37 / 47
二度目は許さない
しおりを挟む
「リーナさんはわたくしに勝とうと躍起になっているように思えます」
「は? 勝つ、とは……?」
「貴方がわたくしではなくリーナさんを選んだことにより、彼女の中でわたくしは彼女よりも下の立場と認識されました。そんな下位の存在であるわたくしが、貴方の代わりに次期当主となるジョエル様と婚約を結ぶ。それを知った時、彼女はどう思ったでしょうね?」
「どう思うんだ……?」
「当然“許せない”と思ったことでしょう。下の立場と認識したわたくしが新しい婚約者が出来て再び貴族夫人の座を手にすることが許せなかったはず。だからわざわざわたくしの邸まで来て『絶対にアンタを後悔させてやる』と宣言までしたのですよ。おかしいですよね? 別に彼女が幸福になることに“わたくしの後悔”は不必要ですのに」
「リーナがそんな事を……? う、うそだ……あんなに可憐で大人しいリーナがそんな事を言うはずが……」
「信じる信じないはともかくとして、リーナさんがジョエル様を篭絡しようとしていることは確かです。ジョエル様は素敵な方ですし、彼の愛人になれば贅沢も出来ます。そして二度もわたくしから婚約者を奪うことにより、わたくしに勝ったと優越感に浸れますね。ですが、わたくしがそれを許すとお思いですか……?」
スッと目を細めたカロラインに元婚約者は鳥肌が立った。
冷たく、威圧の込められたその表情は上位者のそれ。
人の上に立つ者特有の他を圧倒する雰囲気に彼は喉を「ヒュッ」と鳴らす。
「一度目は許しましたが、二度目は許しません。これ以上ジョエル様に近づこうものなら容赦はしない」
鈴が鳴るような可憐な声から一転した低く圧の込められた声。
聞いたこともないほどの恐ろしい声音に元婚約者は恐怖で顔を青くする。
「よ、容赦はしないって……まさか、リーナを害するつもりか?」
「まあ! むしろ、どうしてわたくしが一切の危害を加えないと思うのです?」
「ふ……ふざけるな! そんなこと僕が許すと思っているのか!?」
「貴方の許しなんて必要ありません。流石に二度も馬鹿にされては、こちらも堪忍袋の緒が切れるというもの。わたくしが一言命じれば、平民の女性一人始末するなど簡単なことです」
「カロライン! 権力を盾にして恥ずかしくないのか!?」
「二度も馬鹿にされたまま黙っていてはそれこそ恥というもの。それに、本当でしたらリーナさんは一度目の段階で始末されるところでしたのよ?」
「は……? ど、どういうことだ!?」
「どうもこうも……娘の婚約を台無しにされた我が父が怒らないとでも思いました? 父はひどくご立腹で……リーナさんとリーナさんのご家族を全員始末すると仰っておりましたのよ?」
「え………………?」
「そんな父の怒りを宥めたのは誰であろうわたくしです。感謝されこそすれ、罵倒される筋合いはありません」
「え? ど、どうして君がリーナを……?」
「それはわたくしが貴方を愛していなかったからです。リーナさんの存在によりわたくしが受けた損害は貴方との婚約解消のみ。わたくしが貴方の家に嫁ぐという未来は変わりません。損害がその程度なら、別にリーナさんに罰を与える必要もないと思いました」
「は? え……愛していなかった? 嘘だろう?」
「……どうして嘘をつく必要が? 以前にも申し上げたではありませんか、別に貴方を愛してなどいないと」
あれだけ否定したのに、どうして未だに自分が愛されていると思うのか。
元婚約者の思考は相変わらず不明だ。
その自信はどこからくるのだろう。
「帰ってリーナさんにお伝えください。これ以上ジョエル様に付き纏うなら容赦はしない、と。わたくしの愛する人を狙ってただで済むと思わないことですわね……」
地を這うようなカロラインの低い声に元婚約者は「ひいっ!?」と悲鳴を上げた。
そして目に涙を滲ませ、縋るような視線を彼女に向ける。
「愛しているだと……? 君が……ジョエルを?」
元婚約者の質問にカロラインは満面の笑みで「ええ」と答える。
そして隣にいるジョエルに目を遣り、互いに視線を交わし合った。
「嘘だ……! どうしてジョエルに……」
絶望して頭を抱え始めた元婚約者の姿にカロラインは首を傾げた。
どうして自分がジョエルを愛していると告げただけでそんなに悲しむのか意味が分からない。
