フランチェスカ王女の婿取り

わらびもち

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ヨーク公爵家への訪問

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「フランチェスカ様、よろしければ今度当家へいらっしゃいませんか?」

 ルイと正式に婚約を結び、王宮にて交流を深めていると彼から邸への招待を受けた。

「ルイ様のお邸に? 嬉しいですわ、ですの」

 私と婚約を結んだことにより、ルイは正式にヨーク公爵の養子となり本邸に移り住むこととなった。
 なので今の彼の住まいはヨーク公爵家だ。

 ちなみに私はセレスタンとの婚約中に彼の邸に招かれたことは一切ない。
 婚約者を自分の邸に招かないというのは、相手を歓迎していないという意味にとられる。セレスタンがそのことを知っていてわざとそうしたのか、知らずにそうしたのかは分からない。分からないが、彼が私を”歓迎していない”という意思を示しているのは明らかだ。よくも王女相手にそんな無礼な態度をとれたものだとつくづく呆れてしまう。

「ああ……セレスタン様は貴女にそんな無礼を。申し訳ございません、ヨーク公爵家の者として彼の非礼をお詫び申し上げます」

 ルイは聡い人だ。こうして言葉の意味をすぐに理解し、それに見合う言葉を返せるのだから。

「私の方こそごめんなさい。意地の悪いことを申しましたね……」

「いいえ、そのような所もお可愛らしいです。それに素直に心の内を晒してくださるのは嬉しいですよ」

 試すような言動をしてしまったのに、少しも嫌な顔をせず答えてくれるルイに思わず顔が綻んでしまう。

「ルイ様、お招き頂きありがとうございます。是非とも伺わせてくださいませ」

 心からの言葉を素直な笑みと共に返すと、ルイは嬉しそうな顔を見せた。

「よかった! それではいつに致しましょうか?」

「では、次の交流日はいかがでしょう?」

 ルイとは週に一度の交流日を設けている。
 本当はもっと会う日を増やしたいのだけれど、これは王宮でそう決められていることだから私の我儘で変えることは出来ない。

 もっと会いたいと思う事なんてセレスタンの時は一切なかった。
 まあ、あの男が会って交流していたのは私ではなく”愛しのアン”だったのだが。

 こうして次の交流日にヨーク公爵家を訪問することが決まった。
 そして私はその日まで着ていく服に悩んだり、手土産に悩んだりするのであった。



「姫様、ようこそ当家へお越しくださいました」

 待ちに待った交流の日、ヨーク公爵家を訪れた私を出迎えてくれたのは公爵家当主一家と使用人一同だった。

 一家総出で婚約者を出迎えるというのは珍しい。私が王女だからという他に、セレスタンの時に一度もこの邸に招いていないことへの詫びも込めているのだろう。

 当主一家の中には当然セレスタンはおらず、夫妻と嫡男、そしてルイのみであった。
 まだ邸から追い出されてはいないと聞いたので、きっと何処かに軟禁されているはず。

「今日は天気も良いですし、丁度庭園の花も見頃です。よろしければそちらでお茶にいたしましょう」

 そう言ってルイが手を差し出したので、その瞬間私はセレスタンのことを頭から消し去った。

「ええ、楽しみですこと」

 この邸の何処かにセレスタンがいようが別に気にすることはない。
 公爵夫妻も彼を私の前に出すような真似はしないだろうし、万が一会ってしまったとしてもこちらには護衛もいるし何とでもなるのだから。


「フランチェスカ様、本日のお召し物もよく似合っております」

「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいですわ」

 ルイは早速私の服について褒めてくれた。
 こうして褒めてくれると、今日着ていくための服を散々悩んだ甲斐がある。

「それにしても見事な庭園ですね。ここまで見事ですと、庭というよりも花園のようだわ」

 満開の花々が広大な土地に咲き乱れる様は実に素晴らしく壮観だ。
 王宮の庭でもここまで広く花が植えられている場所はない。

義母上公爵夫人は花がお好きなようでして。ここでしか見れないような珍しい花もあるみたいですよ」

「あら、本当。あのクリーム色の花やその隣の青い花は初めて目にするわ。とても綺麗……」

「気に入って頂けたのであれば義母も喜びましょう。そうだ、あの花をいくつかお土産にご用意するよう義母に頼んできますね」

 そう言ってルイはその場を中座した。
 
 私が「綺麗」と思った花を贈ろうとする彼の心遣いが嬉しい。
 そう思うとまた体が熱くなり、頬が熱で赤く染まっていくのが分かる。
 火照ってしまった頬を冷まそうとして、私はぬるくなったお茶に口をつけた。

 
「お菓子は如何ですか? この苺のタルトなんかお勧めです」

「は……?」

 黙ってお茶を飲んでいるといきなり声をかけられる。
 私は訝し気な顔で声のする方に目をやると、そこには公爵家のお仕着せを纏った年若い侍女が立っていた。

「この苺のタルトはルイの好物なんですよー。ルイは苺が大好きでしてね」

「……………」

 馴れ馴れしい口調で王女の婚約者を呼び捨てにする無礼な侍女に私は口を噤んだ。

 彼女が何のつもりでそのような態度を取るのかは知らないが、言葉を返してやる義理はない。

 私は無言で側にいる専属侍女のアリスに目配せをした。
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