PictureScroll 昼下がりのガンマン

薔薇美

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第9弾 お熱いのがお好き?

Why is it like this?(何でこうなるの?)

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 アランとクララは足早に歩いて駅前の送迎バスの停留所へ向かった。

 あと2分も待たずにタウンからバスが来るはずだ。

「まったく、クララちゃんは顔に出るんだから、鰻屋にあれ以上いたら子供のタイガーにだってバレバレだからね」

 アランがクララに見返ってたしなめる口調で言った。

「バ、バレバレって?」

 クララはドキリとして足を止める。

「ジョーさん好き好き、メラリーちゃん憎しってさ、クララちゃんの顔に書いてあったよ」

 アランはやれやれと肩をすくめた。

(な、なによっ)

 小馬鹿にしたようなアランの物言いにクララはムッとなる。

 鰻屋で馬鹿呼ばわりした仕返しかと思った。

(やっぱり、アランってば、わたしのジョーさんへの気持ち、気付いてたのね)

 クララはそうだろうとは思っていたがハッキリと指摘されると屈辱的な気分になる。  

 さらに、

「恋する乙女の夢を壊すようで悪いけど、だいたいクララちゃんがジョーさんの特定の彼女になれる確率は0パーセントだから。両想いになれる見込みもないのにいつまでも片想いとか時間の無駄だからね」

 アランは何の根拠があるのか知らないがハッキリと断言した。

 彼女になれる確率0パーセント。

(そこまで低い確率?)

 クララはカアッと頭に血が昇る。

「だから何よ?わたしの夢がそんな簡単に壊れると思ったら大間違いよっ。わたしはいつまでも諦めないのっ。わたしがおばあちゃんになって、ジョーさんがおじいちゃんになってからだって両想いになれるかも知れないんだからっ」

 ムキになって一息に捲し立てた。

「――クララちゃん」

 アランは唖然とした。

 開いた口が塞がらなかった。

 そこまでスケコマシのジョーに執着するクララが正気とは思えない。

(このクララちゃんのどうかしている心をマトモに戻してやれるのは自分だけかも知れない)

 そう使命感に燃えた。

 そして、

 アランはまた性懲りもなく先走った。 


「――クララちゃん」

 おもむろにアランはクララの前に片膝を突く。

「ひょっ?」

 クララは思わず後ろに飛び退いて素っ頓狂な声を上げる。

 男が女の前に片膝を突いたらプロポーズと決まっている。

 アランはキラキラと熱っぽい眼差しでクララを見上げて右手を差し出し、

「結婚して下さいっ」

 駅前の通行人が振り返るほどの大声を響かせた。

「ちょ、ちょっと、何なの?結婚前提なんて聞いてないって、わたし言ったじゃない?」

 クララはまさかのプロポーズに混乱した。

 何故、このタイミングなのか意味が分からなかった。

「だから、順番を間違えたから、今、ちゃんとプロポーズしているんじゃないか」

 アランは真剣にクララを見つめる。

「え?ええ?」

 クララは焦ってアランの視線を避けるようにキョロキョロした。

 いつの間にか駅前の通行人が足を止めて2人に注目している。

 みな中高年の温泉客で酒が入ってご機嫌にノリが良く、「ひゅうひゅう」「いいぞっ」「よっ、ご両人っ」などとはやし立てた。

(やだ。やめてよ。見世物じゃないわよ)

 クララは恥ずかしさで居たたまれない。

「……」

 アランは片膝を突いたまま右手を差し出し、クララをじっと見上げて返事を待っている。

 通行人も冷やかすのをやめて固唾を呑んでクララの返事を今か今かと期待いっぱいの表情だ。

(やだ。みんな見てる)

 こんな状況でどうして断われようか。

 なによりもここで断ってアランに恥を掻かせて自分が悪者になるのがイヤだった。

「――はい」

 クララは半泣き顔してアランの右手を取った。

「やったーっ」「おめでとーっ」「ひゅうひゅう」

 通行人から拍手と歓声が沸き起こった。

「――くぅ」

 クララは涙が出てきた。

 通行人はみなクララが感動して涙ぐんでいると勘違いしているようで、ますます拍手が鳴りやまない。

(や、やめてよ。は、早くバスにっ)

 すでに着いていたタウンの送迎バスにクララは逃げ込むように飛び乗る。

「――あ、クララちゃんっ」

 アランもクララに手を引っ張られて飛び乗った。

 通行人の拍手に送られてバスが発車すると、

「馬鹿ーーっ」

 ボカッ!

 クララは拳骨で思いっ切りアランの顔面を殴り付けた。

「ぐあっ?」

 不意討ちのパンチにアランはよろけて座席に尻餅を突く。

 鼻血がポタッとブルーグレイのスーツのズボンの膝に落ちた。

「ぶふっ?ゴードンさんに借りたスーツにっ」

 借り物の高価なスーツを鼻血で汚してはならない。

 アランは慌てて両手で鼻を押さえて前屈みになる。

「おいおい?どしたんだよ?」

 ドライバーのカールがいったい何事かという顔で運転席からアランにティッシュの箱を投げてよこした。

「すびばせん」

 アランはあたふたと鼻の穴にティッシュを詰める。

「だ、だって、アランが馬鹿だからっ」

 クララはバスの乗客が自分達だけなのを幸いと後部座席に身を投げ出して泣き崩れた。

「わああああっ」

 重ねた腕に顔をうずめて泣き喚く。

(アランの馬鹿っ)

(公衆の面前でプロポーズなんかしてっ。断れる訳ないってのっ)

(許さないからっ)

 悔し涙が止まらない。

 クララは自分勝手で馬鹿なアランをギャフンと言わせてやらねばと思った。



 あくる日。

「皆さんにご報告がありま~す」

 クララはキャスト食堂で配膳台の前に立つと、

「わたしクララは騎兵隊キャストのアランとのお付き合いを解消することにしました~」

 明るくさっぱりした顔でそう報告した。

 まさかの破局宣言だ。

「えええ~っ?」

 ショウのキャストはみなビックリと声を上げる。

「きゃああああ~~♪」

 フレンチカンカンの踊り子は喜んで歓声を上げる。

「ホントかよ?」 
 
「マジ?」

「何で?」

 騎兵隊キャストのマーティ、ヘンリー、ハワードが信じられないようにアランを見た。

「ク、クララちゃんっ?俺は何も聞いてないよっ」

 アランが血相を変えて立ち上がる。

「ええ。あなたの知らないうちに勝手に決めました」

 クララは嫌味たっぷりにそう言うとツンと顔を反らしてキャスト食堂を出ていった。

 目には目を歯には歯をだ。


「たしかに夕べ、鰻屋で2人が揉めたけど、まさか破局とはな~」

 ロバートは嘆息する。

「あら?2人が揉めたって?」

「ねぇねぇ?何で~?」

 マダムとタマラは興味津々に身を乗り出す。

「ふぅん?ま、どうせ別れるなら早いうちで良かったんじゃん?」

 ジョーは素っ気ない。

「ねぇ?2人が付き合ったのってクリスマスイブのダンス大会からじゃなかったっけ?」

 メラリーが太田を見やる。

「ええ。わずか10日目で破局ですね」

 太田が指折り数える。

 まだダンス大会から10日しか経ってなかったことにも驚きである。


「――破局?」

 アランはクララにしてやられたと思った。


「――愛は平和ではない。愛は戦いである――」

 ゴードンが『愛と誠』の冒頭の一節を呟いた。

(そうか。何でか分からないけど、これはクララちゃんと俺との戦いだ)

(何でか分からないけど、戦いなんだ)

(何でか分からないけど――)

 アランは負けるものかと目の中の炎をメラメラと燃やした。
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