「そういうわけですので、二度とリーナさんをジョエル様に近づけないよう気を付けてください。ああ、それとリーナさんが貴方以外に余所見しないようしっかり見張っていた方がよろしいですよ」
「は? 余所見……?」
「他の貴族令息に擦り寄るかもしれない、ということです」
「なっ……!? いくら何でも僕がいるのにそんなはしたない真似をするわけないだろう! 馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
「貴方がいるのにジョエル様に擦り寄っていますけど? まあ、とにかくお二人仲睦まじくお過ごしください。それではもう夜も遅いのでお帰りを」
カロラインが手を叩くと護衛騎士が数名部屋へとやって来る。
屈強な体の彼等に両腕を掴まれ、抵抗むなしく元婚約者は力づくで外へと連行されていった。
「は? 勝つ、とは……?」
「貴方がわたくしではなくリーナさんを選んだことにより、彼女の中でわたくしは彼女よりも下の立場と認識されました。そんな下位の存在であるわたくしが、貴方の代わりに次期当主となるジョエル様と婚約を結ぶ。それを知った時、彼女はどう思ったでしょうね?」
「どう思うんだ……?」
「当然“許せない”と思ったことでしょう。下の立場と認識したわたくしが新しい婚約者が出来て再び貴族夫人の座を手にすることが許せなかったはず。だからわざわざわたくしの邸まで来て『絶対にアンタを後悔させてやる』と宣言までしたのですよ。おかしいですよね? 別に彼女が幸福になることに“わたくしの後悔”は不必要ですのに」
「リーナがそんな事を……? う、うそだ……あんなに可憐で大人しいリーナがそんな事を言うはずが……」
「信じる信じないはともかくとして、リーナさんがジョエル様を篭絡しようとしていることは確かです。ジョエル様は素敵な方ですし、彼の愛人になれば贅沢も出来ます。そして二度もわたくしから婚約者を奪うことにより、わたくしに勝ったと優越感に浸れますね。ですが、わたくしがそれを許すとお思いですか……?」
スッと目を細めたカロラインに元婚約者は鳥肌が立った。
冷たく、威圧の込められたその表情は上位者のそれ。
人の上に立つ者特有の他を圧倒する雰囲気に彼は喉を「ヒュッ」と鳴らす。
「一度目は許しましたが、二度目は許しません。これ以上ジョエル様に近づこうものなら容赦はしない」
鈴が鳴るような可憐な声から一転した低く圧の込められた声。
聞いたこともないほどの恐ろしい声音に元婚約者は恐怖で顔を青くする。
「よ、容赦はしないって……まさか、リーナを害するつもりか?」
「まあ! むしろ、どうしてわたくしが一切の危害を加えないと思うのです?」
「ふ……ふざけるな! そんなこと僕が許すと思っているのか!?」
「貴方の許しなんて必要ありません。流石に二度も馬鹿にされては、こちらも堪忍袋の緒が切れるというもの。わたくしが一言命じれば、平民の女性一人始末するなど簡単なことです」
「カロライン! 権力を盾にして恥ずかしくないのか!?」
「二度も馬鹿にされたまま黙っていてはそれこそ恥というもの。それに、本当でしたらリーナさんは一度目の段階で始末されるところでしたのよ?」
「は……? ど、どういうことだ!?」
「どうもこうも……娘の婚約を台無しにされた我が父が怒らないとでも思いました? 父はひどくご立腹で……リーナさんとリーナさんのご家族を全員始末すると仰っておりましたのよ?」
「え………………?」
「そんな父の怒りを宥めたのは誰であろうわたくしです。感謝されこそすれ、罵倒される筋合いはありません」
「え? ど、どうして君がリーナを……?」
「それはわたくしが貴方を愛していなかったからです。リーナさんの存在によりわたくしが受けた損害は貴方との婚約解消のみ。わたくしが貴方の家に嫁ぐという未来は変わりません。損害がその程度なら、別にリーナさんに罰を与える必要もないと思いました」
「は? え……愛していなかった? 嘘だろう?」
「……どうして嘘をつく必要が? 以前にも申し上げたではありませんか、別に貴方を愛してなどいないと」
あれだけ否定したのに、どうして未だに自分が愛されていると思うのか。
元婚約者の思考は相変わらず不明だ。
その自信はどこからくるのだろう。
「帰ってリーナさんにお伝えください。これ以上ジョエル様に付き纏うなら容赦はしない、と。わたくしの愛する人を狙ってただで済むと思わないことですわね……」
