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全力で喧嘩を売っている
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「では、私は知人へ挨拶回りをして参ります。エリオット様もご自由にどうぞ」
「え? 一緒に行かないのか?」
「……どうせ離婚するのだから必要ないでしょう? それとも、もうすぐ離婚する妻だとでも言って紹介なさるおつもりですか?」
嫌味を投げかけると、エリオットは明らかに居心地悪そうに視線を逸らした。
そして「……行ってくる」と小さく言い残し、逃げるようにその場を離れた。
キャサリンはうろたえた様子を見せつつも、ためらうことなくエリオットの後に続いた。
表向きにはセシリア付きの侍女として同行していたにもかかわらず、結局は恋心を優先するその振る舞いには呆れざるを得ない。
(本当、ある意味お似合いの二人だわ……)
侯爵家の当主夫妻となるには到底相応しくない振る舞いばかりの二人だが、夫婦としてはこの上なくお似合いだ。
任務や責任を差し置いてまで自分の欲や感情を優先するその姿勢が、特に。
「あら? セシリア様ではありませんか」
二人に呆れた視線を送っていると不意に誰かに声をかけられた。
振り向いた先に佇んでいたのは白いドレスを優雅にまとった一人の貴婦人。彼女は静かにセシリアへ歩み寄る。
「まあ、キアラ様。……いえ、アレキサンドライト小公爵夫人、ご機嫌よう」
「ふふ、今まで通りキアラで結構ですわ」
中世の女騎士を思わせる凛とした面差しで彼女はセシリアに優しく微笑みかけた。
キアラ・アレキサンドライト小公爵夫人。
彼女はセシリアの学友であった人で、この度筆頭公爵家の嫡男に嫁いで小公爵夫人となった。
自分より身分が上になったことで礼を尽くそうとするセシリアを制し、これまでと変わらぬ態度で接するよう求める彼女。気さくな性格は相変わらずであった。
互いの近況を語り合っていると、キアラが急に声をひそめた。
「……ときにセシリア様、今宵の夜会が催された理由をご存じで?」
その口ぶりからして彼女はこの夜会の意味を知っているのだろうと感じたセシリアは、声をひそめて「王女様のためと聞きました……」と答えた。
「ええ、そうらしいですよ。まったく……他国の王女の為にこんな急に夜会を催そうとするなんて、信じられませんわ。お義姉様も呆れておりましたよ」
やはり彼女は夜会が開かれた本当の理由を知っていたようだ。しかも、その内容はセシリアと公爵の推測と一致していたのだから驚かずにはいられない。
ちなみに彼女の言う”お義姉様”というのは夫の姉である王太子妃のことである。
「ご子息のやらかしの後始末のつもりなのでしょうけど、始末どころか益々事態を酷いものにして……最早取り返しのつかないことになっていると本人はご存じないのでしょうね。これではご子息の立場を守るどころか窮地に立たせているようなものですわよ」
流石に当事者の関係者なだけあって、彼女は王宮内での事情に詳しい。
それにしても、ご子息……王太子は何をしてしまったのだろうか。
「やらかし? ……いったい殿下は何をされてしまったのでしょうか?」
セシリアが声を潜めて聞くと、キアラは可笑しそうに答えた。
「ふふ……なんでも、王女に惹かれたことを隠しもしなかったらしいですよ。まあ、ご本人はうまく隠していたつもりだったのかもしれませんけど……お義姉様にはお見通しだったようです。それでお義姉様は怒るどころかすっかりと呆れてしまったようで、しばらくは顔も合わせない状況が続いたとか……。それを焦った王妃様がご子息の立場を守るためにこんな余計な真似をしてしまったというわけですね」
「ああ……なるほど。夫婦間の揉め事に首を突っ込んで、余計に掻き乱したと……」
「ええ、そのようです。お義姉様としては殿下が反省してくださればそれで手討ちにしようと思ったらしいのですが、まさか姑が他家まで巻き込んだ大事にまで発展させるとは思いもしなかったとか……。名目上は王女の歓迎の宴と言っているようですけど……本当の目的は”男漁り”をさせること、ですもの。既婚のわたくし達や、他にお相手がいる方々まで巻き込むなんてふざけておりますよね……」
そう言ったキアラの手元で扇子が鈍い音を立てて真っ二つに折れた。それを目にしただけで彼女がこの件にどれほど怒りを抱えているかが伝わってくる。
(彼女が怒るのも無理ないわ……。自分の夫を王女にあてがうための駒として招かれるなんて、あまりにもこちらを馬鹿にしているもの。……ん? あれ、ちょっとまって……)
セシリアが眉をひそめて考え込んでいると、キアラが「どうなさったの?」と問いかけた。
「いえ、その……王妃様は王太子妃殿下のご機嫌を直してほしいが為に、このような企てをなさったと聞きましたが……筆頭公爵家の不興を買うのはよろしいのかしらと思って……」
そう、キアラは筆頭公爵家の嫡男の妻。彼女が招かれているということは、おそらくは夫である小公爵……王太子妃の実弟も招かれているはず。この”王女に宛がう男を選ぶ夜会”に、王太子の後ろ盾である筆頭公爵家の子息が招待されていることがそもそもおかしい。
