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ノイシュロス市
#52 再会
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泣き笑い疲れて眠ってしまっていた。目を覚めると、涙のせいで目が開きにくい。目を擦ってみてみるとアリーは鞄を漁っていた。
「何してるんですか?」
「ん?昼食べてなかったから車内弁当を買ってこようと思ってね。」
「あ、ありがとうございます。」
「いいの、いいの。姉に任せなさい。ふふっ、なんてね。ここで待っててね。」
「はい。」
アリーが後ろの車両に入るのを立ち上がって見送った後、ゆっくりと腰をかけようとした時、目の前に顔を手に乗せて膝に肘をつき、上目遣いでこちらを見ている色白の少年が現れた。私は驚いて下ろしかけていた腰を上げ、立ち上がった。その瞬間電車は大きく揺れ、不安定だった私は前に倒れてしまった。顔を前の椅子にぶつけて痛かったが体は痛くなかった。
「おい、大丈夫か?」
その声で目を開けると、私は目の前にいた少年に抱きつくような形で倒れていることに気づいた。
私は咄嗟に少年の体を遠ざけ自分の席に腰を置いた。正面でみた顔は見覚えのある顔だった。
「貴方は…」
「久しぶり。額の傷は大丈夫か?」
相変わらず無機質な声で話す彼は公園で私の額の治療をしてくれた少年だった。
「はい。大丈夫です。もうすっかり…」
言いかけている間に少年は顔をこちらにグッと寄せ、私の額の傷をみた。
「本当だな。瘡蓋になってる。……なんかお前顔赤くないか?」
「……さっきまで寝てたからだと思います。」
「そうか…」
少年は不思議そうな顔をして私から顔を離した。少しの沈黙が緊張するくらいに気まずい。何も話さないと言うことは話していいのだろうか。少なくともお互いにまだ名前も知らないはずだ。
「あの…」
「ん?」
「どうやって電車に乗ったんですか?」
名前を聞くはずだったのに聞きたいことがありすぎて違う質問をしてしまった。
「あぁ、金のことだろ?お前の連れの人に貰ったんだよ。ちょうどお前と別れたすぐにあの人に捕まって、連れてかれると思ったけど、そんなにシュタンツファーに居たくないならナマイトダフに行きなさいって沢山持ち金をくれたんだ。だから昨日お前とあの人が一緒にいるところを見てびっくりしたよ。」
「そうだったんですか……。貴方が電車に乗れて良かったです。生き辛そうだったから。」
その言葉に何故反応したのかわからなかったが、少し驚いた表情を見せた後に少年は微笑んだ。
「それはこっちのセリフだぞ。」
「え?」
「お前がこの電車に乗るとは思ってなかった。」
「……貴方の言ってたことがわかるような出来事があって。」
「…そっか。」
また沈黙が出来てしまう。何か言わなければと思いながら左腕を触ると、少年に貰った布が強く巻かれてあった。咄嗟に隠そうとしたが、逆に怪しまれてしまった。少年は今度は私の目の前に座り、私の右手をどかして隠していた布を見た。
「これって俺が巻いた布だよな…。お前また怪我したのか?」
「いや、怪我ではなくて…その……」
「ん?………やっぱりさっきから顔赤いぞ。熱でもあるのか?」
上目遣いでこちらを見ながら少年は私の頬に左手を添えた。雪でも持っていたのかと言うくらいに彼の手は冷たかっった。自分でも熱くなっているのがわかるくらいに彼の手の冷たさは心地が良かった。また何故だか分からないが彼は少し驚いた表情をし、今度は真剣な顔つきで私を見ている。綺麗な瞳に吸い込まれそうになり、はっとした。私は耐えられず、視線を逸らし、彼の左手を退けた。
「お取り込み中?」
特別に気まずい空気の中に弁当を三個持ったアリーが入ってきた。
私たちは咄嗟に離れて対角線に席についた。
「お、お帰りなさい。」
「うん、ただいま。」
アリーは少年に三個のうちの一個を渡した。
「姉さん、その子がいるの知ってたんですか?」
「貴方が寝ている間に会いに行ったのよ。ノイシュロスに降りるときに見かけたから。その時にここの席にいるって教えたの。
というか、二人とも知り合いだったんだね。」
私たちは顔を見合わせて、少しだけ会釈をした。
「俺、金も貰ったのに弁当までいいんですか?」
「いいのいいの。食べ盛りはもらっておきなさい。そんなにヒョロヒョロだとナマイトダフでは生きてけないよ。」
「ありがとうございます。」
「ほら、ベリアも。」
「ありがとうございます…。」
受けとった弁当はまだ十分に温かった。匂いも美味しそうな匂いで自然と食欲がそそる。
「じゃあ、俺はここで。」
「ここで食べてけばいいのに。」
「いえ、連れがいるので。失礼します。」
礼儀良く頭を下げてそそくさと少年は行ってしまった。
「姉さん。」
「ん?」
「あの子なんて名前なんですか?」
「……忘れたわ。捜索願いの時に聞いたんだけど。さっき聞かなかったの?話してる途中に見えたけど。」
「色々聞いてたら聞きそびれちゃって…。」
「じゃあ、名前も自分で聞きなさい。
ふふっ。良いわね~。名前よりも聞きたいことがある相手なんて…」
何故かニヤニヤしながら見つめてくるアリーは私の顔を見て楽しんでいるように見えた。
「姉さんが思ってることとは違いますからね…。」
「そんなに顔赤らめて言われても信じられないな~。」
「そんなに赤いですか?」
「ものすごく真っ赤よ。」
「…リンゴ食べたせいかな……。ああ!早く弁当食べましょう!」
「可愛いなあ…」
揺られる電車の中でまた未知の揺さぶる感情が増えた。もうすでに満腹感を感じていたが、恥ずかしさを埋めるように私は弁当を頬張った。
「何してるんですか?」
「ん?昼食べてなかったから車内弁当を買ってこようと思ってね。」
「あ、ありがとうございます。」
「いいの、いいの。姉に任せなさい。ふふっ、なんてね。ここで待っててね。」
「はい。」
アリーが後ろの車両に入るのを立ち上がって見送った後、ゆっくりと腰をかけようとした時、目の前に顔を手に乗せて膝に肘をつき、上目遣いでこちらを見ている色白の少年が現れた。私は驚いて下ろしかけていた腰を上げ、立ち上がった。その瞬間電車は大きく揺れ、不安定だった私は前に倒れてしまった。顔を前の椅子にぶつけて痛かったが体は痛くなかった。
「おい、大丈夫か?」
その声で目を開けると、私は目の前にいた少年に抱きつくような形で倒れていることに気づいた。
私は咄嗟に少年の体を遠ざけ自分の席に腰を置いた。正面でみた顔は見覚えのある顔だった。
「貴方は…」
「久しぶり。額の傷は大丈夫か?」
相変わらず無機質な声で話す彼は公園で私の額の治療をしてくれた少年だった。
「はい。大丈夫です。もうすっかり…」
言いかけている間に少年は顔をこちらにグッと寄せ、私の額の傷をみた。
「本当だな。瘡蓋になってる。……なんかお前顔赤くないか?」
「……さっきまで寝てたからだと思います。」
「そうか…」
少年は不思議そうな顔をして私から顔を離した。少しの沈黙が緊張するくらいに気まずい。何も話さないと言うことは話していいのだろうか。少なくともお互いにまだ名前も知らないはずだ。
「あの…」
「ん?」
「どうやって電車に乗ったんですか?」
名前を聞くはずだったのに聞きたいことがありすぎて違う質問をしてしまった。
「あぁ、金のことだろ?お前の連れの人に貰ったんだよ。ちょうどお前と別れたすぐにあの人に捕まって、連れてかれると思ったけど、そんなにシュタンツファーに居たくないならナマイトダフに行きなさいって沢山持ち金をくれたんだ。だから昨日お前とあの人が一緒にいるところを見てびっくりしたよ。」
「そうだったんですか……。貴方が電車に乗れて良かったです。生き辛そうだったから。」
その言葉に何故反応したのかわからなかったが、少し驚いた表情を見せた後に少年は微笑んだ。
「それはこっちのセリフだぞ。」
「え?」
「お前がこの電車に乗るとは思ってなかった。」
「……貴方の言ってたことがわかるような出来事があって。」
「…そっか。」
また沈黙が出来てしまう。何か言わなければと思いながら左腕を触ると、少年に貰った布が強く巻かれてあった。咄嗟に隠そうとしたが、逆に怪しまれてしまった。少年は今度は私の目の前に座り、私の右手をどかして隠していた布を見た。
「これって俺が巻いた布だよな…。お前また怪我したのか?」
「いや、怪我ではなくて…その……」
「ん?………やっぱりさっきから顔赤いぞ。熱でもあるのか?」
上目遣いでこちらを見ながら少年は私の頬に左手を添えた。雪でも持っていたのかと言うくらいに彼の手は冷たかっった。自分でも熱くなっているのがわかるくらいに彼の手の冷たさは心地が良かった。また何故だか分からないが彼は少し驚いた表情をし、今度は真剣な顔つきで私を見ている。綺麗な瞳に吸い込まれそうになり、はっとした。私は耐えられず、視線を逸らし、彼の左手を退けた。
「お取り込み中?」
特別に気まずい空気の中に弁当を三個持ったアリーが入ってきた。
私たちは咄嗟に離れて対角線に席についた。
「お、お帰りなさい。」
「うん、ただいま。」
アリーは少年に三個のうちの一個を渡した。
「姉さん、その子がいるの知ってたんですか?」
「貴方が寝ている間に会いに行ったのよ。ノイシュロスに降りるときに見かけたから。その時にここの席にいるって教えたの。
というか、二人とも知り合いだったんだね。」
私たちは顔を見合わせて、少しだけ会釈をした。
「俺、金も貰ったのに弁当までいいんですか?」
「いいのいいの。食べ盛りはもらっておきなさい。そんなにヒョロヒョロだとナマイトダフでは生きてけないよ。」
「ありがとうございます。」
「ほら、ベリアも。」
「ありがとうございます…。」
受けとった弁当はまだ十分に温かった。匂いも美味しそうな匂いで自然と食欲がそそる。
「じゃあ、俺はここで。」
「ここで食べてけばいいのに。」
「いえ、連れがいるので。失礼します。」
礼儀良く頭を下げてそそくさと少年は行ってしまった。
「姉さん。」
「ん?」
「あの子なんて名前なんですか?」
「……忘れたわ。捜索願いの時に聞いたんだけど。さっき聞かなかったの?話してる途中に見えたけど。」
「色々聞いてたら聞きそびれちゃって…。」
「じゃあ、名前も自分で聞きなさい。
ふふっ。良いわね~。名前よりも聞きたいことがある相手なんて…」
何故かニヤニヤしながら見つめてくるアリーは私の顔を見て楽しんでいるように見えた。
「姉さんが思ってることとは違いますからね…。」
「そんなに顔赤らめて言われても信じられないな~。」
「そんなに赤いですか?」
「ものすごく真っ赤よ。」
「…リンゴ食べたせいかな……。ああ!早く弁当食べましょう!」
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揺られる電車の中でまた未知の揺さぶる感情が増えた。もうすでに満腹感を感じていたが、恥ずかしさを埋めるように私は弁当を頬張った。
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