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第9弾 お熱いのがお好き?
I will get mad at you.(わたしはあなたを怒る)
しおりを挟む「ロバートさん、毎晩、外食って聞いてたけど、今晩は鰻っすか?」
アランが話の切り出しに分かりきったことを訊ねた。
「ああ、ウルフはまだ鰻を食べたことがないらしいんでな」
ロバート家族はクリスマスの日から毎晩、外食をしているが、回転寿司、中華料理、イタリアン、また回転寿司、また中華料理、釜飯屋、年越しの蕎麦屋、そして、今晩の鰻屋という具合だった。
そこへ、
「あのぉ?ロバートさん、すみません。一緒に写真、撮って戴けますかぁ?」
40代半ばくらいの主婦らしき4人が席を立っていそいそと近寄ってきた。
どうやら年齢的にロバート推しだったようだ。
「勿論。喜んで」
ロバートはニッコリと応じて、キャッキャッとはしゃぐ主婦らしき4人と写真を撮るために活け花の飾られた壁際の一角へ向かった。
「へへえ」
タイガーは悪役ガンマンとはいえモテモテの父親にちょっと誇らしげだ。
主婦らしき4人はロバートと写真を撮るとお会計を済ませて帰っていった。
おかげでテーブル席はウェスタン・タウンの内輪だけで気楽にのびのびと出来る。
2つある座敷はやけに静かで客がいるかどうかも分からなかった。
「あ、そうだ。クララちゃん、こないだ貰ったクッキーとブラウニー、すっごい美味しかった」
タイガーが「なっ?」とウルフに同意を求める。
「おいしかったっ」
ウルフも元気いっぱいに答えた。
「うふ、ありがとう。また作るね」
クララもニッコリする。
「ホントにお店で買うよりずっと美味しかったわ。こんなに可愛くて料理上手な娘さんと結婚前提のお付き合いなんて、あなた、果報者ねぇ」
加代が微笑みながらアランに目を向けた。
「ええまあ」
アランはデレッとニヤける。
「え?何でそれを?」
クララは誰がロバートの母親にまでそんな余計なことを吹き込んだのかと思ったが、
「ほらっ、いなご新聞っ。おばあちゃんと見てたんだっ」
タイガーがいなご新聞のアランとクララのツーショットのページを突き出した。
「――ん?」
クララはいなご新聞を手に取って二度見する。
「ああっ?」
さっきは写真しか見なかったが、よくよく見たらコメントに『タウン公認、結婚前提のラブラブカップル。今年ゴールインでーす♪』などと載っている。
(この『今年ゴールインでーす♪』って何?)
クララはクラクラした。
「な、何で、こんなコメントが?」
こんなコメントが付くなんて何も聞いていない。
「ああ、俺達にもケント達みたいにラブラブなコメントを付けて貰おうと思ってさ。あの撮影の後、広報部の社員さんに頼んだんだ」
アランは「えへっ」と照れ笑いで白状する。
「えへっじゃないわよっ」
バシンッ。
クララは怒りに任せてテーブルにいなご新聞を叩き付けた。
「な、何でわたしの知らないうちに勝手にコメントを頼むのよっ?アラン、交際宣言だってわたしの知らないうちに勝手にしたわよねっ?今日だってわたしの知らないうちに勝手にラウンジでデートって、何でわたしに断りもなく勝手に決めて、わたしより先にみんなに報告する訳っ?」
クララは立ち上がってアランに詰め寄る。
「あ、そういえば、いつもそうだったっけ?なんか、つい気持ちが先走って、黙ってらんなくて」
アランはたじたじとのけぞった。
ショウのキャストみなに結婚前提の交際だと宣言したが、考えてみたらクララ本人にプロポーズもしていないのだ。
「まあまあ、クララちゃん。なにしろアランは騎兵隊デビューでジョーの馬の走路妨害したくらいのそそっかしい馬鹿で、タウン始まって以来の馬鹿だからよ。勘弁してやってくれよ」
ロバートがよく分からない言い分で2人を取り成す。
「そそっかしい馬鹿だから?馬鹿だから仕方ないって言うんですか?だいたいショウのキャストで最年長のロバートさんがそうやって甘やかすからアランがちっとも反省しないんですっ」
クララはキッと振り返ってロバートにまでピシャリと言った。
「あ、いや、まあ、馬鹿なコほど可愛いってヤツかな?」
ロバートもたじたじとする。
「クララちゃん、強え~っ」
タイガーが歓声を上げて、ウルフは目を丸くして、祖母の加代は感心している。
その時、
「ごほんっ」
いきなり嗄れた咳払いが響いた。
「――?」
みなが一斉に振り向くと、
座敷の襖が開いて和服姿の爺さんが現れた。
座敷はやけに静かだったが爺さんが1人で食べていたのだ。
店員が棚から草履を出して、爺さんは座敷の上がり框から土間へ下りてきた。
年齢の頃は80歳前後の白髪で口髭と顎髭をたくわえた雛人形の左大臣のような立派な風貌の爺さんだ。
「――っ」
アランは爺さんを見て(マズイ)という顔になった。
「あ、騒がしくてすみません」
ロバートが慌てて爺さんにペコリとする。
「いえいえ、お気遣い戴きまして恐縮に存じます。いつも孫の新哉がお世話になっております」
爺さんはロバートに折り目正しくお辞儀した。
(シンヤ?)
クララはアランの本名すら知らなかった。
アランの本名は荒井新哉だ。
「ああ、ご挨拶が遅れました。わたしはこういう者です」
爺さんはロバートに名刺を差し出す。
「これはどうも。アランのお祖父さんでしたか」
ロバートはアランのことを『そそっかしい馬鹿』『タウン始まって以来の馬鹿』と言ったのを祖父に聞かれてしまったのかと焦ってペコペコとする。
「それで、こちらのお嬢さんが新哉が結婚前提にお付き合いしているという」
爺さんは目を細めてしげしげとクララを見た。
「あ、あの、それは、わたしは結婚前提なんて、そんなつもりはございませんので。どうぞご安心なさって下さい」
クララはまさかのアランの祖父の登場に焦りながらも結婚前提の件は全力で否定した。
「――え?やはり、先ほど怒っておいでだったように新哉が先走って勝手に決め込んだだけだと?」
爺さんはとたんに意気消沈する。
「はい。左様でございます」
クララは爺さんに合わせて折り目正しく受け答えした。
「そうでしょうな。お嬢さんのように賢くしっかりされた方がこんな軽はずみで馬鹿な新哉などと」
爺さんは残念そうに呟くと、
「新哉、騎兵隊は薄給だろうが?鰻など贅沢しおって、あまり見栄を張るものではないぞ」
そうアランを叱咤してお会計を済ませて鰻屋を出ていった。
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