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この音は、、、

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 朝食を食べ終え、また目が赤くなりだしているように見える番人に食器を渡した。今日は、と外を見たとき、すでに太陽が天上に上がっていた。こんなに動いてもいない我の肉体を疲労させる太陽にどこに疑うところがあるのだろうか、と思い、大きく背伸びをした。
「つっ、痛たたった」
 王のあざけりには痛みさえも辟易してしまうらしい。
 王は昼、夜のどの食事の時もあざけりに来た。
 全く王としての仕事はないのか…と思いながら、終始、無視していた。さすがに暇になってきたので、周りの石をベッドの壊れて取れた手すりで削り始めた。
 ここッココッコッコ
 最初から何を書くのか、を決めていなかったせいもあってか、完成系は全く見えなかったが、自然と手は進んでいった。今は王のあざけりなど忘れて、楽しく過ごしたメロスとの日々を思い浮かべていた。出来上がりそうになった石は、何かを表しているわけではなく、ただあの頃の日々をそのまま映し出したような抽象画になった。最後の仕上げをしようとしたその時、ある曲が耳に入ってきた。
ピーー
 我ははっと手を止めた。一瞬、幻聴かとも感じたが、どうやらそうではないらしい。周りを見渡し、耳をそばだてるとどうやら牢の外から音は聞こえていた。
 それに、この歌は…よくメロスが吹いていた、あの… 我は牢の棒にしがみつき、外を見た。
居たっ。その男はメロスが持っていた笛とは似ても似つかない高価な笛を手に、我に背を、いや、がたいの良い背筋を見せた時々歌に乗るように、動きながら立っていた。
 我は蜘蛛の住みかの残骸から、牢の棒に握るものを変えて、その間から、耳を差し込んだままずっと聞き添っていた。
――っピ。
 演奏が終わった。
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