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器ではない
「……お前もミラージュも正論ばかりだ! 私の気持ちなどちっとも考えていない! ルルナは私の癒しだ。王太子としての重責に潰されそうになった時、彼女の存在がどれだけ支えになったことか……」
王太子の告白にルルナは目を潤ませ「エド様……」と彼の顔を見上げた。
二人の間に再び甘い空気が漂ったが、またしてもアンゼリカがそれをばっさりと切り捨てる。
「なるほど、殿下にとってビット男爵令嬢は“癒し”だと。その“癒し”がなければ王太子としての重責に耐えられないと、そう仰るのですね?」
「……そうだっ! お前には分からないだろうが、未来の王となる私は日々重い重責に悩まされている。それを癒してくれるのはルルナだけだ! これは本来婚約者であるお前の役目なんだぞ!? それをルルナが代わりに努めてくれているのだから感謝位したらどうなんだ!!」
あまりにも自分勝手な言い分。
王太子はこれと似たような台詞を前の婚約者のミラージュにも常日頃から言っていた。
ルルナは癒しだと、親が決めた婚約者のお前には癒されない、と。
真面目で優しいミラージュは王太子の戯言をそのまま受け取り心を痛めていた。
婚約者を癒してあげられない自分が悪いのだと。
これを言えばミラージュが黙った学習した王太子は、同じことをアンゼリカに対しても言った。
これさえ言えば、アンゼリカは婚約者を癒せない不甲斐ない自分を責めるだろうと。
だが、他人への優しさなど持ち合わせていないアンゼリカに効果はない。
むしろそれにより更に攻撃力の高い言葉を投下されるとは、この時の王太子は全く予測していなかった。
「そうですか。他者に癒しを求めなければ王太子として成り立たない殿下は……王の器ではありませんね」
「は…………? 今、なんて……」
「殿下は為政者としての器を持ち合わせていない、と申しました。他者に癒しを求めなければ王太子として成り立たないなんて、自分で言って恥ずかしくないのですか?」
「は、はああ!? き、貴様……なんて無礼な!」
「だってそういうことでしょう? ビット男爵令嬢がいなければ、貴方は王太子としても国王としても成り立たないのでしょう? そんな矮小な器では為政者として不安ですわね……。致し方ないので国王陛下に王太子を替えるよう進言致します」
「なっ……!? なんでそうなる! 私以外が王太子なんて……有り得ないだろう!?」
「どうして有り得ないのですか? 国王陛下の御子は確かに殿下だけですが、王位継承権を持つ方は他にもいらっしゃるでしょう? 確かサラマンドラ公爵家にも王家の血は流れているはずです」
過去に王女が降嫁しているサラマンドラ公爵家にも王家の血は流れている。
王太子が継承権一位なら、サラマンドラ公爵とその子息は二位と三位の継承権を持つ。
「癒されないと王としての重責に耐えられないのでしたら、殿下は為政者として向いていないのでしょう。辛い思いをするよりもその役目を誰かに譲ってしまえばいいのです。ご自分では言いにくいのでしたら、わたくしの方から陛下に進言しておきます」
では御前失礼、と優美な礼を見せるアンゼリカを王太子は呆けた目でただ見ていた。文句にせよ、止めるにせよ、何か言わなければいけないのに声が出ない。
「エ、エド様…………」
ルルナが名を呼ぶと王太子はハッと我に返った。
呆けている間にアンゼリカはどこかへ行ってしまったようで、周囲を見渡しても姿が見えない。
「エド様……私、あの人怖いです……」
「ルルナ…………」
ルルナは心の底からアンゼリカに恐怖したようで、顔面蒼白のまま涙をはらはらと流している。
「以前、令嬢たちから色々言われた時も怖かったですけど……あの人の怖さはそういうのとは違う……」
それは王太子も同感だった。正論や嫌味を吐いてくる人間はこれまでもいたが、アンゼリカはそういった人間とは格が違う。
こちらが何を言っても感情を揺さぶられることなく、ただ淡々と本質を突いてくる。
反論したくとも、人としての温もりを感じさせない人形のような顔でそれを告げられると怒りよりも恐怖が勝る。
「ルルナ……怖い思いをさせてすまない」
王太子はルルナを優しく抱き締める。
相手を安心させるようなその行為は己の心を落ち着かせるものでもあった。
婚約してまだ数日しか経っていない年下の婚約者に人格を根底から否定され、本来ならば血管が千切れるほど怒り狂ってもおかしくないはず。なのに、何故か先ほどから恐怖しか感じない。
あの、美しいが温度を感じさせないアンゼリカの青い瞳。
凍った海を思わせる氷結の青。あの絶対零度の瞳に見据えられると恐怖で足がすくむ。
