おじタン、ほぼムス。

流々(るる)

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第一章 謎の男

第五話 しっかり者、ユウキちゃんの推理

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 わたしと向き合うようにソファへ座り直したユウキちゃんが、リストラ説を話し始めた。

「毎日区役所そこへ来てお弁当を食べるってことは、他に行くところがないからでしょ」

 そこが一つのポイントなのよね。
 やっぱ会社には行ってないってことなのかな。

「しかもコンビニ弁当だし。奥さんの手作りなら愛されてるなぁって感じだけど、家に帰っても相手にされてないんだよ」
「そうだよね、きっと」

 そう考えるのが普通だよなぁ。
 答えとしては、つまらないけれど。
 ん? また不満そうにしている人が一人いるみたい。とりあえず無視しておこう。
 
「サラリーマンみたいな服装にわざわざ途中で着替える訳ないから、家からその格好で出掛けてるはず。きっと奥さんにはリストラされたことを話してないんだね」
「やっぱ、話してないのかぁ」

 あの人が家を出るときの哀愁漂う後姿が目に浮かぶ。
 ここからユウキちゃんとのトークが盛り上がってきた。

「仕方なく、会社に行く振りして家を出る」
「行くとこもないから、ぶらぶらして過ごすんだ。ずっと山手線に乗ってたり」
「何周もするの!? マジそれはないわ」
「お昼くらい、ゆっくり座って食べたくなるよね」
「ファミレスじゃお金が掛かっちゃうから、コンビニで買うんだ」
「区役所ならただで座れるし」
「あの台ならテーブル代わりに出来るし」
「ひょっとしたら、N〇Tをリストラされたのかも! だから電話が置いてあった台にこだわってるんだよ」
「えー、それってマジに可哀想すぎるー」
「そのうち奥さんにもバレちゃうよね……」
「どうするんだろう……」

 悲哀に満ちた孤独なあの人へ、わたしたちが思いを馳せたところで一段落。


「面白くはないけど、これが正解なのかなぁー」

 ソファの背にもたれて両手を上げ、伸びをした。
 そこに立っているおじさんと目が合う。

「せっかくの推理に水を差すようだけど、トイレを使いに来た件は?」

 お、また探偵っぽいことを言ってる。

「あれはたまたまなんじゃない? 毎日、五時頃に来るわけじゃないし」
「わたしもそう思うな」

 ユウキちゃんも同意してくれた。

「トイレを借りに来た時刻が意味を持つとしたら?」

 トイレに来た時間に意味なんてあるの?
 したくなったから来たんでしょ。なんか思わせぶりだなぁ。
 おじさんは何か言葉を待つようにあごをくいっと上げた。


「何、そのドヤ顔。ヤな感じー」

 思わず目を細めて視線をおじさんへ向ける。
 まさか……。

「えっ、ひょっとしておじさん、分かっちゃったの?」

 ユウキちゃんも何か感じたのか、座ったまま身を乗り出した。

 まさかね。
 わたしが知ってたことなんて、あれだけしかなかったのに。
 売店のおばさん達とも色々考えて分からなかったのに、こんなすぐにあの人の正体を当てられるはずがない。 

「うん、俺なりの推理はしたよ。あとは区役所付近の地図を確認して――ぇげっ!」
「ちょっと待ったぁーっ! まだ推理は尽くされてないよ」

 腹パンした勢いをそのまま、立ち上がる。
 そんな簡単に答えが出ちゃったら面白くない。
 

「まさか異世界の住人だったとはね。やっぱりあそこは異世界へのゲートだったのよ!」
 こうなったら、わたしの妄想パワーを見せつけてやるさ。
 心の中でそっと呟いた。
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