茶番には付き合っていられません

わらびもち

文字の大きさ
41 / 87

地獄に落ちればいい

しおりを挟む
「今更わたくしを頼ろうなんて図々しいとは思いませんの? 最初からわたくしを婚約者として丁重に扱っておけばこんなことにはならなかったのです」

「そ、それは悪かったと思っているわよ……。でも仕方ないでしょう? アレクセイはお前ではなくヘレンを愛してしまったのだから……」

「ええ、ならばになったのも仕方のない話では? 何を今更抗おうとしているのです? 廃嫡も幽閉も殿下がヘレンを愛した結果なのですから受け入れたらいかが?」

「受け入れられるわけがないでしょう!? あの子は王になる為に生まれたのよ?」

「生まれはそうでしょうけど、器が圧倒的に足りておりません。もういいではありませんか、幽閉されたとしても優しいヘレンなら殿下に寄り添ってくれるでしょうよ。幽閉先なら好きなだけ真実の愛を貫いて構いませんもの。むしろ幸福なのではなくて?」

 心優しいヒロインならば王子が幽閉されても傍にいてくれるはず。
 閉ざされた空間で二人真実の愛でも何でも貫けばいい。

「幸福なわけがないでしょう! どうしてお前はわたくしの子供たちを苦しめるの!? あの子たちが可哀想だと思わないの!」

「これっぽっちも可哀想だとは思いませんね、自業自得だと思います。……それに、貴女は何故加害者のくせに被害者ぶっているのですか?」

「は……? 加害者ですって……? ふざけないで! わたくしのどこが加害者だというの!」

「あら、無自覚ですか? これはタチが悪い……。貴女は大勢の人間を傷つけている自覚が全くないのですね。とんだ厚顔無恥です」

 呆れた目を向けると王妃は激高して立ち上がる。だが、すぐに立ち眩みを起こして女官に支えられ、そのまま椅子へと座り直した。体調が悪いなら大人しくしてなよ。

「まあ、まず被害者の一人がわたくしですね。婚約期間中貴女にいびられてきましたもの……思い出しても腸が煮えくりかえりそうですわ」

 記憶を辿るとミシェルが受けた嫁イビリの数々が鮮明に脳裏へと浮かび上がってくる。
 思わず殺意を込めた眼差しで睨みつけると王妃は小さく悲鳴をあげた。

「次に故ハスリー子爵夫人ですね。貴女のくっだらない恋心を叶える為に利用され、血の繋がらないヘレンを育てさせられたのですもの。彼女の人生を踏みにじっておいて“卑しい女”などと蔑むとは……根性が腐っておりますわね」

「はあ!? 分かりもしない部外者が勝手な事を言わないで!! あの卑しい女は図々しくも悋気を起こしてイアンと無理心中をしたのよ!? 形だけでもイアンの妻に迎えてやったというのに、彼の心まで欲しがるなんて分不相応にも程があるわ!」

「それは貴女目線の話ですよね? 部外者のわたくし目線で言わせてもらえば……『この世はアンタの為に回っているわけじゃないんだよ、愚か者が』ですよ。想像ですけど、子爵夫人には事前に承諾を得ていないですよね? きちんと“お飾りの妻”にする旨を説明し、血の繋がらない子を育ててもらうことを了承してもらっていないのでしょう?」

 図星なのか再び怒り出した王妃。そんなに怒ると血圧上がるよ? この人本当に煽り耐性低いな。そういうところはあの王子とそっくり。

「どうしてそんな事をする必要が!? 身分の低い者は上の者に従う義務があるのよ!」

「流石にそんな理不尽で非常識な事まで何の説明も無しに受け入れることは無理ですよ。夫が不貞しているだけでも嫌な気持ちになるのに、更にいきなり夫が他所で成した子供まで連れてきて今日から育てろなんて鬼畜の所業です。ああ、貴族に愛人はつきものとおっしゃりたいのでしょうけど、それは正妻を尊重してこそ成り立つものです。そして庶子(・)を説明なく邸に連れてくることはマナー違反ですよ」

