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第4弾 聖なる夜に
That is troublesome(それは迷惑です)
しおりを挟むキャスト控え室。
「――はぁぁ、食あたりが上下で襲ってきたのは人生初ですよ」
息も絶え絶えにショウとパレードをなんとか切り抜けた太田は脱力してソファーに座り込んだ。
「つまり、ゲロとゲリが同時に来たってことか」
「だな」
わざわざ解説するトムとフレディ。
「――やめて下さい。せっかく遠回しに言っているのに――」
太田は力の無い声で嗜める。
誰に対しても丁寧な口調の太田だがトムとフレディとは同い年だ。
「――ほら、バッキー。梅干し番茶、飲んでおきなさい。ゆっくり少しずつね」
マダムがソファーの背凭れから太田の肩越しに梅干し番茶を差し出した。
番茶はマダムこだわりの三年番茶だ。
「梅干しはお薬なの。何にでも効く万能薬なのよ」
梅干しパワーを確信するマダムが厳選した南高梅と天日塩で漬けた手作り梅干しのおかげかショウのキャストはみな医者知らずなのだ。
「――はぁ、ありがとうございます」
太田は梅干し番茶をチビチビと飲む。
「ケロリと治っちゃうわよ」
マダムは背後から腕を回し、太田の胃腸のあたりを撫で撫でする。
すると、
「――むん?」
太田は人生始まって以来、経験したことのない異物感に顔を強張らせた。
「――あの、マダム?俺の肩にオッパイが乗っかっているんですけど?」
努めて平静に注意する太田。
「うん、重たいから乗っけてると楽チンなの」
マダムは笑顔で答える。
「や、やめて下さいっ。買ってきたスイカを荷台に乗っけて一休みのように軽々しくっ。たとえグラマー美女だろうが立派なセクハラですからっ」
太田は耐え切れずに声を荒げてマダムのオッパイを振り払った。
「おっ、元気、出たじゃん」
ジョーが太田の肩をポンポンと叩く。
「マリー~。大概にしろよ。このっ」
「あんっ」
ロバートはちょっと怖い顔をしてみせてマダムに回し蹴りする真似をした。
ちなみにマダムと呼ぶのは年下のキャストだけである。
「――ん~、マダムの梅干し、最強~~」
メラリーは壺の梅干しをつまみ食いして酸っぱい顔をした。
たっぷりダラダラとしてキャスト控え室を出たガンマンキャストと太田が廊下を進んでいくと、
「メラリーちゃん♪」
ルルが廊下の曲がり角で待ち伏せていた。
「ねっ?お弁当、どうだった?」
ルルは可愛く小首を傾げてメラリーの顔を覗き込む。
キュートとワイルドを合わせ持った仔鹿のバンビのような眼差しだ。
「――えっ?――ど、どうと訊かれても――」
メラリーは助けを求めてキョロキョロした。
「ルルちゃん、コロッケの味見しなかったの?」
マダムが困ったような顔で確認する。
「うん。だって、コロッケ、みんな油ん中でパンクしちゃって。綺麗に揚がったのお弁当に入れた2つだけだったんだもん。――あの、不味かった?」
心配そうに上目遣いで訊ねるルル。
「――んん、ん~」
メラリーは返事に窮して首を捻る。
「お、美味しかったですよ。すっごくっ」
太田が横からしゃしゃり出て、心にも無いお世辞を言った。
「――え?食べたの?」
ルルは「信じられない」という目で太田を一瞥する。
「は、はい」
ニッコリと頷く太田。
「メラリーちゃんに作ったのにぃっ」
ルルは力いっぱい叫ぶとクルッと踵を返し、廊下を走っていった。
「あ~あ、やっぱり面倒くせぇコじゃん」
ジョーはやれやれと肩をすくめる。
「ルルちゃん――」
メラリーはルルの後を追って走っていく。
「あっ、メラリー。何でっ?」
ビックリと振り返るジョー。
「メ、メラリーちゃん、ルルちゃんのこと、ホントは――」
太田は無駄に馬鹿を見ただけだったのだろうか。
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