身内がそんな馬鹿みたいな駒扱いされていることに、アレキサンドライト公爵や王太子妃が怒らないとは思えない。ご機嫌を直すどころか、全力で喧嘩を売っているとしか考えられないから。
「え? 一緒に行かないのか?」
「……どうせ離婚するのだから必要ないでしょう? それとも、もうすぐ離婚する妻だとでも言って紹介なさるおつもりですか?」
嫌味を投げかけると、エリオットは明らかに居心地悪そうに視線を逸らした。
そして「……行ってくる」と小さく言い残し、逃げるようにその場を離れた。
キャサリンはうろたえた様子を見せつつも、ためらうことなくエリオットの後に続いた。
表向きにはセシリア付きの侍女として同行していたにもかかわらず、結局は恋心を優先するその振る舞いには呆れざるを得ない。
(本当、ある意味お似合いの二人だわ……)
侯爵家の当主夫妻となるには到底相応しくない振る舞いばかりの二人だが、夫婦としてはこの上なくお似合いだ。
任務や責任を差し置いてまで自分の欲や感情を優先するその姿勢が、特に。
「あら? セシリア様ではありませんか」
二人に呆れた視線を送っていると不意に誰かに声をかけられた。
振り向いた先に佇んでいたのは白いドレスを優雅にまとった一人の貴婦人。彼女は静かにセシリアへ歩み寄る。
「まあ、キアラ様。……いえ、アレキサンドライト小公爵夫人、ご機嫌よう」
「ふふ、今まで通りキアラで結構ですわ」
中世の女騎士を思わせる凛とした面差しで彼女はセシリアに優しく微笑みかけた。
キアラ・アレキサンドライト小公爵夫人。
彼女はセシリアの学友であった人で、この度筆頭公爵家の嫡男に嫁いで小公爵夫人となった。
自分より身分が上になったことで礼を尽くそうとするセシリアを制し、これまでと変わらぬ態度で接するよう求める彼女。気さくな性格は相変わらずであった。
互いの近況を語り合っていると、キアラが急に声をひそめた。
「……ときにセシリア様、今宵の夜会が催された理由をご存じで?」
その口ぶりからして彼女はこの夜会の意味を知っているのだろうと感じたセシリアは、声をひそめて「王女様のためと聞きました……」と答えた。
「ええ、そうらしいですよ。まったく……他国の王女の為にこんな急に夜会を催そうとするなんて、信じられませんわ。お義姉様も呆れておりましたよ」
やはり彼女は夜会が開かれた本当の理由を知っていたようだ。しかも、その内容はセシリアと公爵の推測と一致していたのだから驚かずにはいられない。
ちなみに彼女の言う”お義姉様”というのは夫の姉である王太子妃のことである。
「ご子息のやらかしの後始末のつもりなのでしょうけど、始末どころか益々事態を酷いものにして……最早取り返しのつかないことになっていると本人はご存じないのでしょうね。これではご子息の立場を守るどころか窮地に立たせているようなものですわよ」
流石に当事者の関係者なだけあって、彼女は王宮内での事情に詳しい。
それにしても、ご子息……王太子は何をしてしまったのだろうか。
「やらかし? ……いったい殿下は何をされてしまったのでしょうか?」
セシリアが声を潜めて聞くと、キアラは可笑しそうに答えた。
「ふふ……なんでも、王女に惹かれたことを隠しもしなかったらしいですよ。まあ、ご本人はうまく隠していたつもりだったのかもしれませんけど……お義姉様にはお見通しだったようです。それでお義姉様は怒るどころかすっかりと呆れてしまったようで、しばらくは顔も合わせない状況が続いたとか……。それを焦った王妃様がご子息の立場を守るためにこんな余計な真似をしてしまったというわけですね」
「ああ……なるほど。夫婦間の揉め事に首を突っ込んで、余計に掻き乱したと……」
「ええ、そのようです。お義姉様としては殿下が反省してくださればそれで手討ちにしようと思ったらしいのですが、まさか姑が他家まで巻き込んだ大事にまで発展させるとは思いもしなかったとか……。名目上は王女の歓迎の宴と言っているようですけど……本当の目的は”男漁り”をさせること、ですもの。既婚のわたくし達や、他にお相手がいる方々まで巻き込むなんてふざけておりますよね……」
そう言ったキアラの手元で扇子が鈍い音を立てて真っ二つに折れた。それを目にしただけで彼女がこの件にどれほど怒りを抱えているかが伝わってくる。
(彼女が怒るのも無理ないわ……。自分の夫を王女にあてがうための駒として招かれるなんて、あまりにもこちらを馬鹿にしているもの。……ん? あれ、ちょっとまって……)
セシリアが眉をひそめて考え込んでいると、キアラが「どうなさったの?」と問いかけた。
「いえ、その……王妃様は王太子妃殿下のご機嫌を直してほしいが為に、このような企てをなさったと聞きましたが……筆頭公爵家の不興を買うのはよろしいのかしらと思って……」
そう、キアラは筆頭公爵家の嫡男の妻。彼女が招かれているということは、おそらくは夫である小公爵……王太子妃の実弟も招かれているはず。この”王女に宛がう男を選ぶ夜会”に、王太子の後ろ盾である筆頭公爵家の子息が招待されていることがそもそもおかしい。
身内がそんな馬鹿みたいな駒扱いされていることに、アレキサンドライト公爵や王太子妃が怒らないとは思えない。ご機嫌を直すどころか、全力で喧嘩を売っているとしか考えられないから。
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