魔王と姫君

空原 らいあ

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第二章 ー魔女狩り編ー

第37話 ー魔王と犯人ー

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「ちょっと待ってくれ、ラース。犯人がわかったのか?」

「何を言っている。犯人はここの村の連中だろうが。せいぜい主犯が告発して回っているガキどもってぐらいで」
「それは…彼らは被害者なんだ。少なくとも死人もでているのは間違いない。」
「だからなんだ?奴らに聞く耳を持った奴がいたか?」

ラース達から離れた物陰では村の男衆が身を潜めて彼らを見張っている。
ベルを怖がらせるので黙っていたがラースもミリアもその気配には気づいていた。

「…だが、少なくとも彼等は法に則っている。」
「……オイ…」

ラースの声が一段低くなる。
同時にミリアは全身を何ともいえない寒気が包み込んだ。
冷気が来ている訳ではない。
ラースから漏れる殺気か怒気かはたまた別の何かがミリアに当てられていた。

「オレ様は少なくとも目の前の女を救えない法より実力行使のほうが早いと思うがな。」
「ラース様…」
「ラース…。だが村の人間もこの国の人間なのだ。もし本当に誰かから攻撃されているというなら守るのが騎士団の仕事だ。」

ミリアの言葉にラースは頷いた。
「……であれば、オレ様は少し別行動をとらせてもらおう。ベルはミリアに守ってもらうがよい」
「はい。あの、ラース様は?」
「野暮用だ。おっと、一つだけ確認だが」

自分の身を守ってくれる人間が減るのは不安なのだろう。
ベルはラースにもそばにいて欲しかったのだが二人はこの村の事件の調査に来ているのだ。
ベルは何とか呼び止めようとする気持ちを押さえ込む。

「はい、なんですか?」
「告発して回っている2人の年齢は?」
「えと…ベストリアちゃんが15…あ、16歳になったと思います。アンちゃんは今年9歳だったかな…?」

「なら思ったより早く片付けられそうだな」
ニヤリと笑みを浮かべるラースに対してベルは困惑顔だ。
「あの、それってどういうー」
「こちらの話だ。…ではミリアよ、しばらくオレ様は別行動だ。何かあればクロウを遣る」

言い終わるが早いかラースは身を翻し、突然走り出し村を外れ、森の中へと消える。

こっそりと尾行していた男衆が慌ててラースの跡を追いかけ始めた。
しかし膨大な魔力を餌に微精霊の助力を得ている魔王に追いつける訳もなく、彼を追いかけた数人がミリア達の監視に戻ってきたのはすぐだった。

ミリアはあっという間に消えたラースの背中を見送ると小さくため息をついてからベルに「自分から離れないように」と念押しをした。

「あの、いいんですか…?」
「あまり良くはないが私じゃ彼は止められないしな」

国を代表するような権力と実力を持つ守護騎士が止められないような相手とは…。

ベルの疑問にミリアは複雑そうな表情を浮かべるだけだった。


ーーーーーーーーー
ーーーーーー

一方、村の後方に広がる森に身を隠したラースは適当な木の上で休憩中だ。
すでに尾行は巻いている。
ラースにとっては大した距離ではないが村からはそれなりに離れている。
既に何の用意もなく踏み込める距離は越えているので追っ手がかかることもないだろう。
『ラース様、ミリア様達を置き去りにしてよろしいので?』
「ミリアはあれでもこの国の偉いさんだから大丈夫だろ。メイドのほうは…まぁミリアの傍を離れなきゃ大丈夫だろ」
『さようでございますか』
「それよりも、だ。あらためて問うが、あの村で言うような『呪い』というものは存在するか?」
『魔法・魔術として、ということでよろしいでしょうか?』

クロウがクリンと首を傾げるとラースは頷き返した。

『呪いー…所謂『呪術』というものですが、此方は私の知る限り存在しません。
 そもそも呪術の目標は対象に何らかの被害をもたらすものとしていますが、それが肉体的に作用するものなのか精神的に作用するものなのかも不明です。
 魔法、魔術の多くは精霊を介しますので物理的なプロセスが必要なのですがそれらが考慮されておりませんので存在しにという結論になります』

「まて、よくわからん。ぷろせす、とはなんだ?」

『事象が発生するまでの段階の話です。例えばラース様はよく風の精霊を使われますが、その助力を得るためには周囲に風が必要になります。』

屋外であればその影響は一陣の風があ吹き抜けるだけで済むが、元々風が存在しないような屋内だとまずは屋内に風を引き入れる必要がある。

『風が無いところで存在しない精霊の加護は受けられません。呪術についてはこの前提条件を一切無視しております。また利用したい精霊を存在しない場所に引き込む場合、その痕跡が残るはずなのです。』
「となると魔法、魔術ではない、ということになるのか」
『一概にそうとは言えません。これが精神に作用する魔術であったなら事情が異なります』

饒舌に語り出したクロウの話は止まらない。

『精神に作用する魔術は精霊ではなく妖精の力を借りることになります。そのため妖精がいればどこでも使用可能です』
「…妖精と精霊は別なのか?」
『別種族です。妖精は魔族領の近くに暮らしており、魔族のみがその力を利用できるようです』
「ほ~…」
『ただ精神に作用するとは言っても妖精の力では対象を少々混乱させたり眠りにつかせたりする程度で今回のような症状を…ましてや相手を死に至らしめるような魔術は存在しません』
「つまり、魔法や魔術ではない可能性が高いということだな」
『そうなりますな。とはいえ魔術の進化は日進月歩ですので私の知らないところで新しいものが生まれている可能性もありますが…』
「そんなことを言ってればキリがないだろ。第一、今生き残っている被害者とやらに会ってみればハッキリすることだ。…魔法や魔術をかけられているかは確認出来るな?」
『可能です。少なくともそちらは問題なく確認できます』
「よし。まずは被害者とやらに会ってみるか」

ラースはグフフと厭らしい笑みを浮かべ、村へ舞い戻るために一歩を踏み出そうとー
『お待ちください、ラース様。村に戻るのであれば変装するか気配隠蔽をかけることをお勧めします』

クロウの言葉を聞いて足を止めた。

ミリアと同行していたのは既に村人達に見られている。
確かにこのまま行けば何かあったときにミリア達に害が及ぶ可能性がある。

「…その通りだな。変装していくことにしよう。折角だから悪魔的な格好にしていくか」

そう呟いた瞬間、ラースの一部である黒い皮膚=魔甲が膨れ上がり彼の全身包み込んだ。
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