8 / 109
王太子と王宮の医師
しおりを挟む
一方、王宮の医務室では呆れた顔をした医師が重症の側近を診察していた。
「これは……全身の骨が折れておりますし、歯も何本か抜けておりますね。王宮内でどうやったらこんな怪我を負えるのです?」
医師は「ゴリラにでも襲われたのですか?」と王太子に尋ねた。
側近の傷はゴリラ並みの腕力で吹っ飛ばされたかのように見える。
衛兵が配置されている平和な王宮内でどうやったらこんな重傷を負えるのか不思議で仕方がなかった。
「それは私にも分からない……! あの女を𠮟りつけようとしたらこんなことに……」
「あの女? まさか殿下は婦女子相手に暴行を働こうとしたのですか……?」
「なっ……ち、ちがう! 無礼な態度を改めさせようとしただけだ!!」
「改めさせる? 何をどうしようとしたのかは知りませんが、このような返り討ちに遭うということは何らかの暴力に及んだのでは?」
「いや……彼はただ私の為にアンゼリカを怒鳴りつけようとしただけで……」
「アンゼリカ……? まさか、殿下方はグリフォン公爵令嬢に無礼を働いたということですか?」
医師の責め立てるような視線に王太子はバツが悪そうに目を逸らした。
「殿下……陛下よりグリフォン公爵家のご息女を丁重に扱えと申し付けられておりますことをお忘れで?」
「そ、それは……だが! 私は王太子だぞ? たかが臣下の娘如きにへりくだるなど……」
医師は大袈裟なほど大きなため息をつき、胡乱な目を向けた。
「殿下……王宮を維持するための資金及び王族方の生活資金が何処から支払われているかをご存じですか?」
「は? 資金……? 何だいきなりそんな関係のない話をして……」
「関係ないなどと言われては困るのですよ! いいですか? 先程申し上げた資金のみならず、我々使用人の給金だって支払っているのは貴方の婚約者の家なのですよ!? それを知らないとは言わせませんからね!」
「そ、それは……知っているが……」
「知っているなら婚約者様に対しての態度を改めてください! アンゼリカ様に婚約を解消されたらもう後がないって分かっていますか!?」
先程の教師の態度からも察せるように、この城で王太子の威信は地の底に落ちていた。自分が施しを受ける側だと自覚しない横柄な態度の数々は目に余るというのもあるが、理由はそれだけではない。
「うるさい! 私は王太子だぞ!? どうして臣下の娘如きに媚びを売る必要が……」
「必要に決まっているでしょうが!! だいたい、殿下がミラージュ様と婚約破棄したせいで我々の給金は一月分未払いになっていたんですからね!?」
「は……? 給金が未払い? それは婚約破棄と何の関係があるのだ……?」
「それまでサラマンドラ家が給金を支払ってくれていたからですよ……! 婚約破棄して何の関係もなくなればお金なんて支払いませんよ! 未払い分も含めて昨日グリフォン公爵家が支払ってくれなければ、王宮にいる使用人は全員辞職願を提出するところでした。もちろん私も含めて……」
自分達が給金未払いで苦しんでいるというのに、元凶である王太子の生活は何も変わらなかった。
だからこんな愚かな言動を繰り返すのだと思うと医師は腸が煮えくり返りそうな思いに駆られる。
「大切な事なので何度も申し上げます。殿下、アンゼリカ様を丁重に扱ってください。そうしないとこの王宮から使用人が全て消えますよ?」
医師の剣幕に圧倒される王太子は言葉を詰まらせる。
それでも何か反論しようとすると、医務室の扉がけたたましい音を立てて開かれた。
「これは……全身の骨が折れておりますし、歯も何本か抜けておりますね。王宮内でどうやったらこんな怪我を負えるのです?」
医師は「ゴリラにでも襲われたのですか?」と王太子に尋ねた。
側近の傷はゴリラ並みの腕力で吹っ飛ばされたかのように見える。
衛兵が配置されている平和な王宮内でどうやったらこんな重傷を負えるのか不思議で仕方がなかった。
「それは私にも分からない……! あの女を𠮟りつけようとしたらこんなことに……」
「あの女? まさか殿下は婦女子相手に暴行を働こうとしたのですか……?」
「なっ……ち、ちがう! 無礼な態度を改めさせようとしただけだ!!」
「改めさせる? 何をどうしようとしたのかは知りませんが、このような返り討ちに遭うということは何らかの暴力に及んだのでは?」
「いや……彼はただ私の為にアンゼリカを怒鳴りつけようとしただけで……」
「アンゼリカ……? まさか、殿下方はグリフォン公爵令嬢に無礼を働いたということですか?」
医師の責め立てるような視線に王太子はバツが悪そうに目を逸らした。
「殿下……陛下よりグリフォン公爵家のご息女を丁重に扱えと申し付けられておりますことをお忘れで?」
「そ、それは……だが! 私は王太子だぞ? たかが臣下の娘如きにへりくだるなど……」
医師は大袈裟なほど大きなため息をつき、胡乱な目を向けた。
「殿下……王宮を維持するための資金及び王族方の生活資金が何処から支払われているかをご存じですか?」
