今更、話すことなどございません

わらびもち

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落胆する伯母

「久しぶりね、グウェン。見ないうちにずいぶんやつれたじゃない」

「お久しゅうございます。伯母上は変わらずお元気そうで……」

 あまりも事務的で屈辱的な婚約から数日後。伯母からの返書を手にしたベネディクト伯爵はほどなくしてその屋敷を訪れた。歳月を経てもなお華やぎを失わぬ伯母と、見るからにやつれた伯爵。二人のあいだに横たわるものはあまりにも明白だった。

「伯母上、実はご相談したいことがございます」

「ええ、承知しております。みなまでおっしゃらずとも結構」

 その頼もしい返事に伯母はすでに事情を察しているのかと胸が熱くなる。
 だが、彼女が次に発した言葉はまるで見当違いのものであった。

「養女となったアスター卿のご息女を王族の侍女として取り立ててほしいというお話でしょう? あなたがいつその話を持ってくるのかと待ち望んでおりましたのよ」

「………………は?」

 突然の思いがけない言葉に伯爵は一瞬言葉を失った。

「え、伯母上……何の話です?」

「まあ、なにをとぼけているのです。あなたがあの未亡人を妻に迎え入れたのは、未だに王族から覚え目出度きアスター卿のご息女を己の義娘とするためでしょう? 確か……エセル嬢だったかしら? 御父君に似てとても優秀で慎ましいご令嬢だと聞くわ」

「え……え?」

「王妃様にご紹介するのもよろしいけれど、王太子妃様も捨てがたいわね。近頃は自己主張の強い侍女が多いと聞くわ。ご苦労も多いでしょうに。あろうことか王太子殿下のお手つきになろうとする者までいるとか。味方ばかりとは限らぬ宮中では気の休まる暇もないでしょう。そんな折、忠誠心が高く弁えた子が傍にいればどれほど心強いことか」

「あの……本当に、何を言っているのですか?」

「あら、あなたこそ何を呆けているのかしら。義理とはいえ、娘が王族に重宝されるようになれば家門の名誉になる。それ目的の再婚でしょう? そうでなければ、わざわざ下位貴族での未亡人を新たな妻に迎え入れるはずもないじゃない」

 何の疑いもなく言い切る伯母の言葉に伯爵の思考は追いつかなかった。
 その戸惑いを見て、伯母は初めて怪訝そうに眉を寄せる。

「……待って、まさか……あなた、本当に分からないの?」

「はい……。いったい何をおっしゃっているのか……」

「嘘でしょう……? あなた、アスター卿の逸話をご存じないの?」

「ロザリンド王女を国一番の淑女に教育したという話のことでしたら、私も知っておりますが……。そうではなく、伯母上がどうしてエセル嬢を王族の侍女に取り立てるとおっしゃっているのか、それが分からないのです」

「……なんですって? あなたは以前、『王族に執り成しをお願いしたい』と手紙で言ってきたではないの? あれはそういうことでしょう?」

「手紙……? あっ……」

 そう指摘され、伯爵は以前伯母に王太后への執り成しをお願いしようと手紙を出していたことを思い出した。

「いえ、あれは……王族と言いましても、王太后様への執り成しをお願いしたかったのです」

「……王太后様? 一線を退いて現在は女性修道院の院長でいらっしゃる御方に、何故あなたが執り成しを頼もうとするの……?」

 怪訝な表情の伯母を前に伯爵は一瞬ためらい、それでも恥を忍んで口を開いた。
 妻が王太后の怒りを買ったこと――そのすべての経緯を。

「……呆れた。あなた、いったい何をやっているのよ……」

 一部始終を聞き終えた伯母は落胆を滲ませた声で呟いた。その眼差しには伯爵への侮蔑が滲んでいる。

「言いたいことは山ほどあるけど、まずエセル嬢が修道院に行ってしまったというのはどういうことなの? あなた……彼女の価値を何にも分かっていなかったのね。心底呆れたわ……」

「返す言葉もございません……。あの、先程から伯母上は随分とエセル嬢を高く評価しておりますが……それはどうしてでしょうか?」

「どうして、ですって? はあ……。そこから説明が必要だとは思わなかったわ……」

 落胆を隠さぬ伯母の表情に伯爵の背に冷たい汗が伝った。

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