地を這うようなカロラインの低い声に元婚約者は「ひいっ!?」と悲鳴を上げた。
そして目に涙を滲ませ、縋るような視線を彼女に向ける。
「愛しているだと……? 君が……ジョエルを?」
元婚約者の質問にカロラインは満面の笑みで「ええ」と答える。
そして隣にいるジョエルに目を遣り、互いに視線を交わし合った。
「嘘だ……! どうしてジョエルに……」
絶望して頭を抱え始めた元婚約者の姿にカロラインは首を傾げた。
どうして自分がジョエルを愛していると告げただけでそんなに悲しむのか意味が分からない。
「そういうわけですので、二度とリーナさんをジョエル様に近づけないよう気を付けてください。ああ、それとリーナさんが貴方以外に余所見しないようしっかり見張っていた方がよろしいですよ」
「は? 余所見……?」
「他の貴族令息に擦り寄るかもしれない、ということです」
「なっ……!? いくら何でも僕がいるのにそんなはしたない真似をするわけないだろう! 馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
「貴方がいるのにジョエル様に擦り寄っていますけど? まあ、とにかくお二人仲睦まじくお過ごしください。それではもう夜も遅いのでお帰りを」
カロラインが手を叩くと護衛騎士が数名部屋へとやって来る。
屈強な体の彼等に両腕を掴まれ、抵抗むなしく元婚約者は力づくで外へと連行されていった。
560
あなたにおすすめの小説
「優秀な妹の相手は疲れるので平凡な姉で妥協したい」なんて言われて、受け入れると思っているんですか?
木山楽斗
恋愛
子爵令嬢であるラルーナは、平凡な令嬢であった。
ただ彼女には一つだけ普通ではない点がある。それは優秀な妹の存在だ。
魔法学園においても入学以来首位を独占している妹は、多くの貴族令息から注目されており、学園内で何度も求婚されていた。
そんな妹が求婚を受け入れたという噂を聞いて、ラルーナは驚いた。
ずっと求婚され続けても断っていた妹を射止めたのか誰なのか、彼女は気になった。そこでラルーナは、自分にも無関係ではないため、その婚約者の元を訪ねてみることにした。
妹の婚約者だと噂される人物と顔を合わせたラルーナは、ひどく不快な気持ちになった。
侯爵家の令息であるその男は、嫌味な人であったからだ。そんな人を婚約者に選ぶなんて信じられない。ラルーナはそう思っていた。
しかし彼女は、すぐに知ることとなった。自分の周りで、不可解なことが起きているということを。
前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
自発的に失踪していた夫が、三年振りに戻ってきました。「もう一度やり直したい?」そんな都合のいいことがよく言えますね。
木山楽斗
恋愛
セレント公爵家の夫人であるエファーナは、夫であるフライグが失踪してから、彼の前妻の子供であるバルートと暮らしていた。
色々と大変なことはあったが、それでも二人は仲良く暮らしていた。実の親子ではないが、エファーナとバルートの間には確かな絆があったのだ。
そんな二人の前に、三年前に失踪したフライグが帰って来た。
彼は、失踪したことを反省して、「もう一度やり直したい」と二人に言ってきたのである。
しかし、二人にとってそれは許せないことだった。
身勝手な理由で捨てられた後、二人で手を取り合って頑張って来た二人は、彼を切り捨てるのだった。
顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるリフェリナは、若くして伯爵を継いだアデルバと婚約を結んでいた。
しかしある時、彼は母親とともにリフェリナと婚約破棄すると言い出した。二人は、目つきが悪いリフェリナを不服として、社交界でも人気な妹の方を求めてきたのである。
紆余曲折あったものの、リフェリナの妹は要求通りに嫁ぐことになった。
リフェリナの母親が、そう仕向けたのだ。
最初は喜んでいたアデルバ達だったが、彼らはすぐに知ることになった。
リフェリナの妹は容姿で人気はあるものの、貴族としての能力は低く、また多くの敵を有していたのである。
それによって、彼らは手痛いしっぺ返しを食らうことになるのだった。
地味でつまらない私は、殿下の婚約者として相応しくなかったのではありませんか?
