聖女と呼ばれておるが、ワシは剣客じゃよ? 乙女となった御隠居剣豪

若年寄

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聖都スチューデリア編

第弍百伍拾参章 魔王禍

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 だがアポスドルファが直接手を下すのではそれこそ信徒が滅亡しかねない。
 何より厳しすぎて信徒が星神教から離れてしまっては本末転倒だ。
 そこで目をつけたのが遙か地底で燻っている魔物達であったそうな。

「魔界からの侵略ならってこってすよゥ。魔王を暴れさせるだけ暴れさせて人口がに近付いたと判断されると勇者を投入して事態を鎮火させる。この巫山戯た出来レースを『魔王禍まおうか』といいやす」

 五百年前に地上を席巻し勇者シュタムに斃された魔王もまた神々による指図で動いていたに過ぎなかった。

「では百年前に世界を滅亡させようと復讐戦争を仕掛けたクシモも『魔王禍』だってのかよ? そんなくだらねぇ事でアルウェンやオボロは巻き込まれた。そう云いたいのか?」

 かつてアルウェンが火の大精霊と契約する際に力を貸し、その後は淫魔王クシモを斃す為、正式にパーティーの一員となって戦った聖女ベアトリクスの目に剣呑な光が宿る。
 敬愛する友が命懸けで戦ったというのに、それが神々の自作自演だったなんてあんまりではないか。
 何より眷属の復讐の為に立ち上がったクシモが不憫でならない。

「ああ、あれはガチの復讐でやす。神々のじゃあ御座ンせんや」

 人口と文明の調節という使がある魔王は簡単に斃されないようガイアレスの住人に対する絶対的な力も与えられており、それを打倒する為にの影響を受けない異世界より勇者を召喚しているのだそうな。
 『魔王禍』を知るクシモは周到に星神教の神官達を堕落させて力を削いでいき、水面下で力を蓄えたのちに侵攻を開始している。
 神々がクシモの動きに気付いた時には神官達は吸精鬼サッキュバスにより堕落しきっていた為に異世界から勇者を召喚する力も技術も廃れてしまっていたという。
 その為に当時の地上で一番の才覚を持つアルウェンに白羽の矢を立てたのだが、長年の迫害によりアルウェンの心は荒みきっており人間どころかエルフとドワーフの滅亡が迫っているにも拘わらず真剣に動こうとはしなかったらしい。
 結局、彼女が動いたのはクシモの侵略から一年以上も経って漸く堕落から立ち直った星神教により召喚された少年、三池おぼろと出会ってからだそうな。

「じっくり修行や冒険を経験させて朧少年を鍛えてから魔王を打倒しうる聖剣を与えるはずじゃったが、人口の調節どころか人類が滅亡しかねぬ緊急事態という事もあってか、召喚されていきなり聖剣を授けられたのが親父殿の不幸だと月弥もぼやいていたわえ」

 神器という文字通り神の力を宿す兵器を与えられ、才覚と実戦のみで強くなった朧少年は道場で弟子に伝えるべき理論を持ち合わせておらず、師としての指導力が下の下となってしまった事は息子である月弥をして軽蔑している部分ではある。
 しかし状況的に仕方の無い事であったのは今では理解しているし、武器を通り越して兵器と呼んでも差し支えない神器を幼い頃に与えられてなお力に溺れる事無く、決してブレる事のない正義感により勇者の使命を遂行した事実については尊敬しているという。
 何より混血児として迫害されて荒んだアルウェンの心を解きほぐした優しさは本物であり父親として愛してくれる朧を月弥もまた愛していた。

「『魔王禍』を熟知して勇者の召喚を遅らせたクシモ様の勝利かと思いやしたがね。朧様はアルウェン様だけでなくクシモ様にもそりゃあお優しかった。二人を分断させる為に両性具有の魔神の御姿で誘惑を仕掛けるクシモ様にお二人は抵抗するどころか、逆にクシモ様をお慰めなすったそうですぜ。クシモ様の過去に同情して懸命に慰撫するお二人にクシモ様も絆されつつありなさった。淫魔王を地母神に戻した功績は教皇ミーケ様にありやすが、切っ掛けは既にクシモ様の中に芽生えていた事は云うまでもねェ事でさ」

「地母神様、朧様、アルウェン様の間にそのような事があったとは」

 ローゼマリーは勇者としてクシモに勝利したアルウェン達を勿論尊敬していた。
 愛する教皇ミーケの両親である事もそうであるが、かつて先祖が仕えていた地母神の暴走を止めてくれた事に感謝もしていたのである。
 しかし、それ以前にその優しさによりクシモの心を絆していたとは想像もしていなかった事だ。
 ローゼマリーは改めてアルウェン達に崇拝の心を確かめると同時に、復讐の為に怨敵に体を開いた自分が情けなく思うのであった。
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