「は? 資金……? 何だいきなりそんな関係のない話をして……」
「関係ないなどと言われては困るのですよ! いいですか? 先程申し上げた資金のみならず、我々使用人の給金だって支払っているのは貴方の婚約者の家なのですよ!? それを知らないとは言わせませんからね!」
「そ、それは……知っているが……」
「知っているなら婚約者様に対しての態度を改めてください! アンゼリカ様に婚約を解消されたらもう後がないって分かっていますか!?」
先程の教師の態度からも察せるように、この城で王太子の威信は地の底に落ちていた。自分が施しを受ける側だと自覚しない横柄な態度の数々は目に余るというのもあるが、理由はそれだけではない。
「うるさい! 私は王太子だぞ!? どうして臣下の娘如きに媚びを売る必要が……」
「必要に決まっているでしょうが!! だいたい、殿下がミラージュ様と婚約破棄したせいで我々の給金は一月分未払いになっていたんですからね!?」
「は……? 給金が未払い? それは婚約破棄と何の関係があるのだ……?」
「それまでサラマンドラ家が給金を支払ってくれていたからですよ……! 婚約破棄して何の関係もなくなればお金なんて支払いませんよ! 未払い分も含めて昨日グリフォン公爵家が支払ってくれなければ、王宮にいる使用人は全員辞職願を提出するところでした。もちろん私も含めて……」
自分達が給金未払いで苦しんでいるというのに、元凶である王太子の生活は何も変わらなかった。
だからこんな愚かな言動を繰り返すのだと思うと医師は腸が煮えくり返りそうな思いに駆られる。
「大切な事なので何度も申し上げます。殿下、アンゼリカ様を丁重に扱ってください。そうしないとこの王宮から使用人が全て消えますよ?」
医師の剣幕に圧倒される王太子は言葉を詰まらせる。
それでも何か反論しようとすると、医務室の扉がけたたましい音を立てて開かれた。
4,029
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。
金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。
前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう?
私の願い通り滅びたのだろうか?
前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。
緩い世界観の緩いお話しです。
ご都合主義です。
*タイトル変更しました。すみません。
婚約破棄されたので、戻らない選択をしました
ふわふわ
恋愛
王太子アルトゥールの婚約者として生きてきた
貴族令嬢ミディア・バイエルン。
だが、偽りの聖女シエナに心を奪われた王太子から、
彼女は一方的に婚約を破棄される。
「戻る場所は、もうありませんわ」
そう告げて向かった先は、
王都から遠く離れたアルツハイム辺境伯領。
権力も、評価も、比較もない土地で、
ミディアは“誰かに選ばれる人生”を静かに手放していく。
指示しない。
介入しない。
評価しない。
それでも、人は動き、街は回り、
日常は確かに続いていく。
一方、王都では――
彼女を失った王太子と王政が、
少しずつ立ち行かなくなっていき……?
派手な復讐も、涙の和解もない。
あるのは、「戻らない」という選択と、
終わらせない日常だけ。
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……
くわっと
恋愛
21.05.23完結
ーー
「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」
差し伸べられた手をするりとかわす。
これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。
決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。
彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。
だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。
地位も名誉も権力も。
武力も知力も財力も。
全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。
月並みに好きな自分が、ただただみっともない。
けれど、それでも。
一緒にいられるならば。
婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。
それだけで良かった。
少なくとも、その時は。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる