初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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やっていい事と悪い事の区別もつかないのか

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「…………ッ!!?」

 腹に受けた衝撃に悶絶し、その場に蹲るエリオット。一瞬遅れてキャサリンの悲鳴が辺りに響いた。

「キ……キャアアアッ!! ちょっと! エリオットに何すんのよ……!」

 騒ぐキャサリンを一瞥し、セシリアはメイドに視線を向けた。するとその視線の意図を察したメイドは速足でキャサリンの前に立ち、容赦なく平手打ちを浴びせる。

「痛っ……! な、なにするのよ!!」

「うるさい。静かになさい」

 地を這うようなセシリアの低音が響いた瞬間、キャサリンは「ひっ!」と息を呑み、顔から血の気が失せた。
 場が静まり、セシリアはひとつ深く息を吐くと二人に鋭い視線を向けた。

「……エリオット様、貴方はやっていい事と悪い事の区別もつきませんの? 公爵様のもとで何を学んできたというのですか……」

 蹲ったまま声の方へ顔を向けたエリオットは怒気をはらんだ妻の瞳とぶつかり、そこでようやく自分が彼女に腹を打たれたことを理解して戦慄した。

「い、いや……これは違うんだ。キャサリンがどうしても夜会に行きたいというから、それで……」

「それで? 何だというのです? まさかこのまま連れていくわけではありませんよね? 招待者でもないオニキス子爵令嬢をどうやって会場に入れるおつもりで……?」

 王族の夜会は非常に格式高い場であり、選ばれた者だけが出席できる特別な場。そんな場所に招待していない者が入ることは無作法な行為である。それどころか国の重要人物が多数出席する場に招待していない者──ひいては不審者を入れるような行為は国への反逆行為ととられてもおかしくない。

 恋人可愛さに理性を失い、ガーネット家に反逆者の汚名を着せる気か――この愚か者に怒りが湧き上がる。

「一人くらいは何とかならないだろうか……。受付で理由を話せば多分、分かってくれるんじゃないかと……」

「僕の恋人も参加させてくれ、と言うおつもりで? そんな馬鹿を晒すのは許しませんよ」

 セシリアにじろりと睨まれ、エリオットはビクッと肩をすくめた。
 彼自身も王家主催の夜会に招待状の無い客を連れていくのは不味いと分かってはいたが、キャサリンに頼まれて断れなかったのだ。

「だいたい、お二人は会う暇さえなかったと思いますが……いつどこで夜会に連れて行ってほしいと頼まれましたの?」

「あ……それは、手紙で……」

「手紙? ああ、なるほど……」

 ”会う時間があるなら勉強しろ”との方針で二人の面会は禁じられていたが、手紙のやり取りは許されていた。
 その方が勉強も捗るだろうという優しさを出したのが仇となったな、とセシリアは思わず舌打ちしそうになる。

「ご、ごめんなさい……。私が悪いの……! わ、私が……エリオットと夜会に行きたいと願ったから、彼はそれを叶えてくれただけなのぉ……!!」

 涙ながらに謝るキャサリンの姿に心を揺さぶられたエリオットはかすれた声で「キャサリン……」と名を呼んだ。
 しかし、次の瞬間セシリアから射殺すような視線を投げかけられ、慌てて目を逸らした。

「ええ、貴女とエリオット様が悪いです。王家の夜会に招待されてない者を同行させることがどれだけ非常識で無礼な行いかを理解されていないあなた方二人がね……。これ以上、くだらない妄言を吐くのでしたら今度は。オニキス子爵令嬢、貴女にもね」

 その発言を理解した瞬間、二人の顔色が青を通りして白くなった。
 先程セシリアから食らった拳の威力は相当だったのに、それでも手加減していたのかとエリオットは冷や汗をにじませた。キャサリンは以前セシリアから『自分が手を出したらもっと酷い事になる』と言われたのを思い出し、これ以上何かを言えばメイドではなくセシリア本人から直接手を下されるとゾッとした。

「……本当ならば数時間説教したいところですが、時間がないのでそれは後にします。今はすぐにでも夜会に向かわねば。遅刻などという恥ずかしい真似は出来ませんからね」

 目の前の馬鹿共が遅刻してきたせいで本当に時間がない。
 出来ることならこの二人の非常識さを昏々と説教してやりたいが、それをしていたら夜会の開催時間に間に合わなくなってしまう。王家主催の夜会で遅刻をするなどとんでもない恥だ。

「あ、あの……キャサリンはどうすれば……。それに腹も痛いんだが……」

 お腹を押さえて弱弱しく訴えかけるエリオットを無視し、セシリアはキャサリンへと顔を向けた。

「……オニキス子爵令嬢、そんなに夜会に行きたいのかしら?」

 底知れぬ威圧感を伴ったセシリアの問いかけにキャサリンは声を出すこともできず、必死に頭を縦に振った。

「そう。なら特別に連れていってあげましょう。ただし、は私の方で決めさせてもらいますけどね……」

 セシリアの凄絶な笑みにゾッとしたキャサリンとエリオットは恐怖に支配され、全身をガタガタと震わせるのだった……。
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