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いらない贈り物
「姫様……またオーガスタ卿から贈り物が……」
「え? またなの……」
あれから体力も少しずつだが回復しつつあるジュリアーナはオーガスタ邸で橋の修復が終わるのをひたすら待ち続けていた。ラティーシャ夫人が気遣ってくれるので退屈はしていないし、衣食住においては快適そのものだ。だが、ひとつだけ困ったことがある。
それは何故かこのタイミングでダニエルからやたらと贈り物が届くことだ。
「……中身は何かしら?」
「いつも通り“絹織物”です……」
数日前からダニエルは急にジュリアーナへ物を贈るようになった。
ここに来る以前は手土産一つ持参しなかったのに、何故か今更になって毎日のように贈り物をしてくる。しかも毎回同じような物を。
「品としては上質なのですけど……」
事前に中を改めてくれた侍女が言い淀む気持ちも分かる。
物自体は上等なのだが、何故生地そのものを贈りつけてくるのかが理解できない。
「婚約者からの贈り物というより……“献上品”ですね、これは」
侍女が言うように婚約者に加工もしていない生地のみを贈るというのは一般的ではない。普通は服や装飾品に加工してから贈るものだ。何も加工していない生地の状態というのは贈り物というより献上品のようで、婚約者に贈るのにはそぐわないように思える。
そもそも何故このタイミングで贈り物を届けてきたのか。
そして何故加工すらしていない生地そのものを贈ってきたのか。
意味不明でいっそこのまま返してしまいたくなる。
とはいえ贈り物をくれたことに対して礼も言わないのは不作法なので、ジュリアーナは生地が届けられる度にダニエルに礼の手紙を書いていた。遠回しにどうして生地そのものを贈り物として選んだのかを手紙にしたためてみたのだが、返事がくることはないので結局分からず仕舞いだ。
思い返せばダニエルからは文ひとつ貰ったためしがない。
婚約者の義務としてこちらは婚約当初数回ほど贈り物を使者に届けさせたのだが礼の手紙も無かった。その後直接あった際にも礼を言われたことがない。
そんな非常識で礼儀知らずな男から贈られた品というだけで怪しさしか感じない。
仮にダニエルが心からジュリアーナのことを考えて贈ってくれたのだとしても、それならば手紙の返事がないというのはおかしい。となると、やはり何かよからぬことを考えてこれを贈ってきたのだと思えてならない。
「姫様、こちらはいかがなさいますか……?」
「いつものように隣の部屋に保管しておいてちょうだい」
こんな怪しい品を受け取る気にはなれない。
毒や凶器は仕込まれていないことは確認済みだが、こちらを殺そうとした男からの品を気持ちよく受け取ることは出来ないし、ましてやそれを使おうなど恐ろしくて出来やしない。
無礼は承知で保管場所にそのまま置いていこうと思う。
(いっそ愛人のもとへ送りつけてやりたいわ……)
生地だけ送られても困るだろうけど、と思いながらジュリアーナはダニエル宛てに形ばかりの礼の手紙をしたためるべく机へと向かうのだった。
「え? またなの……」
あれから体力も少しずつだが回復しつつあるジュリアーナはオーガスタ邸で橋の修復が終わるのをひたすら待ち続けていた。ラティーシャ夫人が気遣ってくれるので退屈はしていないし、衣食住においては快適そのものだ。だが、ひとつだけ困ったことがある。
それは何故かこのタイミングでダニエルからやたらと贈り物が届くことだ。
「……中身は何かしら?」
「いつも通り“絹織物”です……」
数日前からダニエルは急にジュリアーナへ物を贈るようになった。
ここに来る以前は手土産一つ持参しなかったのに、何故か今更になって毎日のように贈り物をしてくる。しかも毎回同じような物を。
「品としては上質なのですけど……」
事前に中を改めてくれた侍女が言い淀む気持ちも分かる。
物自体は上等なのだが、何故生地そのものを贈りつけてくるのかが理解できない。
「婚約者からの贈り物というより……“献上品”ですね、これは」
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そもそも何故このタイミングで贈り物を届けてきたのか。
そして何故加工すらしていない生地そのものを贈ってきたのか。
意味不明でいっそこのまま返してしまいたくなる。
とはいえ贈り物をくれたことに対して礼も言わないのは不作法なので、ジュリアーナは生地が届けられる度にダニエルに礼の手紙を書いていた。遠回しにどうして生地そのものを贈り物として選んだのかを手紙にしたためてみたのだが、返事がくることはないので結局分からず仕舞いだ。
思い返せばダニエルからは文ひとつ貰ったためしがない。
婚約者の義務としてこちらは婚約当初数回ほど贈り物を使者に届けさせたのだが礼の手紙も無かった。その後直接あった際にも礼を言われたことがない。
そんな非常識で礼儀知らずな男から贈られた品というだけで怪しさしか感じない。
仮にダニエルが心からジュリアーナのことを考えて贈ってくれたのだとしても、それならば手紙の返事がないというのはおかしい。となると、やはり何かよからぬことを考えてこれを贈ってきたのだと思えてならない。
「姫様、こちらはいかがなさいますか……?」
「いつものように隣の部屋に保管しておいてちょうだい」
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毒や凶器は仕込まれていないことは確認済みだが、こちらを殺そうとした男からの品を気持ちよく受け取ることは出来ないし、ましてやそれを使おうなど恐ろしくて出来やしない。
無礼は承知で保管場所にそのまま置いていこうと思う。
(いっそ愛人のもとへ送りつけてやりたいわ……)
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