王妃となったアンゼリカ

わらびもち

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アンゼリカと婚約の締結①

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「グリフォン公爵が長女、アンゼリカにございます」

 謁見の間にてアンゼリカは周囲が見惚れるほどの優雅な礼を披露した。
 清楚だが上質の絹に高価な真珠をふんだんに縫い付けたドレスと、それに劣らぬ美貌の少女にその場にいる一堂は息を飲んだ。

「これはこれは……なんと美しい。グリフォン公爵、そなたの掌中の珠は白薔薇の如く可憐だな」

「お褒め頂き恐縮にございます」

 国王から娘への賛辞を貰った公爵は、一見しおらしく首を垂れるもその顔には嘲りが浮かんでいた。

「さて、アンゼリカ嬢よ。此度は我が息子との婚約を受けいれてくれたこと、誠に感謝する。其方も知っての通り、以前の婚約者のサラマンドラ嬢は妃の座に就くことが困難となってしまったのでな」

 この国王の言葉にアンゼリカは顔から表情を消した。

 病に伏してしまった、ではなくお前の息子が病に追い込んだのだろう。
 それなのによくもまあ白々しい台詞が吐けたものだ。

 つい罵倒の言葉を口にしそうになったが、父親に「アンゼリカ」と諫めるように名を呼ばれハッと我に返り、すぐに淑女の笑みを張り付けた。

「お言葉ですが陛下、婚約を受けるにあたって条件があると書状に記したことを覚えていらっしゃいますか?」

「は? あ、ああ……そういえばそうだったな。条件とは何だ? 申してみよ」

 こちらが言わなければそのまま流すつもりだったのかと知り、アンゼリカと公爵は不快に眉を歪めた。
 国王はそんな二人の様子に気付き、気まずそうに目を逸らす。

「わたくしが出す条件とはただ一つでございます。それは『婚約以降わたくしの行動について一切の不敬を問わない』というもの。こちらをお約束頂けるのでしたら喜んで婚約を受け入れましょう」

「無礼だぞ! なんだその有り得ない条件は!?」

 呆然とする国王に変わりアンゼリカの言葉に反応したのは王太子だった。
 
 その反応から彼がと察した公爵が、娘の代わりに口を開く。

「おやおや……陛下、確か貴方様から戴いた返事には『如何なる条件も受け入れる』と記載してあったと記憶しておりますが?」

「い、いや……公爵、いくら何でもその条件を呑むわけには……」

 アンゼリカの条件はすなわち彼女が今後どのような横暴を働こうが一切罪に問わないというもの。
 そして彼女の要望に国王ですら従わなければならないという、実質この城の頂点が彼女だと認めるもの。

 そんな無茶苦茶な条件を呑むわけにはいかない、と口籠る国王を公爵はじっと見つめた。
 やけに威圧を感じる視線に国王は額から滝のような汗を流し始めた。

「公爵! 其方も娘も臣下の分際で国王陛下になんて態度だ! お前たちのような無礼な親子は二度とこの王城の門を「やめんかエドワード!!」」

 言葉を途中で遮られ、王太子エドワードは「ち、ちちうえ……?」と情けない声を出す。国王はそんな息子を睨みつけた後、公爵に向かって姿勢を正す。

「あいわかった、公爵。アンゼリカ嬢の条件を呑もうではないか……」

「おお、流石は英邁なる国王陛下でございますな! いや、こんな簡単な条件も吞めないのであれば予定でしたよ。ご英断、流石にございます」

 たっぷりと皮肉の込められた公爵の言葉に国王は悔しそうに唇を噛みしめた。
 こんな馬鹿な条件など吞みたくない。そう言いたいだろうが国王には言えない理由がある。

「父上! どうしてこんな馬鹿げた条件を承諾してしまうのですか!? 何より王家を愚弄したこの態度を許してはいけません!」

「黙れ! これは国王たる余が決めたことだ! 王太子でしかない其方が口を挟むことではない!」

 納得できないことで叱責され、悔しそうに俯く息子に国王はため息が漏れそうになった。何故こんな馬鹿げた条件を呑んでまでアンゼリカに婚約者となってもらいたいのかを、息子は全く理解していない。

 ────もとはと言えばお前が前の婚約者ミラージュを追い詰めたせいだろう!
 
 そう怒鳴りつけてしまいたい。
 国王は自らのやらかしを親に尻拭いしてもらっているにも関わらず、全く悪いと思っていない息子に嫌気が差した。

 
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