木山楽斗
恋愛
「君のような地味でつまらない女は僕には相応しくない」
侯爵令嬢イルセアは、婚約者である第三王子からある日そう言われて婚約破棄された。
彼は貴族には華やかさが重要であると考えており、イルセアとは正反対の派手な令嬢を婚約者として迎えることを、独断で決めたのである。
そんな彼の行動を愚かと思いながらも、イルセアは変わる必要があるとも考えていた。
第三王子の批判は真っ当なものではないと理解しながらも、一理あるものだと彼女は感じていたのである。
そこでイルセアは、兄の婚約者の手を借りて派手過ぎない程に自らを着飾った。
そして彼女は、婚約破棄されたことによって自身に降りかかってきた悪評などを覆すためにも、とある舞踏会に臨んだのだ。
その舞踏会において、イルセアは第三王子と再会することになった。
彼はイルセアのことを誰であるか知らずに、初対面として声をかけてきたのである。
意気揚々と口説いてくる第三王子に対して、イルセアは言葉を返した。
「地味でつまらない私は、殿下の婚約者として相応しくなかったのではありませんか?」と。
醜い傷ありと蔑まれてきた私の顔に刻まれていたのは、選ばれし者の証である聖痕でした。今更、態度を改められても許せません。
木山楽斗
恋愛
エルーナの顔には、生まれつき大きな痣がある。
その痣のせいで、彼女は醜い傷ありと蔑まれて生きてきた。父親や姉達から嫌われて、婚約者からは婚約破棄されて、彼女は、痣のせいで色々と辛い人生を送っていたのである。
ある時、彼女の痣に関してとある事実が判明した。
彼女の痣は、聖痕と呼ばれる選ばれし者の証だったのだ。
その事実が判明して、彼女の周囲の人々の態度は変わった。父親や姉達からは媚を売られて、元婚約者からは復縁を迫られて、今までの態度とは正反対の態度を取ってきたのだ。
流石に、エルーナもその態度は頭にきた。
今更、態度を改めても許せない。それが彼女の素直な気持ちだったのだ。
※5話目の投稿で、間違って別の作品の5話を投稿してしまいました。申し訳ありませんでした。既に修正済みです。
殿下が私を愛していないことは知っていますから。
木山楽斗
恋愛
エリーフェ→エリーファ・アーカンス公爵令嬢は、王国の第一王子であるナーゼル・フォルヴァインに妻として迎え入れられた。
しかし、結婚してからというもの彼女は王城の一室に軟禁されていた。
夫であるナーゼル殿下は、私のことを愛していない。
危険な存在である竜を宿した私のことを彼は軟禁しており、会いに来ることもなかった。
「……いつも会いに来られなくてすまないな」
そのためそんな彼が初めて部屋を訪ねてきた時の発言に耳を疑うことになった。
彼はまるで私に会いに来るつもりがあったようなことを言ってきたからだ。
「いいえ、殿下が私を愛していないことは知っていますから」
そんなナーゼル様に対して私は思わず嫌味のような言葉を返してしまった。
すると彼は、何故か悲しそうな表情をしてくる。
その反応によって、私は益々訳がわからなくなっていた。彼は確かに私を軟禁して会いに来なかった。それなのにどうしてそんな反応をするのだろうか。
誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。
木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。
それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。
誰にも信じてもらえず、罵倒される。
そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。
実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。
彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。
故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。
彼はミレイナを快く受け入れてくれた。
こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。
そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。
しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。
むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる