250 / 297
第12弾 ショウほど素敵な商売はない
I tame a complaining woman (わたしはじゃじゃ馬を馴らします)
しおりを挟む「――何で?何でメラリーちゃんとジョーさんが後ろに隠れちゃったの?」
クララは誰に訊ねるでもなくキョロキョロした。
いくら最前列でも観客席からは曲走路の内側に集まって見物しているキャストの会話は聞こえないので訳が分からなかった。
太田の応援に来たのは口実で実際はジョーを見るために来ているクララなのだからジョーの姿が見えなくなっては困るのだ。
「ああ、バッキーの引いてきた馬はジョーさんがショウで乗ってるダイヤって馬なんだけど、メラリーちゃんのことが大嫌いなんだよ」
「ダイヤがメラリーちゃんに気付くと機嫌が悪くなって暴れるから隠れたんじゃないかな」
「ジョーさんも隠れたのはダイヤはジョーさんが大好きだから」
「ダイヤはジョーさんを見つけたら後を追い掛けちゃうんだよ」
バミーとバーバラがそう説明した。
「そうなのね」
(メラリーちゃんのことが大嫌いで、ジョーさんのことは大好きで後を追い掛けてしまうなんて、まるで、わたしみたいだわ――)
クララには馬のダイヤがとても他人とは思えなかった。
(そもそも馬だから他人じゃないけど)
(けど、ダイヤはショウではジョーさんの大事なパートナーなんだし)
(わたしなんてジョーさんにとって何でもないんだから――)
馬のダイヤ以下の無用の存在。
クララは馬にさえ負けているのだと思った。
「8番スタート!」
順々に候補者が出走していく。
「あ~、どんどんバッキーの順番が近づいていく」
「バッキーの奴、スタートでいきなり落馬したらどうするよ?」
「騎兵隊キャストはみんなバッキーに票を入れるつもりだろうけど、さすがに落馬した奴が合格したら他の候補者から大ブーイングだよな」
先住民キャストは為す術もなく、ただジリジリと気を揉んでいる。
ダイヤはジョー以外の人間が乗れば暴れまくってロデオ大会のブル・ライディング(暴れ牛に乗る競技)状態になるような馬なのだから。
「ねえ?バッキーが不合格でも『アパッチ砦』で残念会するんだよね?」
メラリーは早くも太田がスタートで落馬するものと決め込んだ。
べつに祝勝会が残念会になってもインディアン料理さえ食べられたらいいという口振りだ。
「ああ、うちの店を貸し切りで予約したんだからキャンセルなんかさせねえからな」
レッドストンが厳しく言い渡す。
「ねえねえ?レッドストン、ナバホシチューは?ちゃんと美味しく作ってある~?」
メラリーは「ねえねえ?」でレッドストンの羽根飾りの垂れ下がった先っぽを掴んで神社の拝殿の本坪鈴のように左右にジャラジャラと振った。
「――ちゃんと美味しく作ってあるぜ」
淡々として答えながらもレッドストンのこめかみにピクピクと青筋が立った。
「メラリーってホント恐れ知らずだよな」
「レッドストンにもタメ口で、あのエラソーな態度」
「ホント、計り知れない奴」
先住民キャストは呆れた口調でも実のところロデオ大会のブル・ライディングで初出場のメラリーが優勝して以来、メラリーには一目置いていた。
「ダンさん?どうっすかね?バッキーは」
ジョーは思案顔で先住民キャストの足の間からダンを見上げる。
「う~ん、バッキーとダイヤの相性はこの上なく良いはずなんだ」
ダンは語気を強めて続けた。
「よく気性の穏やかなライダーには気性の荒い馬。逆に気性の荒いライダーには気性の穏やかな馬が最適な相性と言われるからね。同じ性質のライダーと馬の組み合わせではどうにもならないんだ」
前述のとおり、ウェスタン馬術では馬がライダーに支配されずに自分で考えて動くように調教されているので馬の自由度が高い。
要するに馬の気分次第なのだ。
「ああ、だから、メラリーの乗る馬にはおとなしいパールって訳だな」
ジョーが横のメラリーを見返る。
「うひゃひゃっ、それじゃダイヤに乗ってるジョーさんの気性が穏やかみたいじゃん?」
メラリーは笑い飛ばす。
「お前にそういう口の聞き方を許しているくらいジョーの奴は気性が穏やかなんだよ――」
レッドストンがボソッと呟く。
本来なら生意気なメラリーにボカッと鉄拳を食らわせてやりたいのだが、ジョーよりも器の小さい男には見られたくなくてレッドストンはこめかみに青筋を立てながら辛抱しているのだ。
一方、
「12番スタート!」
「13番スタート!」
太田の順番が刻々と迫っていた。
「ダイヤ~?曲走路をたった3周するだけですから~。実技審査が終わったらジョーさんがいくらでも遊び相手になってくれますからね~」
太田は馬のダイヤに通じると信じて言葉を掛け続けている。
「14番スタート!」
いよいよ次だ。
「たった3周ですよ~。スタートでキミがなかなか走り出さないと時間を無駄にしてジョーさんと遊ぶ時間が遅くなるだけですからね~」
内心の焦りを隠してダイヤを押さえ込むように馬の首に両腕を回して馬の耳元で囁き続ける。
やっぱり、ウェスタンのブロンコ(野生馬)で賢いダイヤは太田の言葉を理解したかのように落ち着いてきた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる