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第一章 ー魔王と出会い編ー
第11話 ―魔王と訪問者―
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王宮に侵入した日から三日後、ラースが安宿で寛いでいると不意に部屋の外が騒がしくなった。
『…ミリア様がいらしたようですね』
クロウが告げると同時に部屋の入口がノックされる。
「ラースさん、あんたにお客さんだ。」
扉を遠慮なく開けたのはこの宿の主人だった。
この街に来てからすでに数日経っておりラースとも顔見知りだ。
彼からは幾度「やっかいごとは持ち込むな」と注意されたかわからない。
「…邪魔をする」
宿屋の主人に続けて入ってきたのはマントをすっぽりと被り顔所か全身を隠している怪しい人物だった。
「じゃごゆっくり」
主人はそのまま去っていく。
去り際に「厄介事を持ち込みやがって…」と舌打ちを残していった。
ラースはニヤニヤと来客を眺めた。
「…で、親衛隊隊長様がそんな怪しい恰好で何しに来たんだ?」
「好きでこんな恰好をしているわけじゃない!」
ミリアはマントを脱ぎ去る。
「私のような人間が公務でもなく特定の人間を訪ねるにはそれなりに気を遣う必要があるのだ」
現在このファーニア王国は表沙汰にはなっていないものの、王が倒れ王女が病にかかるというそれなりの非常事態である。
そんな中、王女の護衛役である親衛隊隊長が不審な旅人と密会など怪しまれることこの上ない。
それを咎められないためにマントで姿を隠しコソコソとラースの下を訪れたのだ。
「立場のある人間は大変だなぁ」
「っ!誰のせいでこんな苦労をしていると思っている!」
「少なくとも原因は王宮内のゴタゴタであってオレ様のせいではないな」
「この…減らず口をっ」
ミリアは激昂しかけ、それをこらえて一度大きく深呼吸をする。
直情的な彼女は王宮内でもしばしば声を荒げてしまうことがある。
本人も自覚しているのでこうやって一呼吸置く癖を付けている。
「その事でフィリオナ様がお呼びだ。王宮まで来てもらおう。」
「それはご苦労だな。わざわざミリアが来たということは先日オレ様が遊びに行った件は公表していないのか?」
「…フィリオナ様の判断だ。」
王宮のそれも王族の私室に侵入となればそれだけで死罪である。
本来であれば王宮の面子に賭けて国内外に指名手配をかけ、一族郎党に罰を下すべきなのだがフィリオナがこれに反対した。
ミリアは親衛隊全騎士を導入してでもラースを捕まえるべきだと主張したが、フィリオナは「誰が味方かわからない現状で騒ぎを大きくすれば警戒される」とフィリオナとミリアの二人だけの秘密とした。
幸いなことにラースの侵入に気づいた者は他におらず、騒ぎになることもなく数日が過ぎている。
フィリオナとミリアがこのまま他の者に報告しなければ魔王に侵入されたことなど誰も気づかないだろう。
「そうかそうか。王女様はオレ様のことを信じたということだな」
ラースはご機嫌である。
対してミリアは不快そうに眉間に皺を寄せた。
「なぜそうなる。」
「自分の騎士よりオレ様の言葉を優先したのだ。当然そういうことだろう」
「貴様、どこまで愚弄すれば気が済むのだ…!」
「おっと、お前を愚弄しているつもりはない。純粋に王女の評価を喜んでいるだけだぞ?」
そもそもラースとしてはミリアとも仲良くするつもりなのだ。
…今のところそう感じられるところは皆無であるが。
「で、どうっだった?大臣は真っ黒だっただろ?」
「……詳しい話はフィリオナ様がしてくださる。まずは城へ向かうぞ。」
これ以上のやりとりは不毛と感じたミリアは先程脱いだばかりのマントを再び羽織り直そうとして…ラースがその様子を真剣な面差しで見つめていることに気がついた。
「なんだ…?」
「なんでもないぞ。観察しているだけだ。こないだは落ち着いて見れなかったからな」
そう、あらためてミリアの品定めだ。
髪はショートの赤毛。クセはあまりなさそうな髪質だ。
瞳は黒~濃茶色、ややつり目である。
身長は同世代の女性からすれば少し高めだろうか。
彼女の身体には鍛錬の成果だろう余分な肉は付いていない。
だというのにその胸は胸甲に隠されていても十分なボリュームがあることがわかる。
身体の要所のみを覆っている軽鎧の隙間からは腰のラインが美しく括れていることがわかる。
そして脚。
上半身と同じく鍛え上げられており、それなりの筋肉が付いている太さだ。
だがそれはゴツゴツした筋肉ではなく女性特有のふっくらとした存在感で包まれている。
そして見える範囲の肌は若干焼けているようだ。
これも騎士として屋外に職務に当たっている結果だろう。
妄想での中で鎧を無くすラース。
徐々に伸びてくる鼻の下にミリアは思わず自分の胸元を隠した。
「貴様は、どこまで破廉恥なヤツだ!」
「言っただろうが、オレ様はこの世の美女を全て自分のものにすると」
「あの時、門番の言うとおり貴様などつまみ出してしまえば良かった…」
ミリアが言うのはこの街にたどり着いた時の話だろう。
不審者扱いされて門番に止められてはいたラースを助けたのは確かにミリアだ。
「お!覚えていたのか。あの時は助かったぞ?」
