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チュートリアル!
パンツ祭り【盗難編】
しおりを挟む《作品内のルール》
1.【】に囲まれたキャラクターはパンツ泥棒の容疑者。 当然、【】に囲まれているけど犯人じゃないキャラクターもいます。
2.【】に囲まれたキーワードはパンツ泥棒を推理する上で重要な手掛かりです。 また、関係のない単語の場合(いわゆるフェイク)の場合もあります。
3.容疑者、言葉を合わせて【】内の物はキーワードと呼び、各話の最後に纏めていきます。
4.《盗難被害編》《捜査編》《解決編》の三つの編から成り立ちます。
容疑者が出るのは《盗難被害編》のみです。
キーワードが出るのは《盗難被害編》と《捜査編》です。
《解決編》には【】の言葉が出て来ないので《捜査編》までに推理をしてみましょう。
5.ボクっ娘さんと一緒に推理をしてみましょう。
夏は嫌いだ。
暑い気温に、熱い陽射し。 学校にはクーラーが取り付けられているけれど、設定温度は28度と身体を冷やすことにはならない。
それなのに、痴女のような制服の着こなしをしているクラスメートが「寒い」と鶴の一声。
【ミーンミンミン。】
心なしか、外にいるセミが地球温暖化を防げて喜んだ声を上げた気がした。 間違いなく気のせいである。
ミンミンミンミン。
痴女のような格好を出来るのは、自分に自信があるからだろうか。
少なくとも……ボクのように高校生の女子にして、平均を遥かに下回る体躯しかなく、それに合わせるように胸もふとももやお尻もないような、いわゆる「ちんちくりん」には出来ない格好であることには間違いない。
春の頃から変わらない制服。 まだ【冬服のままなのはボクだけである】。
それでちんちくりんを誤魔化せているつもりか。 小さい身体とは言えど、布っ切れでちんちくりんを隠せるほどではなかったということである。
ミーンミーン。
あと、せめて身長が30cmあれば……! 暑さに思考回路を焼かれたボクは牛乳を煽りながら、鞄の中にある水着入れに手を伸ばした。
「暑いね」
「セミ的にはいい具合ですよ」
「セミ的な話をぶち込まないでよ【リーダー】」
リーダーとは、ボクのあだ名だ。 確か小学生の時に付けられたあだ名だけれど、このあだ名になった理由は覚えていない。
小学生の時はそのあだ名が嫌で中学校を期待したけれも、中学校に上がるとほぼ同時に同じ小学校の友人達から広まった。
ちんちくりんの女の子のあだ名が「リーダー」とは訳が分からず、箸が転がったら箸のように転げ回って笑う年頃の同級生からしたら、とても愉快に感じたのだろう。
高校生になっても同様だ。
リーダーリーダー。
セミの声に代わって、隣の女の子【凛ちゃん】がボクを呼ぶ。 ほとんどの学生生活を「リーダー」で過ごしてきたボクにとっては、そのあだ名に戸惑うことなく答えた。
「早く着替えにいかないと」
「暑くてしんどいです」
「プールに浸かったら涼しくなるよ。 早く着替えないと遅れるし」
まぁ、その通りである。
先生から「リーダーは欠席か?」と囃された出欠を取られるのはもう勘弁だ。
プールの横にある女子更衣室に早足で行く。 その途中で、ボサボサとした黒髪が見えて足が止まる。
「あ、【先輩】……」
同じ部活に参加している先輩だ。 こんな時間にどうしたのだろうか。 【三年生の教室は遠かった筈だ】。 移動教室かと思ったけれど【先輩は何も持っていない】。
「ああ、リーダー。 奇遇だな」
先輩はボクとボクの持っている荷物を一瞥した後に何かを言おうとしたが、凛ちゃんがボクの手を引っ張る。
「リーダー! 早く行こう!」
「えっ、あ、はい」
もう時間があまり取れないことに気がついて、早足をより速めながらプール横の更衣室に行った。
部活でもないのに先輩に会えたのはラッキーだ。 ニマニマと、笑う気もないのに口角が上がってしまう。
「どうしたの? 笑って」
「んぅ、なんでもないですよ。 ちゃちゃっと着替えてしまいましょう」
制服の上着を脱いでから、上靴と靴下を脚から抜く。 血色のあまり良くない脚を見て、テンションを下げながら靴下を袋に入れる。 制服はシワの付かないように畳んでロッカーに直接置く。
ボタンの付いたバスタオルを首から巻いて、身体を隠す。
バスタオルの中でモゾモゾとワイシャツのボタンを外し、スカートを落としを下着を脱ぐ。
すぐに学校指定の水着を手に取って、バスタオルをモゾモゾとする。
水着を着終えた後、バスタオルの中を覗いて変なことになっていないかを確かめる。 問題はなさそうだ。
ワイシャツやスカートも同じように畳み、制服の上に置き、【下着は靴下と同じ袋に入れる】。
その後その袋も【ロッカーに入れ】、バスタオルは外さずに素足のまま上靴を履いた。
