侯爵令嬢アリスティアの愛する人

わらびもち

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危機感のない兄妹

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 今夜は母の生家である伯爵家で夜会が開かれます。
 
 あいにく父は急な仕事が入り、母も父無しでの参加は体裁が悪いので欠席です。
 なので我が家から参加するのは私と兄、そして兄の婚約者のみです。

「アリスティア、そんな不貞腐れた顔してると可愛くないぞ?」

「あらそう? 私と違ってお兄様は随分嬉しそうな顔をなさってるわね。アイリーン様に会えるのが嬉しくて仕方ないんでしょう?」

 お兄様は愛しの婚約者、アイリーン様に会える喜びで朝から顔がにやけております。

 それに比べて私は不貞腐れております。
 この夜会の準備のせいで愛しの陛下に会いに行けませんので面白くありません。
 内輪の会なので陛下も参加されませんしね。

「ははっ、まあな。お前はつまらなそうだな?」

「ええ、着飾る意味すら見出せませぬ」

「ふむ、だから今宵の装いは普段よりも地味なのだな?」

 陛下にお見せするわけでもないなら着飾る意味すらないですわ。
 それに今宵の夜会は身内だけの小規模なもの。なら最低限の装いで構わないです。
 
「お兄様、そろそろアイリーン様が着く頃です。迎えにいかれたらいかが?」

 これ以上兄と問答を繰り返していても意味がありません。
 私が兄の最愛の名を告げると、兄はいそいそと玄関ホールの方へ向かいました。

 完全に恋する男の表情ですね。
 私も陛下に会いに行くときあんな感じなのかしら?

***

「お久しぶりね、アリスティア」

「ご無沙汰しております、アイリーン様」

 アイリーン様はブルネットの巻き毛に厚めの唇の妖艶な美女です。
 マーメイドラインのドレスがよく似合って素敵だわ。

「しばらく見ない間に更に美しくなったわね、アリスティア。それに驚くほど色香が増したわ……」

「そうかい? アイリーンの方が美しいし艶やかだよ?」

 妹の前で惚気ないでくださいませ、お兄様。

「いいえ、お世辞で言っているわけじゃないのよ。貴方は家族だから分かりにくいかもしれないけど、今のアリスティアはまるで満開の花のようよ。その香りに惹かれて寄ってくる男は多いでしょう……。今宵は気を抜いては駄目よ、しっかりとアリスティアを守らなくちゃ」

「そこまで? いささか大袈裟ではないかい、アイリーン?」

「大袈裟ではなくてよ! アリスティアは陛下の寵姫となる高貴な存在。その身に触れられる男性は陛下のみだもの」

 アイリーン様は数代に渡り王家に仕えた忠臣の娘。
 それゆえ王家への忠誠心は尋常ではありません。家族よりも私の身を案じてくれるなんて驚きです。

「うーん、それもそうだね。だけど今日の夜会は身内だけだから大丈夫だよ」

 兄の軽い返事にアイリーン様はいささか不満げな表情を見せました。
 
 アイリーン様は正しく理解していたのです。
 陛下に愛でられ女としての色香が増した私を男性がどういう目で見るのかを。
 
 そしてそれを理解していない私と兄は後悔することになるのです。

 
 あの時、アイリーン様の忠告をきちんと聞いていればよかったと……。

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