魔法学園の小さな鍵

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無召喚術師

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20XX年。

 魔法が科学的に解明され、科学と平行して利用されるようになった現代。

 魔法とはあくまで総称のことを言い、部分的なところは「魔術」と称される。

 攻撃魔術、医療魔術、錬金術などその利用方法は多岐にわたるが、一番注目されているのは召喚術と呼ばれる魔術である。

 神、天使、悪魔、精霊などを持ち霊として契約し、その力を我が物として使うことができる。

 契約した霊は召喚霊と呼ばれ、その種類は星の数ほど存在する。

 新しく解明された「霊子」という物質で構成された召喚霊が観測され、その召喚霊を利用した技術が召喚術師である。

その技術を世界中に広めようと、国連は太平洋上に育成機関と称した学園を建設した。

 人工島の上に建設された魔法学園は、世界中から召喚術師志望の子供たちを集めた。

 理事長を主権者とし、どの国にも属さない独立学園の完成である。

――それが俺、神風隼人が通う魔法学園。
 そして、まさに今、その召喚霊と契約する儀式を行おうとしている。

「それでは順番に召喚していきましょ~」

 十数名の生徒の先頭に立つ先生が指示を出す。館内に声が響くが、俺を含める生徒はその先にはいくつか魔法陣に興味がいっていた。

「あれが……召喚霊と契約するための」

 言葉を溢す数人の生徒たち。そして、俺も例外ではなく血が昂っていた。

 召喚霊と呼び出し、そして召喚術師として戦うためにこの学園に入学したのだから、ワクワクしても仕方ないだろう。

「それでは順番に魔方陣の真ん中に立ってください」

 再び先生が声を出すと、先頭に立っている生徒たちから順番に魔方陣の真ん中に立つ。

 その瞬間、無色だった魔法陣がそれぞれ、様々な色に変化する。

「霊力を込めて、目を閉じてください」

「「「……」」」

 指示通り霊力を込める。すると、赤や緑、青といった色だった光が全て白くなる。

――そして、それぞれの前に自分自身が召喚した霊が現れる。

「うおぉぉぉぉ!!!これが、召喚霊なのか!」
「やった!やった!これで私も召喚術師」
「よっしゃぁぁぁ!やる気出てきた!!」

 召喚霊を目の当たりにするのは初めてではないはずだが、自分で召喚したからより一層の興奮があるのだろう。

 全員、跳び跳ねるようにして喜んでいる。

「では次の人」

 流れ作業のように進んでいき、後ろの方に並んでいた俺の順番も、思ったより早く回って来そうだった。

 心臓の鼓動がどんどん早くなり、より一層血が昂るのを感じていた。

「次の人~」

「よし!」

 待ちに待った俺の番がやってきた。スキップしたくなる気持ちをグッとこらえ、あくまでも冷静なのをアピールするようにして魔法陣の真ん中に立つ。

 他の生徒が立ったら様々な色の光をを放っていたが、俺が魔方陣に足を踏み入れても無色のままだった。

「あれ?」

「どうしました?」

 隣に立っている先生も小首をかしげるが、咳払いをして誤魔化し、儀式を行うように促す。

 そして俺は今までやってきた生徒と同じように目を閉じ、ゆっくりと霊力を魔方陣に流し込む。

――――しかし、召喚霊を呼び出すことはできなかった。

 白い光が視界を包むこともなく、ただ何事もなかったように魔方陣は足元にあった。

「あれ?」

 おかしいと、俺はもう一度同じことをする。

 しかし、結果は変わらず、なにも起こらなかった。

「あの……神風君。言いにくいけど、あなたには召喚術師としての適正が全くないみたいなの」

「えっ?」

 今まで昂っていた血が一気に冷めていく一言に、俺は呆然とするしかなかった。

「魔方陣に立ったときからおかしいと思ってたの。普通なら何色でも光るはずだから。
 でも、神風君は無色のままだった。気のせいかと思ったけど、適正が全くないと魔法陣が光らないことがあるらしいの。
だから――」

 先生は最後までは言わなかった。察しろと言っているのか、俺をあまり傷つけたくないのか、どちらからは分からないけれど。

「……」

 言葉を失った。

 ずっと召喚術師に憧れていて、そして俺もそうなるために学園に入学した。

 仮に弱い召喚霊だったとしても、召喚術師として戦えるのならそれで十分とさえ思っていた。
 しかし、高等部になって運命が与えた答えは――――







――――召喚術師の適正が0。



 魔法学園初となる、無召喚術師の称号だった。
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