15 / 54
危機感のない兄妹
しおりを挟む
今夜は母の生家である伯爵家で夜会が開かれます。
あいにく父は急な仕事が入り、母も父無しでの参加は体裁が悪いので欠席です。
なので我が家から参加するのは私と兄、そして兄の婚約者のみです。
「アリスティア、そんな不貞腐れた顔してると可愛くないぞ?」
「あらそう? 私と違ってお兄様は随分嬉しそうな顔をなさってるわね。アイリーン様に会えるのが嬉しくて仕方ないんでしょう?」
お兄様は愛しの婚約者、アイリーン様に会える喜びで朝から顔がにやけております。
それに比べて私は不貞腐れております。
この夜会の準備のせいで愛しの陛下に会いに行けませんので面白くありません。
内輪の会なので陛下も参加されませんしね。
「ははっ、まあな。お前はつまらなそうだな?」
「ええ、着飾る意味すら見出せませぬ」
「ふむ、だから今宵の装いは普段よりも地味なのだな?」
陛下にお見せするわけでもないなら着飾る意味すらないですわ。
それに今宵の夜会は身内だけの小規模なもの。なら最低限の装いで構わないです。
「お兄様、そろそろアイリーン様が着く頃です。迎えにいかれたらいかが?」
これ以上兄と問答を繰り返していても意味がありません。
私が兄の最愛の名を告げると、兄はいそいそと玄関ホールの方へ向かいました。
完全に恋する男の表情ですね。
私も陛下に会いに行くときあんな感じなのかしら?
***
「お久しぶりね、アリスティア」
「ご無沙汰しております、アイリーン様」
アイリーン様はブルネットの巻き毛に厚めの唇の妖艶な美女です。
マーメイドラインのドレスがよく似合って素敵だわ。
「しばらく見ない間に更に美しくなったわね、アリスティア。それに驚くほど色香が増したわ……」
「そうかい? アイリーンの方が美しいし艶やかだよ?」
妹の前で惚気ないでくださいませ、お兄様。
「いいえ、お世辞で言っているわけじゃないのよ。貴方は家族だから分かりにくいかもしれないけど、今のアリスティアはまるで満開の花のようよ。その香りに惹かれて寄ってくる男は多いでしょう……。今宵は気を抜いては駄目よ、しっかりとアリスティアを守らなくちゃ」
「そこまで? いささか大袈裟ではないかい、アイリーン?」
「大袈裟ではなくてよ! アリスティアは陛下の寵姫となる高貴な存在。その身に触れられる男性は陛下のみだもの」
アイリーン様は数代に渡り王家に仕えた忠臣の娘。
それゆえ王家への忠誠心は尋常ではありません。家族よりも私の身を案じてくれるなんて驚きです。
「うーん、それもそうだね。だけど今日の夜会は身内だけだから大丈夫だよ」
兄の軽い返事にアイリーン様はいささか不満げな表情を見せました。
アイリーン様は正しく理解していたのです。
陛下に愛でられ女としての色香が増した私を男性がどういう目で見るのかを。
そしてそれを理解していない私と兄は後悔することになるのです。
あの時、アイリーン様の忠告をきちんと聞いていればよかったと……。
あいにく父は急な仕事が入り、母も父無しでの参加は体裁が悪いので欠席です。
なので我が家から参加するのは私と兄、そして兄の婚約者のみです。
「アリスティア、そんな不貞腐れた顔してると可愛くないぞ?」
「あらそう? 私と違ってお兄様は随分嬉しそうな顔をなさってるわね。アイリーン様に会えるのが嬉しくて仕方ないんでしょう?」
お兄様は愛しの婚約者、アイリーン様に会える喜びで朝から顔がにやけております。
それに比べて私は不貞腐れております。
この夜会の準備のせいで愛しの陛下に会いに行けませんので面白くありません。
内輪の会なので陛下も参加されませんしね。
「ははっ、まあな。お前はつまらなそうだな?」
「ええ、着飾る意味すら見出せませぬ」
「ふむ、だから今宵の装いは普段よりも地味なのだな?」
陛下にお見せするわけでもないなら着飾る意味すらないですわ。
それに今宵の夜会は身内だけの小規模なもの。なら最低限の装いで構わないです。
「お兄様、そろそろアイリーン様が着く頃です。迎えにいかれたらいかが?」
これ以上兄と問答を繰り返していても意味がありません。
私が兄の最愛の名を告げると、兄はいそいそと玄関ホールの方へ向かいました。
完全に恋する男の表情ですね。
私も陛下に会いに行くときあんな感じなのかしら?
***
「お久しぶりね、アリスティア」
「ご無沙汰しております、アイリーン様」
アイリーン様はブルネットの巻き毛に厚めの唇の妖艶な美女です。
マーメイドラインのドレスがよく似合って素敵だわ。
「しばらく見ない間に更に美しくなったわね、アリスティア。それに驚くほど色香が増したわ……」
「そうかい? アイリーンの方が美しいし艶やかだよ?」
妹の前で惚気ないでくださいませ、お兄様。
「いいえ、お世辞で言っているわけじゃないのよ。貴方は家族だから分かりにくいかもしれないけど、今のアリスティアはまるで満開の花のようよ。その香りに惹かれて寄ってくる男は多いでしょう……。今宵は気を抜いては駄目よ、しっかりとアリスティアを守らなくちゃ」
「そこまで? いささか大袈裟ではないかい、アイリーン?」
「大袈裟ではなくてよ! アリスティアは陛下の寵姫となる高貴な存在。その身に触れられる男性は陛下のみだもの」
アイリーン様は数代に渡り王家に仕えた忠臣の娘。
それゆえ王家への忠誠心は尋常ではありません。家族よりも私の身を案じてくれるなんて驚きです。
「うーん、それもそうだね。だけど今日の夜会は身内だけだから大丈夫だよ」
兄の軽い返事にアイリーン様はいささか不満げな表情を見せました。
アイリーン様は正しく理解していたのです。
陛下に愛でられ女としての色香が増した私を男性がどういう目で見るのかを。
そしてそれを理解していない私と兄は後悔することになるのです。
あの時、アイリーン様の忠告をきちんと聞いていればよかったと……。
482
あなたにおすすめの小説
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください
無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる