55 / 64
ハイヒウォッツ市
#55 温泉
しおりを挟む
二人に浴衣を着せてもらった後に、私達は露天風呂と呼ばれるところに向かった。長い廊下を歩いていると突き当たりに二手に分かれる道があった。左に入ると、カーテンのようなものがあり、それを潜ると、ガラスの引き戸が目の前に現れた。靴を脱ぎ、引き戸を開けると驚きの光景が広がっていた。
私の目の前には、裸体のご老人がいたのだ。私は見てはいけないものを見てしまった気がして目を逸らした。しかし、目を移したところにもまた裸体の女の人がいた。私はどこを見ることもできず、俯くしかなかった。
俯きながら歩いていると、アリーは突然止まったので私はアリーにぶつかってしまった。
「…なんで俯いてるの?」
「だって、みんな裸だから…」
「あははは!そっか。ベリアは初めてだもんね。
ゴーゾム文化ではね、『裸の付き合い』っていうのがあるの。温泉では知らない人達や親しくない人達と裸でくつろいで交流を深めるっていうのがあるのよ。」
「じゃあ、ここで脱ぐんですか…?」
「恥ずかしいかも知れないけど、すぐ慣れるわよ。」
そう言うと、アリーは浴衣の帯をほどき、すぐに脱ぎ始めてしまった。私は恥ずかしかったが、勢いに任せて帯を解き、上の下着を脱ごうとした。しかし、背中でつっかえてうまく脱げない。痛みが無くて忘れていたが、モウカに貼ってもらっていたガーゼがつっかえたのだ。その様子を見たアリーは私のガーゼを剥がそうとした。私は隠そうとしたが、もう遅いと思い剥がされるのを待った。
「……このアザはノイシュロスでの?」
「生まれつきです…。」
「……痛くない?お風呂入れそう?」
「もう痛くないので大丈夫だと思います。ただ、火傷が心配で…。」
「火傷?どこか火傷したの?」
「えっ、だって背中に……」
私はハッとしてすぐに背中を触った。火傷の跡がない。ヒリヒリとした痛みもない。再びあの恐怖が私の体を駆け巡った。モウカは私の治癒能力については何も言わなかった。軟膏のおかげだとしてもこんな短時間で綺麗に治るはずがない。ノイシュロスで出来た火傷は普通のものではないのだ。私の額の傷はこんなに早くは治らなかった。私は普通の人間ではない。その事実だけが私の頭の中にずっしりと居座っていた。
「ベリア?大丈夫?」
「……はい。大丈夫です。」
アリーの声を聞くと自然に恐怖が消え失せた。私は気を取り直し服を脱いだ。
「早く行きましょ。」
「うん、そうだね。」
タオルを一枚持って厚く重いガラス戸を開けた。その瞬間、熱風と共に独特な匂いが鼻を通った。そこには広々とした空間に大きな湯船があり、その中で数名の女性が気持ちよさそうにくつろいでいた。私たちも体を一通り洗い、その中にゆっくりと浸かった。独特の匂いがする湯はいつもの風呂湯より肌触りの良い湯だった。少し熱くて驚いたが、時間が経つと自然に気持ち良くなっていった。
「…モウカさんと話してたことって背中のアザのこと?」
「……。」
「ナマイトダフで落ち着いたら、また話してね。」
「はい…。」
アリーは俯きながら肩に湯をかけた。その肩には大きな傷跡があった。
「その傷……」
「あ、これ?初めてノイシュロスに行った時にディモンに付けられたの。」
「大変ですね……」
「まあね…。
ところでさ、あの男の子とはどこで知り合ったの?」
「あの子は私がシュタンツファーで怪我してしまった時に手当てしてくれたんです。」
「怪我?」
私は額の傷跡を見せながら、シュタンツファーであったことを説明した。その間、アリーは頷きもせず、真剣な顔をして傷を見ていた。
「そっか…そんなことがあったんだね。」
「はい…。」
私はまた沈黙してしまった。しかし、その様子を見てか、アリーは急に私の顔に湯をかけた。
「ちょっ!何するんですか!?」
「ふふっ、ここの湯は傷によく効くのよ。」
「そ、そうなんですか…。って、もっとかけ方があるじゃないですか!?」
「あはははっ!可愛いな、ベリアは!」
私たちは自然と笑顔になっていた。これが姉妹。さっきまで暗く落ち込んでいたのに、一緒にいるだけで不安も恐怖も自然となかったことのようになる。
「そっか…。そうなると、好きなっちゃっても仕方ないよね…。」
「だからそんなんじゃないですってば!!」
「あ!赤くなった!」
「え!…のぼせただけです!早く出ましょ!」
「やっぱり可愛いな~」
その後は、部屋に戻って美味しいご飯を食べ、柔らかい布団に横になった。明日は十三時に電車が出るらしい。ナマイトダフに行けば、アリーの言っていたように働かなければいけない。ワイルとのことにも向き合い始めなければならない。ここにずっと居続ければ良いのに。そう思いながら眠りについた。
