おじタン、ほぼムス。

流々(るる)

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第一章 謎の男

第九話 帰り道

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 事務所へ帰るバス停に向かって二人で歩いていく。
 謎の男の正体も分かったし、締めの腹パンも出来たし、気分はすっきり。

「ユキさん、安心するね」
「ストーカーじゃなくって良かった、ってな」

 わたしが狙われてるんじゃないかって、本気で思ってるみたいだからなぁ。それだけ心配してくれているのはありがたい話だけれど、あまり気にし過ぎないで欲しい。
 口数は少ないけれど素敵なおじいさんだから、負担に思いたくないんだよね。おじさんからそれとなく言ってもらおうかな。

「ユウキちゃんは今日の学校帰りに寄るって言ってたよ」
「そうか」

 実はユウキちゃんのリストラ説が正解かなと思ってた。年下だけど、しっかりしてるからね、彼女は。
 わたしが暴走しても冷静に止めてくれる。
 おじさんの推理にもきっと納得してくれるだろう。
 
「こうして分かってみると、やっぱつまんないなぁ。謎の男のままでも良かったかも」

 思わず長い溜息をついた。
 正体が分からないからこそ、色々な妄想が出来て楽しかったのに。

「そうそう朋華が思うようにはならないさ。現実はこんなもんだよ。だから、色々な妄想や異世界への話は自分で小説にしてみればいいのに。文字にしていく作業も、絵を描くのと同じできっと楽しいぞ」
「そんなの書いたって、どうせ誰も読んでくれないもん」

 うまく書けるかどうかの前に、誰かに読んでもらえる気がしない。
 友達に見せたってバカにされそうだし。


「俺が読むよ」
 さらっと一言、立ち止まることなく、わたしの方を見ることもしない。


「あーっ!」

 わざと大きな声を出してみた。

「どうした!?」
「お腹減ったー」
「驚かすなよ。何か食べてから帰るか?」
「うん。近くに行列ができる洋食屋さんがあるんだ」

 今日のランチはおごってもらえそう。
 おじさんの腕を取り、引っ張っていく。
 自然と笑顔になってしまうのはテンションが上がったからかな。
 ちょっとだけ、ほんとにちょっとだけね。



 ―第一章「謎の男」  終わり―
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