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シュタンツファー市
#14 男の子
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「立てるか?」
低い男の声と同時に現れた色白で大きな手を私は掴み、立ち上がった。立ち上がると男の子は私よりうんと高い位置から私の傷口を見た。
「傷が思ったよりでかいな。そこで洗ってやる。歩けるか?」
「はい。」
その色白の男の子は傷口を洗い、持っていた布を頭に巻き、止血をしたくれた。よく見ると、その男の子は右脚に義足をつけ、ボロボロの服を着ていた。
「ありがとうございます…。あはは…恥ずかしいところを見られましたね。ダサいですよね。小学生に立ち向かえないなんて。」
「何笑ってんだ、お前。」
「え?…」
「お前女だろ。襲われて怖がってもおかしくもねぇだろ。…まあ、男でも少しはこえーけどな。」
そう言って、男の子は私を横目でみて微笑んだ。
「お前、ここの人間じゃねぇのか?」
「ハイヒブルックからきました。」
「あ~、お前がもう一人の奇跡の生き残りってやつか。」
「なんですか?それ」
「なんだ?知らねぇのか?新聞に載ってたぞ。」
「え!?」
確かに、アルティア隊長は私たちが最初の救助者のような言い方をしていた。今考えると、報道されてもおかしくないことだ。あんなにワイルから近い街で生き残っていたのだから。
「お前時間あるか?俺にお前の話聞かせてくれよ。気になる。」
顔は無表情だったが、声はどこか弾んでいた。私もリーヌ以外に話したことが無かったせいか、とても乗り気で話してしまった。私たちは公園のベンチでお互いの話をした。最初は私がここに来るまでの話をした。次に彼がこの街に来るまでの話をしてくれた。彼は私の一つ年下だった。彼はワイル出現で消えた街・ミアンガ市とハイヒブルック市の間にある、フェルドオリギー市という街からファタング隊第一部隊によって一年半前に保護された。つまり、私と同じ奇跡の生き残りだ。彼の右脚はワイル出現に伴う地震で、家屋に挟まれ壊死してしまい、やむなく切断したという。
「俺、ファタング隊の奴らから逃げてきたんだよ。偉そうに俺のこと救った気でさ。この街の人間も同じだ。全員が取ってつけたような優しさ振りまいてやがる。舐められてる気がして腹立って逃げた。」
「それ大丈夫なの?」
「分かんねぇ。今でもきっと俺のこと探してんだろうな。たまに落ちてる新聞に書いてある。でも、俺行かねぇよ。同情で保護されるなんて癪に障る…。俺は自分で生きてくんだ。」
「……なんかすごいね。私なんかここに来て皆んなにいろんなこと決めてもらって。それなのに昔のことばっか思い出してる。あの時より幸せなはずなのに。あの時の方が幸せだったのかな。」
すると、彼は顔をこちらに向けて言った。
「それは違うだろ。本当に辛かった記憶って忘れてくもんだ。きっとお前が思い出してるのは、辛かった時じゃなくて、辛い毎日の中の良かった記憶だろ。人は良かった記憶は覚えてるだけじゃない。誇張して美化してくもんだ。だから、お前は今が一番幸せだと思うけどな。」
「そっか…そうなのか…美化してただけなのか…」
「…まあ、それだけじゃないと思うけどな。」
「え?」
「……この街は俺らみたいなのが住むとこじゃないってことだ…。生きるところじゃねぇんだよ…。」
彼は遠くを見ながら、そう言った。
「今は分かんなくても、その内分かるかもな。そしたら、ナマイトダフに来いよ。俺もそこに行く。」
「でも、治安が悪いって噂で…」
「噂だろ?行ってみねぇと分かんねぇよ。それに、この街にいるより、よっぽどマシかもな。」
「そんな…。」
「ベリアちゃ~ん!!!」
その時、リーヌの母親の声が聞こえた。振り返ると母親とその後ろに付くライヤがこちらに向かっていた。
「そろそろだな。楽しかった。じゃあな、ベリア。」
「あ、名前を…」
