いいえ、望んでいません

わらびもち

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番外編

公爵夫人の望み②

「貴方がとの間に作った子が4人。そのうち、ろくでもない男に嫁がせたのが、ジュリエッタで3人目でしたね……」

 どうしてそれを、と言わんばかりに公爵は目を見開いた。
 そんな夫の様子を無視し、夫人は話を続ける。

「そのろくでもない男達は全員爵位を剥奪され、国外追放の刑を受けておりますわね。本来でしたら妻を虐待した罪でここまで重い罰はくだらないのですけど……その妻が王家の血を引くハルバード家の娘でしたら話は別です。不敬罪が適用されますから」

 そこまで言って、夫人は大きくため息を吐いた。
 
「我が国では“不敬罪”に対する罰は国王陛下の裁量で自由に決められますね。だから貴方と陛下はそこに目を付けた。……。たったそれだけのために……3人の娘の人生を犠牲にしたのですね」

「……そこまで理解しているのか。大したものだ。お前はただ夫に従うだけの中身のない人形のような女だと思っていたよ」

「中身のない人形はどちらかしら? 陛下の望むまま、数多の人々の人生を台無しにするような貴方の方ではなくて?」

「私が人形だと!? これだから女の考えというのは浅はかで困る……! 臣下たるもの、国王陛下の命令は何よりも優先させるものなのだぞ? 陛下が“上位貴族の爵位が欲しい”と仰れば、どんな手段を使ってでも叶えてさしあげるのが忠臣というものだ!」

「ただ盲目に願いを叶えるのが忠臣ですか? ふふ、馬鹿馬鹿しい……。それは単なる思考の停止ではなくて? 主の間違いを正すことこそ忠臣と言えるでしょうよ」

「なっ……!? 陛下が間違っていると言うのか!」

「ええ、そうですよ。だって陛下が上位貴族の爵位を欲しがるのは、。ただそれだけではないですか。国の為であるならまだしも、我が子に爵位を与えたいというだけでここまでするなんて……異常です」

 国王を“異常”と評することは不敬だが、夫人はそれでも構わず続けた。

「愛妾が産んだ王子は何処かに婿入りさせるか、男爵・子爵あたりの爵位を与えるのが通常の慣わしです。それが息子可愛さに、上位貴族の爵位を与えてやりたいという独善的な願いの為だけに、ハルバード公爵家の娘をわざと嫁がせ、その家の爵位を剥奪するなんて異常です」

「ふん、分かっていないな? そのおかげでくだらない男から当主の座を奪えたのだぞ? 私が娘の嫁ぎ先に選んだ家は皆、領民を苦しめるような悪の貴族だ。そんな奴等を成敗するのは善行と言えるだろう?」

「ええ、結果だけ見ればそうですね。ジュリエッタを含む3人の娘達の嫁ぎ先は皆、爵位を王家に返還されております。ろくでもない当主の元よりも、王家直轄となった方が領民はよい生活を送れるでしょう」

「そうだろう? ならば陛下のなさったことは正しいことだ。目的がどうだと言うのは些細なことに過ぎん」

「結果だけを見れば、と言いましたでしょう? だいたい、わざわざ娘を嫁がせ、虐待を受けさせるなどという回りくどいことをしなくても、領地経営の資格なしとして爵位を返上させればよろしかったではありませんか?」

 この国では領主が領民を苦しめる場合、領民が領主を弾劾することを許可している。
 領地の村長や町長が代表となり、王家に陳情すれば監査官を派遣し、領主の地位を剥奪することが可能だ。

「馬鹿を言え、その方法では領主が他の貴族になるだけだ! 王子達に爵位が渡らないではないか!」

「……ほら、それが本音です。貴方も陛下も領民のことなどどうでもいいのでしょう? ただ王子達に爵位を与えられれば、他はどうでもいいのです。これのどこが善行なのですか?」

 妻の鋭い指摘に公爵は言葉に詰まる。
 彼や国王にとっては領民などどうでもいい存在。だがそれを認めれば自分達は王侯貴族の義務を果たしていないことになってしまう。

 この国や周辺諸国では“王侯貴族は民のためにある”という理念が根底にある。
 弱き民を守ることこそ王侯貴族としての義務。
 それを成さぬ者は王侯貴族の資格なしとみなされる。

「貴方も、陛下も、上に立つ者として相応しくありませんわ……」

 ぽつりと零された公爵夫人の呟きは、ひどく冷たく鋭い。
 妻のそんな声に公爵は反論することも出来ず、ただ顔を青褪めさせた。

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