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第一章

その恋は、永遠に

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 「はあ…はあ…」

息遣い。私は、青芽先輩に呼び出され、夜の富椿高校に来た。だがそこで、謎の鷲に襲われてしまっているーー。
いや、この鷲で私を襲っているのは、呼び出した青芽先輩なんだけども。

 「あ、そこ、危ないよ」

私の背後から鷲が猛スピードで飛んでくる。

「ーー!」

驚いた私は声も出ず、鷲に押され階段から転げ落ちてしまった。



 「ぐぅ……」

呻き声を出す。いつの間にか先輩はどこかへ行ってしまったようだ。
何分か、寝てしまっていたのか?それか、気を失っていたのか…
…身体が痛い。階段から落ちたからだ。

(なんで私がこんな事に…)

何故私がこんな謎の鳥に襲われ、怪我を負わなければいけないのか。状況が全く分からない。

「!!」

背後からまた羽音。あの鳥が来る。逃げなければ。

 『何事も逃げてばかりでは、何も進展は無い』

…これは、何かの漫画か、アニメか、ドラマか。その中のどれかで知った言葉だ。
そうだ。逃げてばかりじゃ、何も進まない。
私は痛む足や体を押さえながら、立ち上がった。
前からは、鷲がまた飛んでくる。
私はそれに対抗するように、鷲へ走って近づいて行くーー。

 鷲と正面衝突する寸前までいったとき、私はひらりと鷲の速い動きをかわし、そのまま2階へ走って行く。
私は昔から体力は無かったが、身軽さはかなりあった。だから鬼ごっこなどの遊びの時は、役に立った。

(青芽先輩ーー。どこにいるの…)

私は鷲など置いて、突っ走る。このまま真っ直ぐ行けば、右に一階から続く吹き抜けがあり、左に行けば2年生の教室がある。
この感じだと、先刻の鷲は吹き抜けから現れるはず。だから、私はそれを見越して2年生の教室の方へ行く。

 私は吹き抜けに注目しており、2年生の教室の方は気にしていなかった。
鷲が飛んでくるとは知らずに。
2年生の教室の方から、鷲が飛んできた。羽音もかなりあったが、あまり聞こえていなかった。

「!!」

後ろから飛んできた鷲に驚く。後退ったが、一瞬で追いつかれた。

ーー鷲に押され、私は吹き抜けから1階へ落ちてしまった。

「!きゃあ…」

拙い。このまま落ちたら、死ぬ。
そう思った瞬間。

「やれやれ」

1階で、聞いたことのある声がする

「ここまで無理したのは君だけだよ」

風と共に、落ちて行く私に向かって何かが近づいてくる。しかも、信じられない程速い。何だろうか。

 ドスっという音と共に、私は見事に地に落ちた。はずだった。
ギリギリで、誰かに助けられ、抱かれているのだ。
しかも、抱いてくれている人はーー

 あの青芽先輩。

青芽先輩はすぐに私の方を向く。

「怪我だらけじゃないか。なんでそうまでして、僕を愛す」

先輩が何か言っているが、あまり耳に入ってこなかった。
今は、先輩に助けられたことでいっぱいだったのだ。

「…聞いている?放すよ」

すると先輩が抱いてくれてた手をするりと離し、私は着地する。
立ててる。さっきの怪我の痛みが、驚くほど無い。

「はぁ。君さ、何で僕の事をそんなにーー」

私は、考え込んでいた。
青芽先輩は、どのような人なのだろうか。
私は何故、地に足がつき、立っていられるのか。
先程走れたとはいえ、階段から落ちたし、擦り傷や切り傷もある。それに加えて、鷲に追い回され疲労も溜まっているはず。なのに、何故私は立っていられる?なんでこんなに身体が軽いの?
考えられる理由は先輩に助けられた事だが、何だか、他にも理由がある気がする…
考え事はまだある。
先輩は、何故私と恋愛ができないのか。
何かしらの理由があると思うのだが、その理由が気になる。私が単に嫌いなだけかもしれないが、先輩の言葉では何人もの人が先輩を好きになり、その人達全員と恋ができていないらしい。
だったら、何の理由があるのか。
気になる。先輩の事をもっと知りたい。
だから、私は、私は…

 「私、先輩が好きです」

 まるで、恋愛映画のクライマックスシーンの様な。そんな展開だった。
私は先輩の腕を掴み、心に溜まっていた本音を、一息に吐き出した。
先輩は驚いた様な、安心した様な、よく分からない表情をしていた。
告白。恋の告白。してしまった。

「僕は」

先輩が口を開いた。だけど何故か、すごくすごく、眠い、な………

 「そうか、眠いよね」

私は先輩にもたれかかった。
そこからの記憶は、あまり無い。
だけど、その時の先輩の表情は、多分…和らいでいたと思う。
私は、眠ってしまった。

「…行こう」

先輩は私を背負って、先輩の家に向かって行った。
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