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第6弾 日は沈み 日は昇る
That doesn't make it in time.(それは間に合わない)
しおりを挟む「はぁはぁ」
クララは長い廊下を走って託児所へ飛び込んだ。
「あっ、クララ、ちょうど良かった。手伝ってえ。壁に掛けてみたら長さが足りなかったの~」
ミーナは困り顔してクリスマス会の飾り付けの折り紙のクサリを作っている。
他の保母も子供達をトイレに連れていったり、クリスマス会の衣装に着替えさせたりと忙しい。
なにしろ保母は5人だけで託児所の子供は50人もいて、しかも、みな6歳以下で大変なのだ。
天使の衣装に着替えを済ませた子供達はそれぞれの楽器の練習中だ。
チリーン♪
チリーン♪
カレンとウルフは真剣な顔でトライアングルを鳴らしている。
「う、うんっ」
クララはテーブルのミーナの向かい側に座って細長く切られた折り紙を糊で貼っては輪っかに繋げていった。
クリスマスらしく赤と緑と白の配色だ。
(そっか。クリスマス会の本番が終わるまではバタバタでわたしの話なんか聞いてる暇なんてないじゃない)
クララは知らないうちにアランとカップルになってしまったことを考えると気が気でないが、
(取り敢えずクリスマス会が無事に終わるまでは忘れることにしよっ)
そう思った。
アニタとケントは託児所のボランティアで子供達に楽器を教えていたし、クララだってクリスマス会を楽しみにしていたのだ。
クリスマス会にはバッキー、バミー、バーバラのキャラクタートリオも参加する。
キャストと内輪だけの集まりなのでキャラクターと一緒に馬鹿みたいにふざけたポーズして写真が取り放題なので、めちゃくちゃ盛り上がる。
ウェスタン・タウンはゲストよりもキャストになったほうが楽しいと誰もが言うが、ホントにそのとおりだと実感するのがこういうバックステージのイベント時だ。
~~♪
壁のオルゴール時計が鳴って定時を報せた。
「もう30分前?間に合うかしら?」
ミーナは焦った顔になる。
クリスマス会は午後4時半からだ。
「そんなに長さが足りないの?」
クララは壁の角にぶら下がった折り紙のクサリを見やった。
たしかにずいぶんと短い。
「うん。みんなメモを勘違いして壁の長さをクサリの長さと思っちゃったの」
ミーナは吐息した。
飾り付けのクサリは半円形に垂らさなければならないのに壁の長さと同じでは長さが足りないに決まっている。
託児所の主任がおおざっぱな性質で「この長さで折り紙のクサリを作って」と保母のミーナ達に壁の長さを測ったメモを渡したので勘違いしても無理はないのだ。
「わたし、助っ人、呼んで来る。スーザンとチェルシーなんて暇そうだったし」
クララが席を立ってクルッと戸口へ向くと、
「俺、手伝いますっ」
いきなり託児所の戸口にアランが現れた。
(――ぎゃっ?アランっ?)
クララは尻餅を突きそうなほど驚いた。
アランはキャスト食堂を出たところでロビーのソファーにいたスーザンとチェルシーから「クララは託児所に行ったわよ」と教えられて来たのだ。
しかも、
「クララちゃん、これ、ありがとうっ」
アランはクララの手作りクッキーの袋を大事に抱えているではないか。
「ああっ?そ、それ、どうしてっ?」
クララは(まさか)という顔でそのクッキーの袋を二度見した。
「スーザンさんとチェルシーさんが渡してくれたんだ」
スーザンとチェルシーは「クララがアランに手作りクッキーを焼いてきたのよ~」「クララってば恥ずかしがりで自分じゃ渡せないんだから~」などと余計な気を利かせたらしい。
(あ、あの2人ぃ?何を勝手にぃっ?)
クララは憤怒で顔が真っ赤になった。
だが、アランは天然記念物乙女のクララが恥ずかしさで赤面しているものと思い込んだ。
「もったいないから1枚だけ食べたけど、すっごく美味しかった。こんな美味しいクッキー食べたことないよっ」
アランはモーレツに感激した面持ちだ。
ウェスタン牧場の新鮮な手作りバターとクララの祖母の手作り味噌と近所の農場の平飼い鶏の生みたて卵を使った最高の材料の焼きたてクッキーなのだから美味しいのは当たり前なのだ。
「あら?味噌バタークッキー?」
ミーナがテーブルの上に置かれたクッキーの袋に今頃、気付いた。
「そ、そうっ。ミーナとカレンちゃんとウルフくんにもっ。わたし、みんなにクッキー作ってきたのよ。メラリーちゃんとか、みんなにっ」
クララはあんなに喜んでくれたアランに今さら「それ、あなたにあげるクッキーじゃない」などとは言えないので、なんとか特別な意味がないことを強調した。
「――ん?」
ふと見るとアランはもうテーブルに着いて折り紙のクサリをせっせと作っている。
しかも、綺麗で手早い。
「ああ、スーザンさんとチェルシーさんならヘンリーさんとハワードさんとどこか行っちゃったよ」
アランはそう言って隣の椅子を引いてクララに勧めた。
ごくごく自然な感じだ。
(あ、あら、椅子を引いてくれるなんて、なんてジェントルマンなの)
クララはうっかり胸がキュンとした。
実はアランは騎兵隊キャストになる前は地元の温泉地で一番大きなホテルのドアマンで、今でもホテルでのバイトを続けているので習い性になっているだけだ。
「あらっ、足りなくなりそう。クララ、これ、お願いっ」
ミーナが折り紙とハサミをクララに渡す。
アランのクサリ作りが速いので細く切った折り紙が足りなくなってきたのだ。
「――あ、うんっ」
クララはアランの隣の椅子に座ると折り紙を4つ折りに細く畳んでせっせと切り始めた。
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