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クロエは我慢しすぎている
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クロエは過去の悲しい経験を父に語りながら、ふと思った。
レオナルドの屑っぷりがさらにひどくなった原因として、クロエのこの過剰なまでの我慢にあったのかもしれない、と。
前世の記憶が蘇った今なら客観的にクロエの行動を顧みることが出来る。
明らかにクロエはレオナルドに対して我慢をしすぎている。もっと自分の意見を口にして、あの勘違い男に立場を分からせてやるべきだった。
それができなかった理由は三つ。
ひとつは、レオナルドに嫌われたくなかったこと。
もうひとつは、自己保身──口にすれば自分が惨めになり、相手の悪意を直視せざるを得なくなる。それが、ただ怖かった。
最後のひとつ、それは、クロエが必要以上に自分を抑え込んでしまう──そんな性格ゆえだった。
(それでも母親には子供らしく我儘を言っていたようだけど、父親には一切言っていないわ。我儘を言って、嫌われるのが怖かったから……)
過去の記憶を辿ってみても、クロエが父親に我儘を言った形跡がひとつもない。子供であれば親に我儘を言うのは当たり前のようにあるものだが、そういった思い出はひとつもないのだ。彼女は幼少の頃から立派な跡継ぎとなること、そして立派な淑女となることだけを父親から望まれてきた。おそらくはそういった環境のせいで我慢することが当然になってしまったのかもしれない。
ドレスの件も、自分が我慢すれば済むことだと思い何も言わなかった。
まるで、そうすることこそが『正しい』と信じ込んでいる。
そういう場合は怒っていいのだと、我慢せずに文句を言っていいのだと、クロエは知らない。父親も、家庭教師も、クロエに”我慢”しか教えていないから。
(なんだか段々と腹が立ってきた。クロエがこんなにも自分を抑え込む子になってしまったのはこいつのせいじゃない? 親なら子供に自分の意見を言う大切さを教えてやりなさいよ……!)
目の前の父親を睨みつけてやると、彼はビクッと肩を揺らした。
前世の記憶が蘇ったから目の前の人物がいまいち父親だと思えないのかと思ったが、多分そうではない。もともとこの二人には親子としての絆のようなものが形成されていないのだ。
だから先程「どうして言わなかった」と聞かれても、「お前が言うな」としか思えない。
そういうことを言い合えるような信頼関係を築いていない相手に相談できるわけがないだろうが、と。
クロエにあんな屑を宛がってきたのは誰だと言ってやりたい。
あ、言ってたわ、そういえば。
「……私からリンデン家に正式に苦情を申し伝える。子息の件についても、きちんと話をしてこよう。」
「いえ、必要ございません。それだけで改心するとも思えないので、結構でございます」
自分の提案をばっさりと切り捨てる娘に、公爵はただ唖然と目を見張った。
かつては素直でおとなしかった娘がこんなにもはっきりと物を言うなど——信じられぬ思いで視線を向ければ、そこには酷く冷めた青の瞳があった。
「……クロエ…………」
「最初の頃は”完璧”と思わせるほどの貴公子だったレオナルド様がこんな失態を犯す阿呆に成り下がってしまったのは、ひとえにわたくしの過剰ともいえる我慢が一因なのかと思うのです。何をしても文句を言わないわたくしに甘え、持ち前の傲慢さが段々と増長してしまったのでしょう。ならば、それはわたくしの責任も同然。けじめはわたくしがつけましょう」
もう”クロエ”に我慢などさせてたまるものか。前世の記憶が蘇った今であれば我慢をする理由などひとつもない。
レオナルドにも父親にも、嫌われようがどうでもいい。赤の他人である屑と、父親とは名ばかりの関係が希薄な中年に好かれなくて何だと言うのだ。
「けじめって……どうするつもりだ?」
いつもの威厳に満ちた姿からは想像もつかないほど縋るような目を向けてくる父にクロエは静かに嗤った。
レオナルドの屑っぷりがさらにひどくなった原因として、クロエのこの過剰なまでの我慢にあったのかもしれない、と。
前世の記憶が蘇った今なら客観的にクロエの行動を顧みることが出来る。
明らかにクロエはレオナルドに対して我慢をしすぎている。もっと自分の意見を口にして、あの勘違い男に立場を分からせてやるべきだった。
それができなかった理由は三つ。
ひとつは、レオナルドに嫌われたくなかったこと。
もうひとつは、自己保身──口にすれば自分が惨めになり、相手の悪意を直視せざるを得なくなる。それが、ただ怖かった。
最後のひとつ、それは、クロエが必要以上に自分を抑え込んでしまう──そんな性格ゆえだった。
(それでも母親には子供らしく我儘を言っていたようだけど、父親には一切言っていないわ。我儘を言って、嫌われるのが怖かったから……)
過去の記憶を辿ってみても、クロエが父親に我儘を言った形跡がひとつもない。子供であれば親に我儘を言うのは当たり前のようにあるものだが、そういった思い出はひとつもないのだ。彼女は幼少の頃から立派な跡継ぎとなること、そして立派な淑女となることだけを父親から望まれてきた。おそらくはそういった環境のせいで我慢することが当然になってしまったのかもしれない。
ドレスの件も、自分が我慢すれば済むことだと思い何も言わなかった。
まるで、そうすることこそが『正しい』と信じ込んでいる。
そういう場合は怒っていいのだと、我慢せずに文句を言っていいのだと、クロエは知らない。父親も、家庭教師も、クロエに”我慢”しか教えていないから。
(なんだか段々と腹が立ってきた。クロエがこんなにも自分を抑え込む子になってしまったのはこいつのせいじゃない? 親なら子供に自分の意見を言う大切さを教えてやりなさいよ……!)
目の前の父親を睨みつけてやると、彼はビクッと肩を揺らした。
前世の記憶が蘇ったから目の前の人物がいまいち父親だと思えないのかと思ったが、多分そうではない。もともとこの二人には親子としての絆のようなものが形成されていないのだ。
だから先程「どうして言わなかった」と聞かれても、「お前が言うな」としか思えない。
そういうことを言い合えるような信頼関係を築いていない相手に相談できるわけがないだろうが、と。
クロエにあんな屑を宛がってきたのは誰だと言ってやりたい。
あ、言ってたわ、そういえば。
「……私からリンデン家に正式に苦情を申し伝える。子息の件についても、きちんと話をしてこよう。」
「いえ、必要ございません。それだけで改心するとも思えないので、結構でございます」
自分の提案をばっさりと切り捨てる娘に、公爵はただ唖然と目を見張った。
かつては素直でおとなしかった娘がこんなにもはっきりと物を言うなど——信じられぬ思いで視線を向ければ、そこには酷く冷めた青の瞳があった。
「……クロエ…………」
「最初の頃は”完璧”と思わせるほどの貴公子だったレオナルド様がこんな失態を犯す阿呆に成り下がってしまったのは、ひとえにわたくしの過剰ともいえる我慢が一因なのかと思うのです。何をしても文句を言わないわたくしに甘え、持ち前の傲慢さが段々と増長してしまったのでしょう。ならば、それはわたくしの責任も同然。けじめはわたくしがつけましょう」
もう”クロエ”に我慢などさせてたまるものか。前世の記憶が蘇った今であれば我慢をする理由などひとつもない。
レオナルドにも父親にも、嫌われようがどうでもいい。赤の他人である屑と、父親とは名ばかりの関係が希薄な中年に好かれなくて何だと言うのだ。
「けじめって……どうするつもりだ?」
いつもの威厳に満ちた姿からは想像もつかないほど縋るような目を向けてくる父にクロエは静かに嗤った。
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