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新しい婚約
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「カロライン、お前とあの無礼な男の婚約が無事解消されたぞ。新しい婚約者にはあの家の次男が選ばれた」
教会に行った日の翌日、カロラインは夕食の時間に父からそう告げられた。
「まあ、お父様! こんな短期間でそこまで纏めてくださるなんて嬉しいです。流石はお父様ですわ」
愛娘に褒められて悪い気はしないのだろう。
父は口では「当然だ」と言いながらも顔はとても嬉しそうだ。
母や使用人達はそれを微笑ましく眺めている。
「早速顔合わせを……といきたいのだが、生憎それはまだ先になりそうだ」
「あら? どうしてですの? もしかしてその方はわたくしとの婚約に難色を示していらっしゃるのでしょうか……」
「いや、それは違う。そうではなく、その次男坊は神職に就いていてな、還俗するに少々時間がかかるんだ」
「え? 神職に?」
家督を継げない次男以降が神職に就くことは珍しくない。
この国では神職に就いたとしても結婚は可能で、元貴族であればそれなりの役職にもつけるからだ。
「ああ、だがきちんと当主教育は受けてきておるし、家督を継ぐに申し分ない。それに中々男ぶりもいい。礼儀正しい好青年という印象だな」
「あら、お父様はもうその御方に会われたのですか?」
「……実は今日の話し合いの席に既にいたんだ」
「話し合いの席に? ということは……あちらはこうなることを見越していたということですか?」
「多分そうだろう。あちらの当主から先に『婚約者を長男から次男に替えてほしい』と言ってきたからな。お前の結婚相手があちらの家を継ぐことは決定だとも言っていた。……話の分かる相手でよかったよ。これで『それの何が問題だ』とでもほざくのなら事業の契約も破棄してやるとこだった。身分は同等といえども、立場はこちらの方が上だときちんと理解しておる」
あちらの当主は中々に賢い方のようだ。
自分の家が置かれている立場と、契約相手である父の性格をよく理解している。
いくつもの事業を成功させてきた父はその実力と同じくプライドも高い。
もし、あちらが嫡男を庇い「それ位我慢しろ」とでも言ったのなら父はすぐに契約を破棄したことだろう。
「あちらのご当主はご聡明ですのに、どうしてあの方はあのような態度をとったのでしょうか……。わたくしとのデートにわざわざ別の女性を侍らせ、意味不明な発言をした理由が分かりませんわ」
他に好きな女性がいて、その人以外と添い遂げたくないというのであればまず自分の父親に言って婚約を解消してもらうなり、当主の座を替えてもらうなりすればいいだけの話だ。カロラインがそれを告げられたとしても、彼女に出来ることは何もない。
「ふざけた話になるのだが……あちらの当主が言うには嫡男はお前に身を引いてほしかったそうだ」
「わたくしから身を引く……? え、ですが……そんなことすれば事業の契約は……」
「お前との婚約が事業締結の条件だから、当然契約は解除されるな」
「ですよね……。ええっと……そうなると、不利益を被るのはあちらの家ですよね?」
「そうだな。家が傾くどころか借金まみれになり爵位返上も考えられるな」
「元婚約者様はご自分の家を潰したかった、ということでしょうか……?」
「いや、彼奴の頭の中では好いた女を妻に迎え、家督も継ぐつもりでいたそうだ。家を傾けようなんざ考えていなかったそうだ」
「ごめんなさい……わたくし、理解力が乏しいのでしょうか? 聞いてもさっぱり理解できません……」
父の話を聞く限りだと、元婚約者は何故か婚約を解消しても、自分にも家にも何の不利益も生じないと本気で信じていたようだ。利益があるから婚約を結んだというのに、何故そうなるのかがさっぱり理解できない。
「安心しろ、お前はまともだ。儂だってこれっぽっちも理解できん。ただ彼奴が救いようのない間抜けだったということだろう。矮小な器で家督も女も全て手に入れようとした浅はかな男だ。そんな奴がお前の夫にならずに済んでよかったと思っている」
カロラインは自分の婚約者だった男がそこまで愚かだったことにひどく驚いた。
彼とは数回会ってお茶をするくらいの交流しかしたことはなかったが、そんな人間だと分からなかったのだ。
そしてそれと同時に納得もした。そこまで馬鹿だったからこそ、婚約者とのデートにどこぞの女を侍らせて「お前を愛することはない」などという戯言が吐けたのだと。
「そういうわけでお前と新しい婚約者の顔合わせまでしばらくかかる。なので、それまでは待っていろ。別に顔合わせ位還俗前にしてしまっても構わないと思うのだが……まあ、決まりは決まりだしな」
神職に就いた子息の籍はその家から外れている。
なので、還俗の際にはその籍を再び戻す手続きを行う必要がある。
籍が戻り初めてその家の子息として正式に紹介できる、というわけだ。
本来ならば父に顔を見せることもしないはずなのだが、あちらの家は顔を見せて信用を得たかったのかもしれない。