あんな恐ろしい女が妻になるなど耐えられない。
王太子は恐怖で身震いし、ふとよからぬ考えを頭に浮かべた。
王太子の告白にルルナは目を潤ませ「エド様……」と彼の顔を見上げた。
二人の間に再び甘い空気が漂ったが、またしてもアンゼリカがそれをばっさりと切り捨てる。
「なるほど、殿下にとってビット男爵令嬢は“癒し”だと。その“癒し”がなければ王太子としての重責に耐えられないと、そう仰るのですね?」
「……そうだっ! お前には分からないだろうが、未来の王となる私は日々重い重責に悩まされている。それを癒してくれるのはルルナだけだ! これは本来婚約者であるお前の役目なんだぞ!? それをルルナが代わりに努めてくれているのだから感謝位したらどうなんだ!!」
あまりにも自分勝手な言い分。
王太子はこれと似たような台詞を前の婚約者のミラージュにも常日頃から言っていた。
ルルナは癒しだと、親が決めた婚約者のお前には癒されない、と。
真面目で優しいミラージュは王太子の戯言をそのまま受け取り心を痛めていた。
婚約者を癒してあげられない自分が悪いのだと。
これを言えばミラージュが黙った学習した王太子は、同じことをアンゼリカに対しても言った。
これさえ言えば、アンゼリカは婚約者を癒せない不甲斐ない自分を責めるだろうと。
だが、他人への優しさなど持ち合わせていないアンゼリカに効果はない。
むしろそれにより更に攻撃力の高い言葉を投下されるとは、この時の王太子は全く予測していなかった。
「そうですか。他者に癒しを求めなければ王太子として成り立たない殿下は……王の器ではありませんね」
「は…………? 今、なんて……」
「殿下は為政者としての器を持ち合わせていない、と申しました。他者に癒しを求めなければ王太子として成り立たないなんて、自分で言って恥ずかしくないのですか?」
「は、はああ!? き、貴様……なんて無礼な!」
「だってそういうことでしょう? ビット男爵令嬢がいなければ、貴方は王太子としても国王としても成り立たないのでしょう? そんな矮小な器では為政者として不安ですわね……。致し方ないので国王陛下に王太子を替えるよう進言致します」
「なっ……!? なんでそうなる! 私以外が王太子なんて……有り得ないだろう!?」
「どうして有り得ないのですか? 国王陛下の御子は確かに殿下だけですが、王位継承権を持つ方は他にもいらっしゃるでしょう? 確かサラマンドラ公爵家にも王家の血は流れているはずです」
過去に王女が降嫁しているサラマンドラ公爵家にも王家の血は流れている。
王太子が継承権一位なら、サラマンドラ公爵とその子息は二位と三位の継承権を持つ。
「癒されないと王としての重責に耐えられないのでしたら、殿下は為政者として向いていないのでしょう。辛い思いをするよりもその役目を誰かに譲ってしまえばいいのです。ご自分では言いにくいのでしたら、わたくしの方から陛下に進言しておきます」
では御前失礼、と優美な礼を見せるアンゼリカを王太子は呆けた目でただ見ていた。文句にせよ、止めるにせよ、何か言わなければいけないのに声が出ない。
「エ、エド様…………」
ルルナが名を呼ぶと王太子はハッと我に返った。
呆けている間にアンゼリカはどこかへ行ってしまったようで、周囲を見渡しても姿が見えない。
「エド様……私、あの人怖いです……」
「ルルナ…………」
ルルナは心の底からアンゼリカに恐怖したようで、顔面蒼白のまま涙をはらはらと流している。
「以前、令嬢たちから色々言われた時も怖かったですけど……あの人の怖さはそういうのとは違う……」
それは王太子も同感だった。正論や嫌味を吐いてくる人間はこれまでもいたが、アンゼリカはそういった人間とは格が違う。
こちらが何を言っても感情を揺さぶられることなく、ただ淡々と本質を突いてくる。
反論したくとも、人としての温もりを感じさせない人形のような顔でそれを告げられると怒りよりも恐怖が勝る。
「ルルナ……怖い思いをさせてすまない」
王太子はルルナを優しく抱き締める。
相手を安心させるようなその行為は己の心を落ち着かせるものでもあった。
婚約してまだ数日しか経っていない年下の婚約者に人格を根底から否定され、本来ならば血管が千切れるほど怒り狂ってもおかしくないはず。なのに、何故か先ほどから恐怖しか感じない。
あの、美しいが温度を感じさせないアンゼリカの青い瞳。
凍った海を思わせる氷結の青。あの絶対零度の瞳に見据えられると恐怖で足がすくむ。
あんな恐ろしい女が妻になるなど耐えられない。
王太子は恐怖で身震いし、ふとよからぬ考えを頭に浮かべた。
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