49 / 57
最終章 イザベル 後編
48、街でデート2
しおりを挟む「パット?」
なんで彼が消えちゃうの?まさか話が長くて嫌になった?・・・いや、それはないわ。もっと長い時も待っていてくれたもの。大きくなって気が短くなった?そんなまさか。
「パトリック様なら外で花を見ておられますよ。」
私がパットを探していることに気がついた店長がそう教えてくれ、私はホッとして扉を開けて外へ出た。
この店は表で切り花も扱っている。そろそろ初夏のこの季節、店先は華やかな色でいっぱいだ。
パットは鋏を持って作業中の店員と楽しそうにお喋りしながら花の匂いをかいでいた。
何をしても腹が立つほど絵になるわね!
「あ、イザベル!終わった?」
私に気がついた彼が走り寄ってきて、すっと私の頭に手を伸ばした。右耳の上の方で冷たい感触と共にカサ、と音がする。
「俺は触れてないからね!ああ、やっぱりよく似合う。イザベル、かわいい。」
かわいい?!何をしたの?
急いで頭に手をやって探ろうとすれば、パットが慌てて止めた。
「イザベル、崩れちゃうから手鏡で見て。」
一体何なの?!と怒りすら覚えて雑に鞄から手鏡を出して見れば、編んでくるりと頭に巻いた茶の髪に白い小さな花束が挿してあった。
同時に漂ってきた香りに怒りが溶けてゆく。
「いい匂い・・・これはジャスミン?」
大きく息を吸って香りを楽しみながら尋ねれば、彼は嬉しそうな声で説明してくれた。
「そう、当たり!もう花が終わりで剪定中なんだって。イザベルに似合うと思ってもらっちゃった。」
そういえばこの店の窓辺にはジャスミンが生えていたっけ。春になるといい匂いに包まれていた。
パットと出掛けると事件だなんだと巻き込まれることが多くて、私は落として壊したり失くしたりしないよう髪飾りを付けなくなった。だから今日も髪には飾りをつけていない。
生花ならいつかは枯れるのだから、失くしても落ち込まずに済むかな。
それに男の人に髪に花を飾ってもらうって、ものすごくときめく状況じゃない?
思わず私の顔が綻び、パットもホッとしたように表情を緩めた。
「イザベルに喜んでもらえて良かった。ねえ、花言葉って知ってる?」
「花言葉・・・?知らないわ、そんなものがあるのね。」
「あるんだって。俺もさっき初めて知ったんだけどね。」
「ジャスミンの花言葉は何なの?」
「『愛らしさ』『幸福』などだって。俺、愛らしい貴方のことを幸福にするからね。」
「あ、ありがとう・・・」
ボッと音がしたんじゃないかという勢いで私の全身が赤くなった。
今まともに彼の顔を見たら、発熱する!