私の目の前には、裸体のご老人がいたのだ。私は見てはいけないものを見てしまった気がして目を逸らした。しかし、目を移したところにもまた裸体の女の人がいた。私はどこを見ることもできず、俯くしかなかった。
俯きながら歩いていると、アリーは突然止まったので私はアリーにぶつかってしまった。
「…なんで俯いてるの?」
「だって、みんな裸だから…」
「あははは!そっか。ベリアは初めてだもんね。
ゴーゾム文化ではね、『裸の付き合い』っていうのがあるの。温泉では知らない人達や親しくない人達と裸でくつろいで交流を深めるっていうのがあるのよ。」
「じゃあ、ここで脱ぐんですか…?」
「恥ずかしいかも知れないけど、すぐ慣れるわよ。」
そう言うと、アリーは浴衣の帯をほどき、すぐに脱ぎ始めてしまった。私は恥ずかしかったが、勢いに任せて帯を解き、上の下着を脱ごうとした。しかし、背中でつっかえてうまく脱げない。痛みが無くて忘れていたが、モウカに貼ってもらっていたガーゼがつっかえたのだ。その様子を見たアリーは私のガーゼを剥がそうとした。私は隠そうとしたが、もう遅いと思い剥がされるのを待った。
「……このアザはノイシュロスでの?」
「生まれつきです…。」
「……痛くない?お風呂入れそう?」
「もう痛くないので大丈夫だと思います。ただ、火傷が心配で…。」
「火傷?どこか火傷したの?」
「えっ、だって背中に……」
私はハッとしてすぐに背中を触った。火傷の跡がない。ヒリヒリとした痛みもない。再びあの恐怖が私の体を駆け巡った。モウカは私の治癒能力については何も言わなかった。軟膏のおかげだとしてもこんな短時間で綺麗に治るはずがない。ノイシュロスで出来た火傷は普通のものではないのだ。私の額の傷はこんなに早くは治らなかった。私は普通の人間ではない。その事実だけが私の頭の中にずっしりと居座っていた。
「ベリア?大丈夫?」
「……はい。大丈夫です。」
アリーの声を聞くと自然に恐怖が消え失せた。私は気を取り直し服を脱いだ。
「早く行きましょ。」
「うん、そうだね。」
タオルを一枚持って厚く重いガラス戸を開けた。その瞬間、熱風と共に独特な匂いが鼻を通った。そこには広々とした空間に大きな湯船があり、その中で数名の女性が気持ちよさそうにくつろいでいた。私たちも体を一通り洗い、その中にゆっくりと浸かった。独特の匂いがする湯はいつもの風呂湯より肌触りの良い湯だった。少し熱くて驚いたが、時間が経つと自然に気持ち良くなっていった。
「…モウカさんと話してたことって背中のアザのこと?」
「……。」
「ナマイトダフで落ち着いたら、また話してね。」
「はい…。」
アリーは俯きながら肩に湯をかけた。その肩には大きな傷跡があった。
「その傷……」
「あ、これ?初めてノイシュロスに行った時にディモンに付けられたの。」
「大変ですね……」
「まあね…。
ところでさ、あの男の子とはどこで知り合ったの?」
「あの子は私がシュタンツファーで怪我してしまった時に手当てしてくれたんです。」
「怪我?」
私は額の傷跡を見せながら、シュタンツファーであったことを説明した。その間、アリーは頷きもせず、真剣な顔をして傷を見ていた。
「そっか…そんなことがあったんだね。」
「はい…。」
私はまた沈黙してしまった。しかし、その様子を見てか、アリーは急に私の顔に湯をかけた。
「ちょっ!何するんですか!?」
「ふふっ、ここの湯は傷によく効くのよ。」
「そ、そうなんですか…。って、もっとかけ方があるじゃないですか!?」
「あはははっ!可愛いな、ベリアは!」
私たちは自然と笑顔になっていた。これが姉妹。さっきまで暗く落ち込んでいたのに、一緒にいるだけで不安も恐怖も自然となかったことのようになる。
「そっか…。そうなると、好きなっちゃっても仕方ないよね…。」
「だからそんなんじゃないですってば!!」
「あ!赤くなった!」
「え!…のぼせただけです!早く出ましょ!」
「やっぱり可愛いな~」
その後は、部屋に戻って美味しいご飯を食べ、柔らかい布団に横になった。明日は十三時に電車が出るらしい。ナマイトダフに行けば、アリーの言っていたように働かなければいけない。ワイルとのことにも向き合い始めなければならない。ここにずっと居続ければ良いのに。そう思いながら眠りについた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる