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公爵夫人の来訪①
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あれからルイと私は互いに事件の後処理に追われ、会えない日々が続いていた。
ひと月経ち、ふた月経ち、それでも会う時間のとれない私達の連絡手段は専ら手紙のみ。
なので彼から届く手紙を私はいつも心待ちにしていた。
「まあ……! 前公爵夫妻は別居されたのね……」
ルイの手紙に書かれていたこと、それはあの事件がきっかけで前公爵夫人が離縁前提の別居を前公爵に申し出たという衝撃的な話であった。
以前から夫人は夫である前公爵に思うところがあったらしく、今回国王にセレスタンの助命を嘆願したことで我慢が出来なくなってしまったそうだ。
息子が当主の座に就き、ルイも私と結婚することが決まっている。
ならば自分がすべきことはもう何もない、ならば余生は静かに過ごしたいと早々に生家へと戻ったそう。
だがこの手紙を読んだ翌日、その生家に戻ったはずの前公爵夫人が何故か私を訪ねて王宮までやってきたのだ。
「王女殿下、この度は愚息が多大なご迷惑をおかけして誠に申し訳ございませんでした……。謝って済むことでは決してございませんが、せめて謝罪だけでもさせて頂けたらと……」
久しぶりに見た前公爵夫人は以前の姿より大分痩せ細り、髪から艶も失われている。
だがその表情は晴れやかで、迷いを全て振り切った清々しさに満ちていた。
以前と比べて地味な服装に身を包んでいるが、それでも私に向かって深々と頭を下げる姿は実に優美でまさに貴婦人のお手本のよう。
「頭を上げてくださいな。それに謝るというのなら、わたくしもそうです。ご子息を刑に処すと決めたのはわたくしですから……」
「いえ、それは当然のことでございますので、王女殿下が気に病むことは一切ございません。わたくしを気遣ってくださりありがとうございます」
客人をいつまでも立たせておくわけにはいかないと、私は彼女を自分の宮へと招いた。
*
「素晴らしい庭園ですね。隅々まで調和がとれていて、とても美しいです」
「ふふ、公爵家の庭園も素晴らしかったですよ」
「まあ、お褒め頂きありがとうございます。……こうして、殿下と二人でお話しするのは初めてですね」
「ええ、そうですね……。わたくし達あまり交流がなかったものですから」
私と彼女はいわば嫁と姑の関係である。なのにこれまで全くと言っていいほど交流が無かった。
「申し訳ございません、本来でしたらもっとわたくしの方から殿下を邸にお招きすべきでしたのに……。本当にそういった気の利かない女で……恥ずかしいです」
「いいえ、わたくしも貴女を王宮へとお招きして交流を図るべきでした……。こちらこそ申し訳なかったです」
義理の母子となるのだから本来ならばもっと交流を図ろうとするものだ。
なのに私達は何故か互いに最低限の付き合いしかしてこなかった。
嫌いとか苦手とか、そういう負の感情があったわけではない。
むしろ”無”だった、という表現がしっくりくる。
これは想像でしかないのだが……おそらくそれは彼女が小説には出てこない存在だからではないだろうか。
今考えると私が前世の記憶を取り戻す前、この世界は小説の展開通りに進んでいたかのように思う。
名前のあるキャラクターだけが決められた通りの動きを誰かに見せるように。
だから”フランチェスカ”である私は同じく名前のあるキャラクター”セレスタン”のことのみ考えて動いていた。
こちらを嫌う婚約者のことしか考えられない、愚かで哀れな当て馬として。
小説の中に”セレスタン”の母親の存在は出てこなかった。
いや、もしかすると出ていたのかもしれないが、あっても微々たるものだっただろう。
私と彼女が関わらなくとも物語は進む。だから互いに自然と関わらなかった。
どう考えても異常。記憶を取り戻す前そんな状態だったのかと思うとひどくゾッとする。
ひと月経ち、ふた月経ち、それでも会う時間のとれない私達の連絡手段は専ら手紙のみ。
なので彼から届く手紙を私はいつも心待ちにしていた。
「まあ……! 前公爵夫妻は別居されたのね……」
ルイの手紙に書かれていたこと、それはあの事件がきっかけで前公爵夫人が離縁前提の別居を前公爵に申し出たという衝撃的な話であった。
以前から夫人は夫である前公爵に思うところがあったらしく、今回国王にセレスタンの助命を嘆願したことで我慢が出来なくなってしまったそうだ。
息子が当主の座に就き、ルイも私と結婚することが決まっている。
ならば自分がすべきことはもう何もない、ならば余生は静かに過ごしたいと早々に生家へと戻ったそう。
だがこの手紙を読んだ翌日、その生家に戻ったはずの前公爵夫人が何故か私を訪ねて王宮までやってきたのだ。
「王女殿下、この度は愚息が多大なご迷惑をおかけして誠に申し訳ございませんでした……。謝って済むことでは決してございませんが、せめて謝罪だけでもさせて頂けたらと……」
久しぶりに見た前公爵夫人は以前の姿より大分痩せ細り、髪から艶も失われている。
だがその表情は晴れやかで、迷いを全て振り切った清々しさに満ちていた。
以前と比べて地味な服装に身を包んでいるが、それでも私に向かって深々と頭を下げる姿は実に優美でまさに貴婦人のお手本のよう。
「頭を上げてくださいな。それに謝るというのなら、わたくしもそうです。ご子息を刑に処すと決めたのはわたくしですから……」
「いえ、それは当然のことでございますので、王女殿下が気に病むことは一切ございません。わたくしを気遣ってくださりありがとうございます」
客人をいつまでも立たせておくわけにはいかないと、私は彼女を自分の宮へと招いた。
*
「素晴らしい庭園ですね。隅々まで調和がとれていて、とても美しいです」
「ふふ、公爵家の庭園も素晴らしかったですよ」
「まあ、お褒め頂きありがとうございます。……こうして、殿下と二人でお話しするのは初めてですね」
「ええ、そうですね……。わたくし達あまり交流がなかったものですから」
私と彼女はいわば嫁と姑の関係である。なのにこれまで全くと言っていいほど交流が無かった。
「申し訳ございません、本来でしたらもっとわたくしの方から殿下を邸にお招きすべきでしたのに……。本当にそういった気の利かない女で……恥ずかしいです」
「いいえ、わたくしも貴女を王宮へとお招きして交流を図るべきでした……。こちらこそ申し訳なかったです」
義理の母子となるのだから本来ならばもっと交流を図ろうとするものだ。
なのに私達は何故か互いに最低限の付き合いしかしてこなかった。
嫌いとか苦手とか、そういう負の感情があったわけではない。
むしろ”無”だった、という表現がしっくりくる。
これは想像でしかないのだが……おそらくそれは彼女が小説には出てこない存在だからではないだろうか。
今考えると私が前世の記憶を取り戻す前、この世界は小説の展開通りに進んでいたかのように思う。
名前のあるキャラクターだけが決められた通りの動きを誰かに見せるように。
だから”フランチェスカ”である私は同じく名前のあるキャラクター”セレスタン”のことのみ考えて動いていた。
こちらを嫌う婚約者のことしか考えられない、愚かで哀れな当て馬として。
小説の中に”セレスタン”の母親の存在は出てこなかった。
いや、もしかすると出ていたのかもしれないが、あっても微々たるものだっただろう。
私と彼女が関わらなくとも物語は進む。だから互いに自然と関わらなかった。
どう考えても異常。記憶を取り戻す前そんな状態だったのかと思うとひどくゾッとする。
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