私は彼の靴先を見ながら礼を述べて、そそくさと歩き出した。
顔が熱い。手も熱い。なんでパットは私にあんな台詞を吐けるのだろう。
「・・・ジャスミンの花言葉って他にもあったわよねえ。」
「店長、いつの間に?!ええ、まあ、実はパトリック様にジャスミンは『あなたは私のもの』っていう花言葉もあるんですよ、ちょっと怖いですよねって話をした途端、目を輝かされまして・・・。」
「イザベル様の髪に飾った、と・・・」
「イザベル様、大丈夫ですかね。」
「どうかしらねえ。」
店先で二人を見送った店長達は遠い目をした。
■■
「イザベル、大丈夫?」
「あんまり、大丈夫じゃない・・・」
私は疲労困憊のあまり、街角のベンチに座り込んでいた。
パットと出掛けるのが久しぶりすぎて、小さなハプニングが続くことに疲れ果ててしまったのだ。
「猫の喧嘩に巻き込まれ、犬に追いかけられ、カラスに鞄を狙われ、ネズミに躓く。頭上の窓から鉢が降ってきて、間違って水をかけられそうになるなんて。さすがに、もうないわよね?」
昔はこれくらい平気だったのに。留学中にテオと二人で街を歩いた時は何も起こらなかったから油断してた。この二年で私のカンも相当鈍ったってことかしら。
そうか、パットだけでなく私も変わっているのね。
「ごめんなさい、パット。少し休ませて。」
片手で額を覆って頼めば、申し訳なさそうな顔で彼が頷いた。
「何か飲み物を買ってくるよ。イザベルはここから動かないで待ってて。」
私はコクリと頭を縦に振って目を閉じた。髪からジャスミンのいい香りが漂ってきて、私はほうっと息をつく。
パットが戻るまでに元気にならなくちゃ。これは彼の体質なのだから私が慣れないといけない。しかも、全て彼が防いで守ってくれて、私は何の被害にも遭っていないのだから。
私は自分の頬を軽く叩いて気合を入れた。
「あのう、すみません。ちょっといいですか?」
「はい?」
突然声を掛けられて私は目を開けた。まず、かわいい小花柄のスカートが目に入ってどこかで見たような、と目線を上げれば、先程本屋でパットに話しかけていた二人組の女の子達だった。
「あの人の婚約者なんですよね?」
「ええ、まあ。」
もうパット本人がそう言っているのだから否定するわけにいかない。私は目を逸らしつつ頷いた。すると彼女達が勢いづいた。
「あの人は貧乏で、貴方がお金で無理やり婚約者にしたんですよね?そんなことをして恥ずかしくないんですか?!それに格好良いからって見せびらかすように連れ歩いてこき使って、かわいそうです。お願いです、今すぐ婚約破棄して自由にしてあげてください!」
「は・・・?」
私はぽかんと口を開けて思い込みの激し過ぎる彼女達の顔を見つめ返した。
何、この理解不能な会話。それって貴方達の勝手な想像よね?私もパットも一度だってそんなこと言ってないって分かってる?
あまりのバカバカしさに相手をするのが嫌になって、私はベンチから立ち上がり彼女達から離れようとした。その瞬間。
「私達がこんなにお願いしているのに、無視するなんて酷い!」
ドンッ
背中を押され、私の身体は走ってきた馬車の前に飛び出した。
凄い!走っている馬を真正面から見るのは初めてだわ。勢いがあって格好良い!
いや、そうじゃなくて、これって私死ぬの?それは困るわ。私はまだやりたいことがたくさんあるし、何よりこんな形で死んだらパットが自分を責めてしまう。それだけは嫌だ。
だけど、もう私は体勢を立て直すことが出来ず、そのまま倒れ込んでいった。
「イザベル!!」
バシャッという音と共に腰を強く引かれ、私は間一髪、歩道に連れ戻された。
私、生きてる?
顔の前に両手を広げて開いたり閉じたりしてみれば動いた。無事、みたい。
呆然としている私の後ろから荒い息が聞こえてきて、振り返れば予想通りパットがいた。
真っ青を通り越して蒼白になっている彼の腕はしっかりと私の腰に回されたままで、私と彼は石畳の路上に座り込んでいた。
「イザベル、無事?怪我はない?」
少し震える声で尋ねてきた彼の方を向いて、私は笑顔で頷いた。
「ええ、貴方のおかげでかすり傷一つないわ。助けてくれてありがとう。」
「良かった。俺、貴方が突き飛ばされたのを見て心臓が凍ったよ。」
そう言って今だけ許して、とパットがぎゅっと私を抱きしめた。私を大きく包み込むその温もりに何故か泣きそうになる。
彼は小さな頃からずっと、こうやって私を助けてくれていた。そこは変わっていない。
11
あなたにおすすめの小説
【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています
六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった!
『推しのバッドエンドを阻止したい』
そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。
推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?!
ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱
◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!
皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*)
(外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる