やりなおしジュリアーナ姫の復讐劇

わらびもち

文字の大きさ
70 / 86

あの件についての報告

しおりを挟む
 結果的にダニエルの周囲から彼を慕う人がいなくなってしまった。
 
 最愛のアニーは別人の体で子供を連れて逃亡し、執事と乳母は亡くなった。
 いや、この場合乳母の魂が入っていたとはいえアニーの体が亡くなったのだから、乳母が子供を連れて逃げてアニーが亡くなったと言った方が正しい。

 なんにせよ意図しない形でダニエルは愛する人達を失ったことになってしまった。
 それを知ったダニエルはどうするだろうか?

(アニーも子供もいなくなってしまったのなら、もうダニエルはわたくしと結婚する意味もないわね)

 予期せぬ事態にはなったが問題ない。
 愛人と子供の存在で婚約破棄を申し出るには少し弱いと思っていたところだ。
 先の戦でダニエルが戦いに加わらないばかりか叔父の手柄を横取りしたという事実をもって“戦勝の褒美”という前提を崩してしまえばいい。そうなればダニエルに対する世間の評価は“戦の英雄”から“偽りの英雄”に様変わりするだろう。

(あとは一刻も早くここを出て王宮へと戻らなくては……)

 橋の修繕が終わるまでここに留まらなくてはいけないことがもどかしい。
 あの男と顔を合わせないうちに早くここを出たいのに……。

「姫君? 浮かない顔だね、何か困り事?」

「え? あ、いえ……少し考え事をしていただけです。お気になさらないでくださいませ」

「そう? 何か困り事があるなら僕が解決してあげるよ?」

「いえいえ、本当に何でもありませんの。魔女様にはマーサの蘇生を何よりも優先して頂きたいですわ」

「……君が望むならそれでいいけど。でも、何かあるならいつでも言ってほしいな」

「ふふ、ありがとうございます……」

 流石に橋を修繕してほしいという雑事を頼むわけにはいかない。
 それよりマーサの蘇生に専念してもらった方が有難い。

「あ、それと蘇生に専念するからしばらく君に会えないと思う。だから何か用がある時は君の方から呼んで」

「はい、畏まりました」

 この時ジュリアーナは自分から青年を呼びつける機会は無いだろうと考えていた。
 しかし、その考えはそう遠くない未来に覆されることになると、この時の彼女はまだ知らない……。


 翌朝、朝食をとり終えると慌てた様子のルナが報告に訪れた。

「姫様、大変でございます! アニーが……今朝方亡くなったとの報せが……」

 それを聞いたジュリアーナはうっかり「知っているわ」と言ってしまいそうになるのを堪え、驚いたような表情を取り繕う。

「亡くなった……? どうして、そんな……」

 流石に“知っている”なんて言えるわけがない。
 努めて驚いた表情をするジュリアーナにルナは神妙な面持ちで返す。

「詳しくはまだ分かっておりません。ただ、産後は体調が優れず臥せっていたそうです」

 ルナの報告を聞く限りだと、どうやらアニーは産後に医師の診察を受けていなかったようだ。臥せっていたのならまずは医師の診察を受けるべきなのに、医者でもない乳母が面倒を見ていたとか。

「当主の子供まで産んだ女性に対して随分と粗末な扱いね?」

「所詮平民の愛人ですし、当主が医師を呼べとでも命令しない限りは捨て置かれてしまってもおかしくありません。しかし、持病も無い健康体の若い女がこんな簡単に亡くなるとは想定外でした……。アニーはダニエルの不貞の証拠でありますのに、みすみす死なせてしまい申し訳ございません……」

 監視を命じられた立場でありながらみすみす死なせてしまったことを詫びるルナにジュリアーナは「構わなくてよ」と優しく告げる。

「貴女にはを頼んでいたもの。アニーの方は時々様子を伺うくらいでいいと言ったのはわたくしよ。婚約を取りやめる材料は別にあるので気にしなくていいわ」

 それに亡くなったのは厳密に言えばアニーではないし、とは流石に言えない。
 落ち込むルナを見ていると真相を黙っていることが申し訳なくなってくる。

「姫様……なんとお優しい……」

「ところで、ダニエルの様子はどう? 最愛の恋人を亡くしてさぞかし落ち込んでいるのでは?」

「いえ、それが……ダニエルはまだこの事実を知りません」

「え? どういうこと……?」

 恋人が亡くなったことを知らないとはどういうことだろう。
 不可解な言葉にジュリアーナは首を傾げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?

雨雲レーダー
恋愛
侯爵令嬢クラリスは、王太子ユリウスから一方的に婚約破棄を告げられる。 理由は、平民の美少女リナリアに心を奪われたから。 クラリスはただ微笑み、こう返す。 「そんなに好きなら、そっちへ行けば?」 そうして物語は終わる……はずだった。 けれど、ここからすべてが狂い始める。 *完結まで予約投稿済みです。 *1日3回更新(7時・12時・18時)

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。 「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」 ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

両親に溺愛されて育った妹の顛末

葉柚
恋愛
皇太子妃になるためにと厳しく育てられた私、エミリアとは違い、本来私に与えられるはずだった両親からの愛までも注ぎ込まれて溺愛され育てられた妹のオフィーリア。 オフィーリアは両親からの過剰な愛を受けて愛らしく育ったが、過剰な愛を受けて育ったために次第に世界は自分のためにあると勘違いするようになってしまい……。 「お姉さまはずるいわ。皇太子妃になっていずれはこの国の妃になるのでしょう?」 「私も、この国の頂点に立つ女性になりたいわ。」 「ねえ、お姉さま。私の方が皇太子妃に相応しいと思うの。代わってくださらない?」 妹の要求は徐々にエスカレートしていき、最後には……。

処理中です...