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第12弾 ショウほど素敵な商売はない
Storm in a Teacup (コップの中の嵐)
しおりを挟む「もうっ、このコったら、3月いっぱいで契約満了だったのよ?――それなのに妊娠したなんてっ」
サンドラが苛立たしげに吐き捨てる。
「――え?」
とたんにマダムの顔も曇った。
「レイチェル、あなた、結婚でいったんはカンカンを辞めてもカミラやリズみたいに2年くらいで復帰したいって言ってたんじゃないの?」
マダムは切なげに眉間を寄せる。
「分かっているだろうけど、契約満了せずに途中でクビのキャストに復帰はないからねっ」
サンドラが厳しくレイチェルに引導を渡した。
「――う、うわあああ――っ」
レイチェルは号泣しながら廊下へ駆け出ていく。
「レ、レイチェル――」
アーサーがうろたえて追いかけていった。
一方、
「ああ、駆け回ったら喉カラカラ」
「真冬に汗ばむくらいよ。まだ休憩15分あるからアイスクリーム食べたい」
アランとクララは仲良く手を繋いでバックステージの建物へ戻ってきた。
そこへ、
「うわああああ――っ」
「レイチェル、走ったら危ないっ」
ただならぬ様子のカップルが前方からものすごい勢いで駆け抜けていった。
バコッ!
「わっ」
アランが手に持っていたバスケットにぶつかって弾き飛ばす勢いだ。
「な、なに?」
アランとクララは呆然と振り返る。
「おいおい、笑いながら追いかけっこのカップルの次は泣きながら追いかけっこのカップルか?」
後から戻ってきたロバートも自分の脇を駆け抜けていったカップルに呆れ顔をした。
キャスト食堂にはどんよりと重たい空気が漂っていた。
この時期のタウンでは勤務態度など様々な理由で契約を打ち切られるキャストが人目も憚らず号泣というのはよく見る光景だった。
「ええと、レイチェルって――」
すこぶる記憶力の良いメラリーは横目でジョーをチラッと見た。
たしか、レイチェルはジョーのハニーだった。
ハニーだったのは一昨年までのことだが、その後にアーサーと付き合い始めたのだろう。
「――メラリー」
マダムが(余計なこと言わないのよ)という怖い目でメラリーを睨み付ける。
自分のハニーの名前をいちいち覚えていないジョーはむしろハニーにとって都合が良かった。
「――」
ジョーは頬杖を突いてゲンナリ顔をしている。
そもそも男女のこういうゴタゴタが面倒で心底イヤだから避妊手術までしてスケコマシに徹しているジョーなのだ。
「レイチェル、あと2ヶ月で契約満了だったのに――」
「結婚して子供が出来ても2年くらいでまた絶対にカンカンに復帰するって言ってたのに――」
バミーとバーバラは心痛の面持ちで声を落とした。
契約の途中でクビになったキャストは復帰しようとオーディションを受けたところで必ず落とされて二度とチャンスはないのだ。
「プロ失格よっ。何で避妊しないのよっ」
サンドラは怒りが収まらずギロッと騎兵隊キャストのテーブルへ振り返り、
「だいたい、マーティ?リーダーのあなたからして出来ちゃった結婚だったわね?リーダーがそれだから他の隊員に示しが付く訳もないし、騎兵隊の風紀が乱れきってるんじゃないのっ?」
片手を腰に当て、片手でピシッとマーティの顔を指差し、リーダーのマーティを狙い打ちに責め立てた。
「――す、すみません」
マーティは反論する余地もなく、ただ頭を下げて謝るしかない。
「先住民キャストを見なさいよ?出来ちゃった結婚どころかリーダーのレッドストン以下、誰一人、彼女もいやしないじゃない?それなのに、騎兵隊キャストときたら何よっ」
サンドラはたんにモテないので彼女がいない先住民キャストを引き合いに出し、騎兵隊キャストをこれでもかと責め立てる。
「サンドラ、八つ当たりみたいよ?」
マダムがやんわりと嗜めた。
「だって、レイチェルには期待していたのに。あああ――」
サンドラはガックリと座ってテーブルで頭を抱えた。
「もう今日のショウからレイチェルが抜けるならダンスの編成を組み直さないとだわね」
マダムはサブリーダーのアンとリンダとさっそく変更の打ち合わせを始めた。
タウンのオープンからいるアンとリンダはカンカンの踊り子が妊娠して抜けるのは何度もあったことなので対応には慣れていた。
「まったく、余計な仕事を増やさせないでちょうだいっ」
短気なゴードンは(ただでさえ忙しいのにっ)とイライラを募らせていた。
「ゴードンさん、面接日のスケジュール表です」
ゴードンの秘書のキャロラインがA4用紙をヒラヒラさせてキャスト食堂にやってきた。
「――あ、その辺の壁に貼ってちょうだい」
ゴードンはぞんざいに顎で壁を差す。
「カレンダーの横に貼りますね」
キャロラインはテキパキと壁にスケジュール表を貼ってオフィスに戻っていった。
ガラガラ、
ガラガラ、
長い廊下を早足のキャロラインとすれ違いにショウのコスチュームを掛けたラックを押しながらアニタが通っていった。
ランドリーからコスチュームを運んできたのだ。
キャストはみな思い出したようにショウの身支度のために席を立つ。
メラリーはキャスト食堂を出る際に壁のスケジュール表の前で足を止めた。
(契約更新の面接日、ガンマンキャストは初日の2月1日か。今日が26日だから、あと6日――)
何やら深刻に眉間に皺を寄せてから、
(いや、もう決めたしっ)
迷いを振り払うようにブンブンと頭を振る。
この1ヶ月、メラリーはずっと密かに決意していたことをとうとうショウ担当のスーパーバイザー、ゴードンに話さなくてはならない日がやってくるのだ。
いつでも短気なゴードンだが、よりによって多忙でイライラと機嫌が最悪なこの時期に。
「――」
メラリーは戦々恐々としていた。
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