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御機嫌よう、転生者様③

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「ち、ちがう……私は偽物なんかじゃ……」

「自分で言ったことではありませんか? 転生者は偽物だと」

「いや、それはお前に向かって言ったことで……」

「あら? 同じ転生者なのに、わたくしは偽物で自分は本物だとでも? ですが貴方は本物の”セレスタン”がしないような言動をしております。それって偽物であることの証明では?」

「本物がしないような言動……? 何だそれは?」

「まず、本物の”セレスタン”は甘い食べ物が苦手です。なのに貴方はどちらかと言えば甘党ですよね? 紅茶に砂糖をたっぷり入れるし、ワインだって甘口を好みますし。それに思った事を場所も状況も相手も考えずに平気で口に出しますよね? 本物はそんなことしませんでしたよ。貴方は前世の性格や考え方、言動に大分引きずられているのではなくて?」

「そ、それは………」

「貴方が偽物だからアンヌマリーと幸せな結末を迎えられなかったのですよ。考え無しにアンヌマリーとの関係を白日の下に晒すような真似をするからあんな大騒動になってしまった。貴方がもっと慎重に動いてさえいれば、あんな最悪の結果は招かなかったでしょうよ」

「わ……私だけが悪いのではない! そもそもお前が小説とは違う事をするから悪いんだろう!? 特定の侍女にブローチを渡すような事をするから私も一言いわずにはいられなくなったんだ!」

「少なくとも、本物の”セレスタン”でしたらそんな事はしなかったと思いますよ。貴族ならば策を弄して望む結果を生み出すことが普通です。気づいてます? 貴方の言動ってこの世界にはそぐわないものばかりなんですよ」

「は? どういうことだ!?」

「まず、この世界の貴族は人前で声を荒げるような真似はしません。みっともないからです。次に身分が上の者に対して偉そうに振る舞うようなこともしません。身分主義ですので。それに……貴方はこの世界に無い言葉を平気で使っているのですよ」

「この世界に無い言葉……だと?」

「ええ、”前泊り”や先ほど仰った”土下座”がそうです。前者はこの世界にはない風習です。小説の世界にはありますけど。そして後者もそうです。この世界にいる誰もその二つの言葉を知りませんよ? わたくしは貴方がそれを使っているのを聞き、貴方が転生者であると確信したのです」

 彼が”土下座”という言葉を使ったことで疑惑が確信に変わった。
 この世界にそんな言葉は存在しないからだ。
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