アッサリと成立した婚約相手の交代。
これで全ての悩みが解決したと、この時のカロラインは本気で信じていた。
教会に行った日の翌日、カロラインは夕食の時間に父からそう告げられた。
「まあ、お父様! こんな短期間でそこまで纏めてくださるなんて嬉しいです。流石はお父様ですわ」
愛娘に褒められて悪い気はしないのだろう。
父は口では「当然だ」と言いながらも顔はとても嬉しそうだ。
母や使用人達はそれを微笑ましく眺めている。
「早速顔合わせを……といきたいのだが、生憎それはまだ先になりそうだ」
「あら? どうしてですの? もしかしてその方はわたくしとの婚約に難色を示していらっしゃるのでしょうか……」
「いや、それは違う。そうではなく、その次男坊は神職に就いていてな、還俗するに少々時間がかかるんだ」
「え? 神職に?」
家督を継げない次男以降が神職に就くことは珍しくない。
この国では神職に就いたとしても結婚は可能で、元貴族であればそれなりの役職にもつけるからだ。
「ああ、だがきちんと当主教育は受けてきておるし、家督を継ぐに申し分ない。それに中々男ぶりもいい。礼儀正しい好青年という印象だな」
「あら、お父様はもうその御方に会われたのですか?」
「……実は今日の話し合いの席に既にいたんだ」
「話し合いの席に? ということは……あちらはこうなることを見越していたということですか?」
「多分そうだろう。あちらの当主から先に『婚約者を長男から次男に替えてほしい』と言ってきたからな。お前の結婚相手があちらの家を継ぐことは決定だとも言っていた。……話の分かる相手でよかったよ。これで『それの何が問題だ』とでもほざくのなら事業の契約も破棄してやるとこだった。身分は同等といえども、立場はこちらの方が上だときちんと理解しておる」
あちらの当主は中々に賢い方のようだ。
自分の家が置かれている立場と、契約相手である父の性格をよく理解している。
いくつもの事業を成功させてきた父はその実力と同じくプライドも高い。
もし、あちらが嫡男を庇い「それ位我慢しろ」とでも言ったのなら父はすぐに契約を破棄したことだろう。
「あちらのご当主はご聡明ですのに、どうしてあの方はあのような態度をとったのでしょうか……。わたくしとのデートにわざわざ別の女性を侍らせ、意味不明な発言をした理由が分かりませんわ」
他に好きな女性がいて、その人以外と添い遂げたくないというのであればまず自分の父親に言って婚約を解消してもらうなり、当主の座を替えてもらうなりすればいいだけの話だ。カロラインがそれを告げられたとしても、彼女に出来ることは何もない。
「ふざけた話になるのだが……あちらの当主が言うには嫡男はお前に身を引いてほしかったそうだ」
「わたくしから身を引く……? え、ですが……そんなことすれば事業の契約は……」
「お前との婚約が事業締結の条件だから、当然契約は解除されるな」
「ですよね……。ええっと……そうなると、不利益を被るのはあちらの家ですよね?」
「そうだな。家が傾くどころか借金まみれになり爵位返上も考えられるな」
「元婚約者様はご自分の家を潰したかった、ということでしょうか……?」
「いや、彼奴の頭の中では好いた女を妻に迎え、家督も継ぐつもりでいたそうだ。家を傾けようなんざ考えていなかったそうだ」
「ごめんなさい……わたくし、理解力が乏しいのでしょうか? 聞いてもさっぱり理解できません……」
父の話を聞く限りだと、元婚約者は何故か婚約を解消しても、自分にも家にも何の不利益も生じないと本気で信じていたようだ。利益があるから婚約を結んだというのに、何故そうなるのかがさっぱり理解できない。
「安心しろ、お前はまともだ。儂だってこれっぽっちも理解できん。ただ彼奴が救いようのない間抜けだったということだろう。矮小な器で家督も女も全て手に入れようとした浅はかな男だ。そんな奴がお前の夫にならずに済んでよかったと思っている」
カロラインは自分の婚約者だった男がそこまで愚かだったことにひどく驚いた。
彼とは数回会ってお茶をするくらいの交流しかしたことはなかったが、そんな人間だと分からなかったのだ。
そしてそれと同時に納得もした。そこまで馬鹿だったからこそ、婚約者とのデートにどこぞの女を侍らせて「お前を愛することはない」などという戯言が吐けたのだと。
「そういうわけでお前と新しい婚約者の顔合わせまでしばらくかかる。なので、それまでは待っていろ。別に顔合わせ位還俗前にしてしまっても構わないと思うのだが……まあ、決まりは決まりだしな」
神職に就いた子息の籍はその家から外れている。
なので、還俗の際にはその籍を再び戻す手続きを行う必要がある。
籍が戻り初めてその家の子息として正式に紹介できる、というわけだ。
本来ならば父に顔を見せることもしないはずなのだが、あちらの家は顔を見せて信用を得たかったのかもしれない。
アッサリと成立した婚約相手の交代。
これで全ての悩みが解決したと、この時のカロラインは本気で信じていた。
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