カッカッカッと笑うラースにミリアは溜め息をつく。
「…もういい。行くぞ」
マントを羽織り、ミリアが部屋を出て行き、ご機嫌なラースはその後ろについて行った。
『…ミリア様がいらしたようですね』
クロウが告げると同時に部屋の入口がノックされる。
「ラースさん、あんたにお客さんだ。」
扉を遠慮なく開けたのはこの宿の主人だった。
この街に来てからすでに数日経っておりラースとも顔見知りだ。
彼からは幾度「やっかいごとは持ち込むな」と注意されたかわからない。
「…邪魔をする」
宿屋の主人に続けて入ってきたのはマントをすっぽりと被り顔所か全身を隠している怪しい人物だった。
「じゃごゆっくり」
主人はそのまま去っていく。
去り際に「厄介事を持ち込みやがって…」と舌打ちを残していった。
ラースはニヤニヤと来客を眺めた。
「…で、親衛隊隊長様がそんな怪しい恰好で何しに来たんだ?」
「好きでこんな恰好をしているわけじゃない!」
ミリアはマントを脱ぎ去る。
「私のような人間が公務でもなく特定の人間を訪ねるにはそれなりに気を遣う必要があるのだ」
現在このファーニア王国は表沙汰にはなっていないものの、王が倒れ王女が病にかかるというそれなりの非常事態である。
そんな中、王女の護衛役である親衛隊隊長が不審な旅人と密会など怪しまれることこの上ない。
それを咎められないためにマントで姿を隠しコソコソとラースの下を訪れたのだ。
「立場のある人間は大変だなぁ」
「っ!誰のせいでこんな苦労をしていると思っている!」
「少なくとも原因は王宮内のゴタゴタであってオレ様のせいではないな」
「この…減らず口をっ」
ミリアは激昂しかけ、それをこらえて一度大きく深呼吸をする。
直情的な彼女は王宮内でもしばしば声を荒げてしまうことがある。
本人も自覚しているのでこうやって一呼吸置く癖を付けている。
「その事でフィリオナ様がお呼びだ。王宮まで来てもらおう。」
「それはご苦労だな。わざわざミリアが来たということは先日オレ様が遊びに行った件は公表していないのか?」
「…フィリオナ様の判断だ。」
王宮のそれも王族の私室に侵入となればそれだけで死罪である。
本来であれば王宮の面子に賭けて国内外に指名手配をかけ、一族郎党に罰を下すべきなのだがフィリオナがこれに反対した。
ミリアは親衛隊全騎士を導入してでもラースを捕まえるべきだと主張したが、フィリオナは「誰が味方かわからない現状で騒ぎを大きくすれば警戒される」とフィリオナとミリアの二人だけの秘密とした。
幸いなことにラースの侵入に気づいた者は他におらず、騒ぎになることもなく数日が過ぎている。
フィリオナとミリアがこのまま他の者に報告しなければ魔王に侵入されたことなど誰も気づかないだろう。
「そうかそうか。王女様はオレ様のことを信じたということだな」
ラースはご機嫌である。
対してミリアは不快そうに眉間に皺を寄せた。
「なぜそうなる。」
「自分の騎士よりオレ様の言葉を優先したのだ。当然そういうことだろう」
「貴様、どこまで愚弄すれば気が済むのだ…!」
「おっと、お前を愚弄しているつもりはない。純粋に王女の評価を喜んでいるだけだぞ?」
そもそもラースとしてはミリアとも仲良くするつもりなのだ。
…今のところそう感じられるところは皆無であるが。
「で、どうっだった?大臣は真っ黒だっただろ?」
「……詳しい話はフィリオナ様がしてくださる。まずは城へ向かうぞ。」
これ以上のやりとりは不毛と感じたミリアは先程脱いだばかりのマントを再び羽織り直そうとして…ラースがその様子を真剣な面差しで見つめていることに気がついた。
「なんだ…?」
「なんでもないぞ。観察しているだけだ。こないだは落ち着いて見れなかったからな」
そう、あらためてミリアの品定めだ。
髪はショートの赤毛。クセはあまりなさそうな髪質だ。
瞳は黒~濃茶色、ややつり目である。
身長は同世代の女性からすれば少し高めだろうか。
彼女の身体には鍛錬の成果だろう余分な肉は付いていない。
だというのにその胸は胸甲に隠されていても十分なボリュームがあることがわかる。
身体の要所のみを覆っている軽鎧の隙間からは腰のラインが美しく括れていることがわかる。
そして脚。
上半身と同じく鍛え上げられており、それなりの筋肉が付いている太さだ。
だがそれはゴツゴツした筋肉ではなく女性特有のふっくらとした存在感で包まれている。
そして見える範囲の肌は若干焼けているようだ。
これも騎士として屋外に職務に当たっている結果だろう。
妄想での中で鎧を無くすラース。
徐々に伸びてくる鼻の下にミリアは思わず自分の胸元を隠した。
「貴様は、どこまで破廉恥なヤツだ!」
「言っただろうが、オレ様はこの世の美女を全て自分のものにすると」
「あの時、門番の言うとおり貴様などつまみ出してしまえば良かった…」
ミリアが言うのはこの街にたどり着いた時の話だろう。
不審者扱いされて門番に止められてはいたラースを助けたのは確かにミリアだ。
「お!覚えていたのか。あの時は助かったぞ?」
カッカッカッと笑うラースにミリアは溜め息をつく。
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