やりなおしジュリアーナ姫の復讐劇

わらびもち

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平手打ち

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 アイザック候の愛人と話している間、実はジュリアーナの隣にはずっと魔女がいたのだ。
 姿を消していたため愛人は彼のことを認識できない。そして話が終わった途端にジュリアーナを抱き上げてその場から飛び去った。愛人にはいきなりジュリアーナが浮いて消えたように見えたことだろう。

 そのままオーガスタ邸へと向かう最中、ダニエルと子爵が何やら言い争っている姿が見えたのでこうして姿を現したというわけだ。何も知らない彼等は行方不明の王女がいきなり姿を現してさぞかし驚いたことだろう。

「王女殿下!? どうしてここに……いや、それよりもご無事ですか? お怪我は?」

「大丈夫よ子爵、怪我はないわ。それより……」

 ジュリアーナは顔面の腫れたダニエルの元まで近づき、おもむろに片腕を振り上げた。

 パアンッ……!

「へ………………?」

 乾いた音が鳴った後、遅れてきた痛みに頬を張られたのだと気づいたダニエルは呆気にとられた声を出す。

「オーガスタ辺境伯、よくもお前のくだらない思惑にわたくしを巻き込んでくれたわね? お前の人生に関わったせいでわたくしの人生は台無しよ。その罪は命で贖ってもらうわ」

 嫋やかな王女から出たとは思えぬ程低く、怨念の籠った声音にその場にいる者はダニエルも含めて背筋を震わせた。大の男さえも身震いするほど深い恨みを感じさせる女の声。誘拐されたことへの恨みだけではない。もっと根深いものを思わせる王女の声と表情に言葉を失くす。

「子爵、この者がわたくしの誘拐に手を貸したことは知っていて?」

「あ……はい、今しがた本人から聞きました……」

「そう。ではすぐにこの者に縄を。王族殺害未遂で王宮へ連行します」

「は、はいっ! 畏まりました!」

 攫われた王女がいきなり現れ、呆気なくダニエルを捕縛するよう指示を出したことに子爵は面食らった。誘拐されたうえに己の婚約者が裏で手を引いていたと知った乙女の反応とは思えぬほどの手際の良さ。普通はもっとショックを受けて悲しむものではないだろうかと不思議に思うほどの落ち着きぶりだ。

 まるで、予め分かっていたかのような行動の速さ。
 当のダニエルも女に頬を張られたショックとジュリアーナの落ち着きぶりに茫然とした。

 こうして、ジュリアーナの誘拐騒動は幕を閉じた。

 ダニエルによる王女誘拐事件は瞬く間に王国内を駆け巡り、民を震撼させた。
 そのあまりにも身勝手極まりない動機と、王族の姫に対して敬意の欠片も無い行動。
 先の戦の英雄と謳われた男の残酷で身勝手な欲望は人々の怒りに火を募らせた。

「王女様をに誘拐させて殺させようなんて罰当たりなことを考えるものだ。ああ、恐ろしい……」

「しかし、どうしてそんな真似を? 辺境伯は王女様に何か恨みでもあったのか?」

「何でも愛人との仲を割かれたことを恨んでいたらしいぞ」

「そこまで愛人が大切ならそもそも婚約しなければよかったのでは? 訳が分からないな……」

 ジュリアーナを誘拐したのは”ならず者”ということにされた。
 アイザック候の愛人と公言してしまうと二国間に亀裂が入ってしまいかねないからだ。
 勿論そちらはそちらで責任を取ってもらう為あちらの国と密かに話し合いを進めるつもりである。

 社交界はダニエルの話題で持ち切りになったが、誰もダニエルの意図や目的が掴めなかった。愛人との仲を割かれたことを恨んだダニエルが凶行に及んだ、というのは王女との婚約を王命で無理やり結ばれたという前提が無ければ成り立たない。だが、婚約を望んだのはダニエルの方だ。自分から婚約を望んでおきながら愛人との仲がどうのこうのと騒ぐのはおかしいのではないかと誰しもが疑問に思った。

 その結果、オーガスタ辺境伯は気が触れていると結論付けられた。
 そうでなければ彼の意味不明で何がしたいのかよく分からぬ行動に説明がつかないからだ。
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