おじタン、ほぼムス。

流々(るる)

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第二章 凶器はどこへ

第六話 発想力と行動力

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「隠していたのは二人が立っていたここ、廊下だったんだよ。俺たちが向こうから見たとき、ここにいたのは隠し終わったばかりだったから」

 ここ!? 廊下になんて隠せる場所がないよ。

「みんなでやって来たとき、から見つけられなかった。ということは……」


 一瞬、みんなで顔を見合わせるような間があった。そして――

「上だ!」「あっ、あそこにあった!」「本当だ!」

 女の子たちが指さした先には、二つ並んだ賞状用のフックへきれいに収まっている黒い棒があった。
 おじさんがひょいっとジャンプして片手を伸ばし、下から持ち上げるように棒を取る。

「これ旗棒だよね。たぶん校旗に使ってたやつじゃないかな」
「あっ、それで記念室ね! 今日は鍵がかかっていなかったから……」

 わたしの言葉にキョースケ君がうなずいた。

「教室からここへ来た時は梁の裏側なんて気にしてなかったからね。俺も気付かなかった」


「理科室の中のことばかり意識してたからかぁ」

 急いでたし、向こうから来ると死角になって見えないしね。
 感心しながら上を見る。

「でも、どうやって……わたしだってフックには届かないよ」

 高校生になって百七十センチ程に背が伸びたわたしでも、あのフックに棒を隠すことは出来そうもない。
 ましてや小学生二人には無理でしょ。

「俺がジャンプして、やっと届くくらいだからね」
「投げたのかな」と、メイちゃん。
「そんな上手くいかないよ」リンちゃんはクール。
「えー、わかんない」ナツキちゃんはお手上げ。

 あーでもない、こーでもないと女の子たちはわいわい盛り上がり始めた。


「おそらく、肩車したんじゃないかな。そうでしょ?」

 証拠も見つかってすっかり観念したのか、おじさんの言葉にキョースケ君がうなずく。でも――

「いくら体が大きいからって、かなりきついんじゃない? 立ち上がるのが難しいでしょ」
「朋華がそう思うのも無理ないよ。二人はちょっと工夫したんだ」
「工夫って?」
「水飲み場の流しの縁にタケル君が棒を持って立ち、そこにキョースケ君が頭を入れて肩車したんだと思う」

 二人の驚いた様子を見ると、おじさんの推理が正しいんだな。

「そうすれば立ち上がるのも楽だし、二メートル近い大男が出来上がるから、棒をフックの所に掛けるのも簡単さ」


 おじさんがあらためて二人の方へ向き直る。

「照明を割ったのは君たちだよね」
「はい」「そうです」

 今度は黙秘権を使わないみたい。

「ここに隠したから、見つかってしまわないか心配で廊下にずっといたんだね。隠し場所を思いついたのは?」
「……僕です」

 小柄なタケル君が視線を外しながら答えた。怒られると思っているみたい。

「それじゃ、肩車もタケル君が?」

 タケル君が横目でキョースケ君を見た。

「それは俺です」

 きちんとおじさんを見て、キョースケ君が答える。
 それを受けてタケル君が話し出した。

「僕があそこに棒を隠そうって言ったけど、流しに乗っても届かなくて……。そうしたら、キョースケがそのまま肩車してくれたんです」
「俺の方が力があるし……」
「そうか。それじゃ、おじさんから君たちに言うことがある」

 二人が身構えた。


「とっさに棒を隠す場所が閃いたタケル君の発想力は素晴らしいと思う。方法が行き詰った時のキョースケ君の行動力もお見事。これからはその力をもっと他のことに活かすようにしてね」

 怒られるとばかり思っていた二人は、また驚いている。
 正直、わたしも驚いた。

「自分たちで先生の所へ行って話をして、しっかり怒られておいで」

 すぐに二人は職員室へと駆け出していく。
 そこへタイミングよく二十分休みの終わるチャイムが鳴った。
 男の子たちの後ろ姿を見送って振り返ると、リンちゃんが、ふぅんと言ってニヤリとしている。
 直訳すると、「おじぃ、なかなかやるじゃん」といった所かな。



 あのあと四年生、五年生の授業を見てから小学校を出た。おじさんから借りているマフラーを巻いて駅へと向かう。
 今日は駅ビルのレストラン街でランチをおごってもらうつもりだ。
 校庭沿いの道をおじさんと並んで歩きながら、ふと聞いてみたくなった。

「あの男の子たち、もう悪戯はしなくなると思う?」
「どうだろうなぁ。そうなるといいけれど」
「きっとそうなると思うよ。うん。」

 風が強く吹いている。
 マフラーに顔をうずめて首をすくめて歩いてしまう。
 それでも気分が良くて、自然と笑みがこぼれる。

「何をご馳走してもらおうかなぁ。この前の天ぷらもいいけど――やっぱり、オムライスがいい!」

 おじさんと腕を組み、引っ張るように駅への道を急いだ。



―凶器はどこへ  終わり―
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