初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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伯父からの叱責

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「──結婚式以来だな、エリオット」

 低く張りのある声が食堂の空気を緊張で満たし、威厳に満ちた視線がエリオットを射貫く。

「はい……。おはようございます、伯父上」

 声に怯えを滲ませながらエリオットは静かに一礼し、朝の挨拶を告げる。
 横目で妻の様子を伺うが、彼女はこちらに目をくれることなく優雅に食後の紅茶を味わっていた。

「早朝に訪ねてすまなかったな」

 こんな朝早く訪問するという非礼を詫びる公爵。親しげに話しているように見えて、その目はちっとも笑っていない。次の瞬間、眉間に皺を寄せて再び口を開いた。

「──ところでエリオット……貴様は、自らの立場を理解しておるのか?」

 低く、抑えた声。しかしそこに宿るのは雷鳴の前の静けさのような迫力だった。
 まるで刃を首に押し付けられたよう恐ろしさを含んだ声に怯え、何も答えられない。

「貴様は花嫁を初夜に放置した挙句、元婚約者に会いに行ったと聞いている。——それは真か?」

「…………ッ!?」

 公爵の言葉にエリオットは思わず目を伏せてしまった。
 どうしてそれを伯父が知っているのか、と問う言葉が喉まで上がったが、伯父の視線に気圧され声が出ない。

「……沈黙は肯定と受け取ってよいな」

 ゆっくり椅子から立ち上がった公爵は静かな足音を響かせてエリオットの前に歩み寄る。その歩幅は一定で無駄がなく、だが重々しい。近づくごとに、部屋の空気が下がっていくようだった。

「出来ればここで貴様の鼓膜を破るほど怒鳴りつけてしまいたいが……レディの前なので控えるとしよう。なにより、呆れて言葉も出ぬわ。儂も長い人生を過ごしてきたが、ここまでの愚かな振る舞いをする人間がいるという話は一度も耳にしたことが無い。それも……よりにもよって己が甥だとは……」

 じわじわと追い詰めるような声音にエリオットの額から冷や汗が滲み出る。
 恐ろしい。ただその一言に尽きる伯父の言葉に声が出ない。

「分かっているだろうが、貴様の振る舞いは個人の軽率では済まぬ。『家』の名を背負うっている以上、貴様の愚行はガーネット一族全ての過ちとなる。エリオット、貴様はせっかく結んだガーネット家とサフィー家の縁に亀裂を入れたいのか?」

「い、いえ……決してそのようなことは……」

「ほう? そんなつもりはなかったと? では、どんな理由があってサフィー家のご令嬢に恥辱を与えたのだ?」

「ち、恥辱だなんて……そんなつもりはございません……」

「ふむ? では、貴様は結婚式の晩に放置した挙句に元婚約者に会いに行くという行為は相手に恥をかかせるものだと認識していないと申すか……。どうやら物事を正しく認識する能力と、共感性が著しく欠如しているようだ。セシリア嬢、このような知能に問題がある男を紹介してしまったこと、誠に申し訳ない。甥がここまで阿呆だと見抜けなかった儂の失態だ」

 エリオットからセシリアの方へと体を向けた公爵は深々と頭を下げる。
 公爵家の当主という高位の身分でありながら、甥の妻でしかないセシリアに頭を下げているという事実に驚いたエリオットは慌てて「伯父上!?」と声を張り上げた。

「うるさい! 貴様も頭を下げろ! 女性に恥をかかせるなど紳士としてあるまじき行為だぞ!」

「痛ッ……! お止めください、伯父上……」

 公爵により無理やり頭を下げさせられたエリオット。
 年齢の割に力強いせいか、体勢を崩して床に倒れそうだ。

 身分の高い公爵と自分の夫が頭を下げているにも関わらず、少しも焦ることなく悠然とした態度でセシリアは彼等を一瞥した。

「頭を上げてくださいませ、公爵様。貴方様にそこまでしていただくのは忍びありませんわ」

 セシリアは自分の夫には頭を上げる赦しを与えず、公爵にのみ声をかけた。
 まさか妻がそんな態度に出るとは思わなかったエリオットは頭を下げながら驚愕した表情を浮かべていた。
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