蒸し風呂なのだ。
すでに8人掛けのテーブルにはマダム、トム、フレディが座っている。
メラリーは椅子に座るなり、
「――あっ?なんか俺だけ肉が少ないっっ」
キョロキョロと左右のジョーとロバートのカレーと自分のカレーを見比べて声を上げた。
今日はいつもメラリーにオマケしてくれる配膳係のマーサおばさんが休みの日なのだ。
マーサ(山田まさえ)
「育ち盛りなのにっ。ジョーさんやロバートさんと違って、俺は育ち盛りなのにっっ」
メラリーはスプーンを振り上げて喚く。
「あ~、やる、やる」
「ほらよ」
ジョーとロバートは自分のカレーの牛肉をポイポイとメラリーの皿に入れてやる。
「……」
太田はじいっと自分の冷やしうどんを見つめた。
ワサビ。
きゅうり。
温泉卵。
わかめ。
「……」
メラリーにやる肉がなく寂しい太田。
「やた~~っ♪肉だらけ~~♪」
メラリーは満面の笑みで牛肉増し増しのビーフカレーを頬張った。
「あぁ~あ、ああやって、みんなでチヤホヤチヤホヤするからメラリーの奴が付け上がんだよ」
「だな」
トムとフレディはいまいましげにメラリーを睨んで、本日のサービスメニューのハンバーガーに噛り付いた。
「――うげ、ロバートさん、牛乳?」
メラリーが横目でロバートの前の牛乳を見た。
「カレーの時は牛乳に決まってんだろ?」
ロバートは瓶入りの牛乳をグビグビと飲む。
ウェスタン牧場の搾りたて牛乳がキャスト食堂では飲み放題なのだ。
「お前、まだ育つつもりなら牛乳を克服しろよ」
ジョーがメラリーの前に自分の牛乳を突き出す。
「……」
メラリーは顔をしかめてブンブンと首を横に振る。
「牛乳、飲めないのに牛肉は大好きなのね?」
マダムも牛乳瓶の紙キャップをネイルアートの長い爪でピンッと開ける。
「うん」
メラリーはカレーの牛肉をモグモグとしながら頷いた。
「メラリーの奴、西部劇のDVD観てもすぐ寝ちまうくせに『赤い河』だけは観てられたんだぜ~」
ジョーが言うと、
「あれは、牛がいっぱい出てくるから」
メラリーはケロッと答えた。
「ああ、キャトル・ドライブの映画ね」
マダムが言うと、
「西部劇の名作中の名作っすよ」
太田が熱っぽく目を輝かせる。
キャトル・ドライブとはカウボーイが町まで何千、何百頭もの牛を引き連れての旅のことである。
町の人々はステーキがやってきたと大喜びで、カウボーイは英雄扱いで迎えられるのだ。
「あの映画の中で観るべきところは牛じゃねえだろっ?カウボーイのチェリーだろっ?」
「チェリーだな」
ジョーが力強く断言するとロバートも共感を込めて頷いた。
「――チェリー?どんな役だっけ?」
メラリーはキョトンである。
「……」
テーブルの全員が唖然とした。
あの西部劇史上、最も格好良いチェリーに対し、なんたる暴言。
「ホンット、メラリー、呆れ果てた奴」
「だな」
トムとフレディは憎々しげにメラリーを睨み続けた。
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