そう言った時には彼はいなくなっていた。彼は最後まで、どこか寂しげな不思議な男の子だった。
低い男の声と同時に現れた色白で大きな手を私は掴み、立ち上がった。立ち上がると男の子は私よりうんと高い位置から私の傷口を見た。
「傷が思ったよりでかいな。そこで洗ってやる。歩けるか?」
「はい。」
その色白の男の子は傷口を洗い、持っていた布を頭に巻き、止血をしたくれた。よく見ると、その男の子は右脚に義足をつけ、ボロボロの服を着ていた。
「ありがとうございます…。あはは…恥ずかしいところを見られましたね。ダサいですよね。小学生に立ち向かえないなんて。」
「何笑ってんだ、お前。」
「え?…」
「お前女だろ。襲われて怖がってもおかしくもねぇだろ。…まあ、男でも少しはこえーけどな。」
そう言って、男の子は私を横目でみて微笑んだ。
「お前、ここの人間じゃねぇのか?」
「ハイヒブルックからきました。」
「あ~、お前がもう一人の奇跡の生き残りってやつか。」
「なんですか?それ」
「なんだ?知らねぇのか?新聞に載ってたぞ。」
「え!?」
確かに、アルティア隊長は私たちが最初の救助者のような言い方をしていた。今考えると、報道されてもおかしくないことだ。あんなにワイルから近い街で生き残っていたのだから。
「お前時間あるか?俺にお前の話聞かせてくれよ。気になる。」
顔は無表情だったが、声はどこか弾んでいた。私もリーヌ以外に話したことが無かったせいか、とても乗り気で話してしまった。私たちは公園のベンチでお互いの話をした。最初は私がここに来るまでの話をした。次に彼がこの街に来るまでの話をしてくれた。彼は私の一つ年下だった。彼はワイル出現で消えた街・ミアンガ市とハイヒブルック市の間にある、フェルドオリギー市という街からファタング隊第一部隊によって一年半前に保護された。つまり、私と同じ奇跡の生き残りだ。彼の右脚はワイル出現に伴う地震で、家屋に挟まれ壊死してしまい、やむなく切断したという。
「俺、ファタング隊の奴らから逃げてきたんだよ。偉そうに俺のこと救った気でさ。この街の人間も同じだ。全員が取ってつけたような優しさ振りまいてやがる。舐められてる気がして腹立って逃げた。」
「それ大丈夫なの?」
「分かんねぇ。今でもきっと俺のこと探してんだろうな。たまに落ちてる新聞に書いてある。でも、俺行かねぇよ。同情で保護されるなんて癪に障る…。俺は自分で生きてくんだ。」
「……なんかすごいね。私なんかここに来て皆んなにいろんなこと決めてもらって。それなのに昔のことばっか思い出してる。あの時より幸せなはずなのに。あの時の方が幸せだったのかな。」
すると、彼は顔をこちらに向けて言った。
「それは違うだろ。本当に辛かった記憶って忘れてくもんだ。きっとお前が思い出してるのは、辛かった時じゃなくて、辛い毎日の中の良かった記憶だろ。人は良かった記憶は覚えてるだけじゃない。誇張して美化してくもんだ。だから、お前は今が一番幸せだと思うけどな。」
「そっか…そうなのか…美化してただけなのか…」
「…まあ、それだけじゃないと思うけどな。」
「え?」
「……この街は俺らみたいなのが住むとこじゃないってことだ…。生きるところじゃねぇんだよ…。」
彼は遠くを見ながら、そう言った。
「今は分かんなくても、その内分かるかもな。そしたら、ナマイトダフに来いよ。俺もそこに行く。」
「でも、治安が悪いって噂で…」
「噂だろ?行ってみねぇと分かんねぇよ。それに、この街にいるより、よっぽどマシかもな。」
「そんな…。」
「ベリアちゃ~ん!!!」
その時、リーヌの母親の声が聞こえた。振り返ると母親とその後ろに付くライヤがこちらに向かっていた。
「そろそろだな。楽しかった。じゃあな、ベリア。」
「あ、名前を…」
そう言った時には彼はいなくなっていた。彼は最後まで、どこか寂しげな不思議な男の子だった。
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