「庶子ですって!? 籍が入っていないだけでイアンの本当の妻はわたくしよ! 彼が愛したわたくしが産んだ子を庶子だなんて言われたくないわ!」

「その戯言を誰が肯定してくれるのですか? 王妃様は気づいていらっしゃらないようですけど、その傲慢で配慮の足りない行動が最愛の人を死なせたのでは?」

「えっ………………?」

 自分の行動が最愛の人を死に追いやった、という言葉に王妃は唖然とした。
 その阿呆みたいな顔を一瞥し、私はこれみよがしにため息をつく。

「だって、そうでしょう? 貴女と子爵が夫人に配慮して事前に説明し、了承を得ていたら彼女を凶行に駆り立てることもなかった。子爵がご存命ならヘレンも今頃は子爵令嬢として優雅な生活を送っていたことでしょう。そう思いません?」

「な、なによ! わたくしのせいだと言いたいの!? どう考えてもイアンを手にかけたあの女が一番悪いでしょう!」

「夫人を狂気に駆り立てたのは貴女でしょう、王妃様? ……貴女、身分がどうこう言っていますけど……本音は違うのではないですか?」

「はあ……!? 何よ、本音って……!」

「夫人をお飾りの妻へと迎えたのは貴女と子爵の仲を隠す為、そして生まれた子を育てさせる為ですよね? その陰謀は貴女と子爵のどちらが企てたかは知りません。だけど、少なくとも貴女は自分以外の女性が子爵の妻となり、ヘレンの母となるのは嫌だったのではありませんか?」

 王妃は分かりやすく動揺した。やっぱりそうだ、この自己中心的な女が恋人に仮初でも伴侶が出来ることを許すとは思えない。物事を合理的に判断できる人ならばそれで納得しただろうが、こんな感情で生きている女には無理だ。

 どうせ何も知らない夫人を傷つけて楽しんでいたのだろう。自分の方が子爵に愛されている、勘違いするなと知らしめて夫人が傷つく様を想像して笑っていた姿が想像つく。性格がドブのこの女ならそれくらいやりかねない。

「……そうよっ!! あんな卑しい女がイアンの妻の座にいることが許せなかった……! わたくしとイアンの愛の結晶であるヘレンを育てさせたくなかった! 大人しく離縁でもすればよかったのに……あろうことかわたくしのイアンを手にかけるなんてっ……!!」

「ふーん……想像力が無いのですね。実家が無いうえに手に職も無いご婦人が簡単に離縁できるわけがないですよ。貴女はいつもそう、感情のままに想像力を欠いた言動ばかりをとる。その結果がこれですよ。最愛の人を死に追いやり、最愛の息子と娘の未来を奪い、自分の生家とハスリー家を破滅へと追いやる。まるで疫病神のようですね?」

 辛辣な事実を突きつけられた王妃は罪悪感なのか頭を抱えて「ちがう……わたくしのせいじゃ……」とぶつぶつ呟き始めた。

 ミシェルを散々傷つけて嘲笑っていた王妃の項垂れる様に胸がすく思いがした。

「それと陛下も被害者ですね。ご自分の妃がいつの間にか他所の男の子供を産んでいたのですもの。いや、中々ここまで非常識で度し難い行動をとる人いませんよ、流石は自分が一番の王妃様! やっていることが下衆! ……これだけ今まで好き勝手やってきたのですから、そろそろ報いを受けるべきでは? 貴女も、貴女そっくりのご子息も……地獄に落ちればいい」

 自分でも驚くほど低い声が出た。今までの恨みが籠ったような低く冷たい声音に王妃は「ひいいい!?」と甲高い声を上げて立ち上がった。

 そして再び立ち眩みを起こしたところで私は王妃付きの護衛に向かい、冷めた声で告げる。

「これ以上無理をさせない方がよろしくてよ」

 さっさと連れて帰れ、という意味が伝わったようで護衛は深々と頭を下げる。
 そしてそのまま王妃を抱えるようにして部屋を後にしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたへの愛を捨てた日

柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。 しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。 レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。 「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」 エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

不実なあなたに感謝を

黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。 ※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。 ※曖昧設定。 ※一旦完結。 ※性描写は匂わせ程度。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

処理中です...