スクール水着姿を惜しげなく晒す友人の胸を凝視しながら、女子更衣室の扉を閉める。 もう他に人はいないようなので、【一緒にいた凛ちゃんが鍵を閉める】。
「ここに更衣室があるのはありがたいよね。 男の子に見られることもないし。
中学校の時なんか、大分遠くから来なくちゃダメで……」
「それは……大変ですね」
丁度、目の先にある胸を思いながら頷く。 ここまで立派なものは、高校一年生になって突然膨れたというわけではないだろう。
ボクのようなちんちくりんな身体は、それはそれで恥ずかしいけれど、この女の子のような【ナイスバデー】は人に見られるという羞恥があると思われる。
ボクの場合、誰からも見向きもされないので勝手に一人で恥ずかしがってるだけだが。
移動は一瞬だ。 そのまま脚を洗浄して、次の場所でバスタオルを外して腰まで浸かる。
中学校の頃のプールとは違って、洗浄用のところなのにそれほど冷たくない。 屋内にプールがあるから、色々と設備が充実しているのかもしれない。
ほとんど同時にチャイムの音が鳴り、同じクラスの女の子達が集まっているところに寄る。
一人だけすごく背が低いのが恥ずかしい。
「みんないる? じゃあ、準備体操から」
先生の指示に従って、ラジオ体操をして、屈伸などのストレッチをする。 二人組みになって、背中あわせにしてお互いの背を伸ばすストレッチを友人の子とすることになり……。
「あ、あぅ、ギ、ギブ! ギブアップですから!」
「いや、これプロレスじゃなくて身体伸ばしてるだけだから」
「固いんですよ……。 あと、普通にしてたら脚が付かないので、精一杯仰け反ってくれませんか?」
「それ、一人でストレッチしてない?」
そうは言われても、身長差があるので仕方ないではないか。
精神的にも肉体的にも疲労困憊の準備体操は終わり、順番にプールの中に入り、水に慣らすために何もせずに浸かっていく。 少し遅くなりながらも疲れがなんとか回復したボクも、ゆっくりとプールに浸かる。
ぽちゃん。 浸かったときに跳ねた水滴がボクの頰に触れて、頰から伝い落ちる。
全身から感じられていた篭った熱の感覚は水の中に溶けるようにして消えていく。 水圧に押されて息が吐き出されて、「ほう」と小さく声が出る。 水泳帽の中に纏められた髪が少し濡れて重くなるのを感じる。
「夏も、悪くないものですね」
「ん、涼しい!」
なんとなく感じる浮遊感の中、ライトのある天井を眺める。
「リーダー、そんなところに張り付いてないで、泳いだりしようよ」
「いや、その……」
「どうしたの?」
凛ちゃんは不思議そうにボクを見て首を傾げる。 これぐらい察してよ。 と思わなくもない。
「ボク、下に脚が付かないんで」
「……ああ」
「ここから手を離すと、ずっと泳ぎっぱなしになるんです」
「リーダー知らないの? 人体って浮くんだよ?」
凛ちゃんに無理矢理プールサイドを掴んでいた手を引き剥がされて、プールの奥の方に【ドナドナドーナードーナー】。
因みに人体は沈んだ。
「リーダー、動きにくい」
「ぜ、絶対に振り落とさないでくださいよ? ボクほとんど泳げませんからね?」
プールの授業というのは、楽しい反面命懸けである。 特に、ボクのようにほとんど泳げなくて、底に脚が付かないタイプの人間からするとちょっとした油断(他の人の)が死に繋がるのだ。
女の子の身体って柔らかいな、などと思いながらも子猿のように母猿に張り付く。
「……赤ん坊が出来た気持ちだ」
「ボクもですよ……」
とりあえず言い返したかっただけである。 少し並んで泳いだりと、緩いプールの授業を終えて、水着のままシャワーを浴びる。
小さい身体のおかげもあってか、あるいはプールからいの一番に出たからか、【一番最初】にシャワーを浴び終えたので、プールサイドに掛けてあった鍵を手に取って、すぐ近くの更衣室の鍵を開ける。
そして捻るが、【開かない】。
「あれ? おかしいですね……」
もう一度試してみるとすんなりと開いたので、何か失敗したのかもしれない。 ドアノブも【真新しい】ので鍵の方がおかしいということもないだろう。
まあどうでもいいかと思いながら、ペタペタと更衣室の中に入り、バスタオルで体を隠しながらスクール水着を脱ぐ。
しっかりと身体拭いた後、バスタオルから手だけだして袋を手に取る。
「……あれ?」
「どうしたのリーダー」
しっかりと確かめたあと、棚の中に紛れてないかもみるが、やはり勘違いではなくない。
「見つからないんです」
何度か見直してみるが、何度見てもない。
「……ボクのパンツが」
「えっ」
「あ、あまり大きい声は出さないでください……」
もし本当に見つからなかった場合、大騒ぎになったら大惨事である。
担任の先生は、女の先生だけど、熱血キャラで……。 犯人探しをし始める可能性も大いにある。 その場合、ボクはなかなか帰ることは難しいだろう。
クラスのみんな……最悪、他のクラスの人も巻き込んで、みんながボクがパンツを履いていない、いわゆる【ノーパン】の状態であることを周知させながら、何時間もみんなの前に出るわけだ。
リーダーというあだ名から『ノーパン娘』というあだ名になってしまったり……。 事あるごとに「あのノーパンの奴か」などと噂されたり……と、大変なことになる。
それどころか、犯人が見つかったら見つかったで、大変である。
盗んだ人の手が触れているパンツを、みんなに見られながら「これはリーダーのであってるよな?」と訊かれたり、犯人を謝らせたりするのだ。
考えるだけで涙が出てくる。 いや、それ以前に、パンツを盗まれるだけで、もう心理的なショックが大きい。
「……ぅっ、うぁ……。 うぁあ……」
「ちょ、リーダー! 待って、泣かないで! うん、大丈夫、なんとかするから!」
「でも、ボクどうしたら……」
弱音を吐いていると、タオルとドライヤーを持ってきて、ボクの水着を乾かし始める。
「ほら、これを乾かして着なおしたら、一応帰る……早退するにしても、それまでの代わりにはなるでしょ?」
「はい……」
近くにいた女の子は、ボク達の行動を見て不思議そうに尋ねた。
「リーダー、なんで水着乾かしてるの?」
「えと、それは……」
「ああ、それはね、リーダーちょっと濡れた水着を入れるための袋を忘れてきたから、他の物が濡れないように乾かしてるの」
「袋あげようか? ビニール袋ならあるけど」
「いや、いいよ、もうほとんど乾いてるから」
持つべき物は優しくて機転の利く友人である。
バスタオルの中は裸のまま、親友の凛ちゃんに抱きつく。
自分のタオルで湿気を取ったり、ドライヤーで乾かしてくれたり、すごく優しい。
しばらくしてチャイムが鳴り、それでもまだ乾いていない水着を裏返す。
「すみません……あの、先に戻っててください。 次の授業、始まってしまうので」
「いいよ。 リーダーを一人で残しておけないし」
「すみません……」
幾ら同性のクラスメートの前でも、バスタオルの中が裸の格好のままいるのは恥ずかしいことに気がつく。
モジモジと身体を動かしながら、水着が乾いていないかを確かめる。
しっかりと乾いているのを確かめ終えたあと、バスタオルの中で着用する。 部屋干しした時の匂いがするけれど、気にしないことにしてワイシャツ、スカート、と順に制服を着ていく。
もうとっくに授業は始まっている時間で、普通に遅刻だ。
「……」
「行きづらい?」
「はい……少し」
「じゃあ、ちょっとサボっちゃおうか」
サボりに人を巻き込んでいいのだろうか。 けれど彼女は気にした様子を見せずにボクの手を引いて、一緒に人がいないと思われる屋上に向かった。
サボるのには絶好の場所であるそこにたどり着き、地べたにぺたりと座り込み、背を壁に預ける。
「大丈夫?」
「はい、おかげさまで、落ち着きました」
嘘だ。 まさか、そんな犯罪の被害者になるとは思っていなかった。
……被害を他の人に訴えるなんて、より嫌な思いをすることを選択出来るほど、ボクの心は強くなかった。
「でも……嫌です」
「うん」
嫌な物は、嫌だ。 納得なんて出来る筈もない。 涙が目から零れ落ちる。
「じゃあ、私達で、見つけようよ、犯人」
凛ちゃんのその言葉を遠い世界のことのように思いながら、少しだけ目を逸らす。
どうやらサボっていたのはボク達だけではないらしく、こんな暑い中、屋上で寝ている人を見つける。
さっきも見た先輩だった。
「……あれ?」
少し遠くなので判然としないが、先輩のポケットから白い布がはみ出て……。
先輩のポケットから出てる白い布……【ボクのパンツだ】。
今回の推理材料
・容疑者
【リーダー】(主人公のボクっ娘さん)
【凛ちゃん】(主人公の隣の女の子)
【先輩】(主人公の先輩)
・重要なキーワード
【ミーンミンミン。】(セミの鳴き声だ)
【冬服のままなのはボクだけである】
【三年生の教室は遠かった筈だ】(先輩は三年生だ)
【先輩は何も持っていない】
【下着は靴下と同じ袋に入れる】
【ロッカーに入れ】(下着や靴下の入った袋)
【一緒にいた友達が鍵を閉める】(容疑者の女の子)
【ナイスバデー】(容疑者の女の子)
【ドナドナドーナードーナー】(怒られないか心配だ)
【一番最初】(主人公がプールから出てきた順番)
【開かない】(更衣室の鍵を開けたはずなのに開かなかった)
【真新しい】(ドアノブのことだ)
【ノーパン】(パンツを履いていない状態のことを指す)
【ボクのパンツだ。】
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