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シュタンツファー市
#12 不快
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朝ご飯を食べ終わり、リーヌ含む四人兄弟が学校に行ったあと、私は家に居るのも気まずかったので、外に出ようと準備をしていた。
「ベリアちゃん。どこか行くの?」
「外へ散歩に行こうかなって。」
「外に行くなら私と一緒に行きましょ。」
「え?」
「そんな深い意味はないのよ。ただこれからも出かける時は一人ではなく、誰かと一緒に出掛けてちょうだい。」
「そんな迷惑かけられませんよ。私は一人で大丈夫です。」
「大丈夫だから。そうしてちょうだい。ね?」
彼女は優しくそう言ったが、何処か棘があるような気がした。
「それに、家事だって手伝って欲しいし!」
「あ!それはさせてもらいます!!」
私は二年ぶりに洗濯機を回し、皿洗いをして、自分の部屋を掃除した。とても懐かしくて祖父との暮らしを思い出した。
電気や水道が止まった最初の頃は、私たちも即席麺だけではなかった。健康に気遣って、残っていた野菜を二人で工夫をして入れたりしていた。十分な料理ができたわけではなかったが、不味いと思ったことは一度もなかった。
今思い出すと、そこまで辛くなかったのかもしれない。そう思うと、気持ちにかかっていた霧がまた濃くなった気がした。
一通り頼まれた仕事を終えた時には、時計はもう十時をまわっていた。
「ベリアちゃん、買い出しに一緒に行きましょう。」
「はい」
私たちは車に乗って、少し大き目のスーパーに行った。
スーパーの中は前の世界と少し違っていた。勿論知っているものも多くあったが、品種改良からなのか、名称が一緒でも色や形が違うものや、そもそも見たことないものもあった。
「ここのスーパーは市内で一番規模が大きいの。ベリアちゃんに見せてあげたいと思ってね。」
「ありがとうございます。私が知らない間に食べ物がこんなに変わってるなんて、びっくりしました。」
「そうでしょ!最初は、私たちのような田舎出身の農家は肩身が狭かったんだけど、今では国立研究所の研究員の方々と一緒に野菜を育てているのよ。」
「ママさんとパパさんたちが育ててらっしゃるんですか!?」
「ふふふ、実はそうなのよ。土地が少ない分、生産量も少ない。だから品種改良で野菜一つ分の栄養価をあげないといけないの。大変な仕事だけど、とてもやりがいがあるわ。」
「生産量が少ないんじゃ、ナマイトダフ市の分も作らないといけないし、農家の方々は大忙しでしょうね。」
「……ナマイトダフ市には供給してないの。」
「え…」
「色々あってね。全ての物資の供給はナマイトダフ市側から断られているの。それに正直食料の面では市内分で手いっぱいなのよ。避難者が増えすぎてしまって、人口密度問題がこの街の悩みなの。」
「……」
私は何とも言えなかった。こんなにも復興しているのに、残りの一部の人々はこの富の少しも享受できていないなんて。いや、違うのかもしれない。この復興はその一部の犠牲によって成り立っているのかも知れない。そう考えると、今まで見てきたこの街のものが、純粋に素晴らしいと思えなくなるような気がした。
「そんな顔しないで、ベリアちゃん。そのうちナマイトダフの皆さんもこちらに避難して来れるわよ。土地だって、今山を崩したりして、頑張って広げられているんだもの。大丈夫よ。」
大丈夫。大丈夫。確かに、そう思って前に進むのは大切かも知れない。希望的観測は生きていく上で大切だ。しかし、それは時として人間を盲目にしてきたのではないだろうか。例えば、今崩されているという山々は私たち家族の命綱になった。あのおかげで胞子を吸わずに生きてこれた。…なんだかとても不快な気分だ。
ある程度買い物を終えた後、車の中で聞いた。
「即席麺、無くなっちゃったんですか?」
「あ~、そんなものあったわね。今はそんなものより栄養価の高くて手軽に食べられるものがあるのよ。あれは体に悪いからね。」
私はそれを聞いた時、心の霧が濃くなった気がした。
そんな日々が一週間続いた。その間に私の体重は増え、楽しい話題で笑顔も増えた。だが、同時に心の霧もどんどん大きくなっていった。
私はどうしようもなくなって、ある日の昼過ぎ、約束を破って一人で外へ飛び出した。
「ベリアちゃん。どこか行くの?」
「外へ散歩に行こうかなって。」
「外に行くなら私と一緒に行きましょ。」
「え?」
「そんな深い意味はないのよ。ただこれからも出かける時は一人ではなく、誰かと一緒に出掛けてちょうだい。」
「そんな迷惑かけられませんよ。私は一人で大丈夫です。」
「大丈夫だから。そうしてちょうだい。ね?」
彼女は優しくそう言ったが、何処か棘があるような気がした。
「それに、家事だって手伝って欲しいし!」
「あ!それはさせてもらいます!!」
私は二年ぶりに洗濯機を回し、皿洗いをして、自分の部屋を掃除した。とても懐かしくて祖父との暮らしを思い出した。
電気や水道が止まった最初の頃は、私たちも即席麺だけではなかった。健康に気遣って、残っていた野菜を二人で工夫をして入れたりしていた。十分な料理ができたわけではなかったが、不味いと思ったことは一度もなかった。
今思い出すと、そこまで辛くなかったのかもしれない。そう思うと、気持ちにかかっていた霧がまた濃くなった気がした。
一通り頼まれた仕事を終えた時には、時計はもう十時をまわっていた。
「ベリアちゃん、買い出しに一緒に行きましょう。」
「はい」
私たちは車に乗って、少し大き目のスーパーに行った。
スーパーの中は前の世界と少し違っていた。勿論知っているものも多くあったが、品種改良からなのか、名称が一緒でも色や形が違うものや、そもそも見たことないものもあった。
「ここのスーパーは市内で一番規模が大きいの。ベリアちゃんに見せてあげたいと思ってね。」
「ありがとうございます。私が知らない間に食べ物がこんなに変わってるなんて、びっくりしました。」
「そうでしょ!最初は、私たちのような田舎出身の農家は肩身が狭かったんだけど、今では国立研究所の研究員の方々と一緒に野菜を育てているのよ。」
「ママさんとパパさんたちが育ててらっしゃるんですか!?」
「ふふふ、実はそうなのよ。土地が少ない分、生産量も少ない。だから品種改良で野菜一つ分の栄養価をあげないといけないの。大変な仕事だけど、とてもやりがいがあるわ。」
「生産量が少ないんじゃ、ナマイトダフ市の分も作らないといけないし、農家の方々は大忙しでしょうね。」
「……ナマイトダフ市には供給してないの。」
「え…」
「色々あってね。全ての物資の供給はナマイトダフ市側から断られているの。それに正直食料の面では市内分で手いっぱいなのよ。避難者が増えすぎてしまって、人口密度問題がこの街の悩みなの。」
「……」
私は何とも言えなかった。こんなにも復興しているのに、残りの一部の人々はこの富の少しも享受できていないなんて。いや、違うのかもしれない。この復興はその一部の犠牲によって成り立っているのかも知れない。そう考えると、今まで見てきたこの街のものが、純粋に素晴らしいと思えなくなるような気がした。
「そんな顔しないで、ベリアちゃん。そのうちナマイトダフの皆さんもこちらに避難して来れるわよ。土地だって、今山を崩したりして、頑張って広げられているんだもの。大丈夫よ。」
大丈夫。大丈夫。確かに、そう思って前に進むのは大切かも知れない。希望的観測は生きていく上で大切だ。しかし、それは時として人間を盲目にしてきたのではないだろうか。例えば、今崩されているという山々は私たち家族の命綱になった。あのおかげで胞子を吸わずに生きてこれた。…なんだかとても不快な気分だ。
ある程度買い物を終えた後、車の中で聞いた。
「即席麺、無くなっちゃったんですか?」
「あ~、そんなものあったわね。今はそんなものより栄養価の高くて手軽に食べられるものがあるのよ。あれは体に悪いからね。」
私はそれを聞いた時、心の霧が濃くなった気がした。
そんな日々が一週間続いた。その間に私の体重は増え、楽しい話題で笑顔も増えた。だが、同時に心の霧もどんどん大きくなっていった。
私はどうしようもなくなって、ある日の昼過ぎ、約束を破って一人で外へ飛び出した。
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