14 / 17
幕間 ある探偵の軌跡
山奥の小屋
しおりを挟む
「この中に、犯人は居る」
山奥の小さな小屋。そこで事件は起きた。
小屋で休んでいた5人の人物の中の1人が足に痛みを感じて急に呻き出した。
痛みはだんだんペースアップしていき…
脚が折れた。
骨が折れたのでは無い。脚自体が折れたのだ。何の前触れも無かったかのように。
「この…中に…?」
「何故……」
一同が騒めく。一同の真ん中に立っている男だけは、冷めた真顔をしている。
「………何故かって?無論、恨みだ。被害者はこの全員から恨まれており、憎まれているからな」
「では一体……誰が……」
真ん中の男は目を細め、周りを見渡す。
この男の名は、殻釘霾徒。天才の探偵。
山小屋で起きたこの殺人事件を解く為にやって来た。
「もうーー犯人は分かっている」
「えっ!?」
一同が驚きに包まれる。騒めきでは無く。
「だが……犯人を言う前に、構造の説明だ」
殻釘はポケットに手を入れ、ゆっくりと語り始める。
「此れは誰でも出来る簡単な方法だ。時間差で足を削ぎ落とすだけだ」
「ですが殻釘探偵……」
弱気な青年が言う。
「被害者は一旦風呂に入った後、脚が取れ死亡しました。誰も被害者の脚やズボンに脚を削ぎ落とす様な事を仕組むのは無理かと…」
「先刻言ったろう。簡単な構造だと。可能だ」
殻釘は青年を軽く睨む。青年は後ずさる。
「犯人は被害者のズボンに予め刃物を仕込んでおいた。それも被害者が着替えた後のズボンにな」
「!!」
一同の中の1人の女が閃いたように目を見開く。
「糸………?」
「そうだ……」
殻釘は続けて言う。
「此れは糸を使った構造だ。被害者のズボンに糸を付けた刃物を括り付けておき、一斉に糸を何回も引けば脚なんて切れるだろう。其れも刃物は、随分と鋒がするどく、切れ味が良くないと駄目だがな」
殻釘は淡々と話す。犯人だけでなく、その場に居た全員を驚かしている。
「ですが、証拠が……」
「そうだ。証拠を手っ取り早く消してしまうのがこの構造のカギだな。バラバラにして森の中にばら撒いてしまえば探すのは容易では無いだろう。だが……」
殻釘は少し間を置き、言う。
「俺がこの話をしだしたのは、被害者が殺されてほんの数分後の事だ。犯人は未だ証拠品の糸を持っている」
すると、全員が全員を疑い始めた。
「疑っても意味は無いぞ。言ったろう。此れは誰でも出来る簡単な方法だと」
殻釘はその場の淀めきに驚きもせず、話を続ける。ゆっくりと全員の視線が殻釘に向けられる。
「……この中で唯一アリバイが無く、一番疑われにくい人物ーー君だ」
殻釘が指差した先には、あの弱気な青年が居た。
「そ、そんな………僕が………?」
殻釘はふう、と息を吐く。
「君の様な弱気な青年こそ、一番疑われにくいからな」
青年が小刻みに震え始める。顔は青ざめている。
「此れで謎は解けた。終いだ。後は警察に証拠固めしてもらえ」
殻釘は優々と歩いて去って行く。
青年は暫くその様子を見ていたが、急に殻釘の元に走って行った。
「危ないぞォ!!」
青年は殻釘に拳を振り翳す。
「危ないのは君だ」
ーー殻釘の放った一撃が、青年の拳よりも先に青年の腹に直撃する。
青年は小さく呻いたが、ばたりと床にひれ伏した。意識を失ったように。
「心配するな。発射式のスタンガンだ」
すると殻釘は銃のような物を見せた。此れが発射式のスタンガンか。
「では俺はこれで。然らば」
殻釘は手を振って去って行く。声は先程より高ぶっている。
外ではパトカーのサイレンの音が響いている。
「…………」
気付けば殻釘は冷徹な目をしている。
殻釘の耳に付いていたイヤホンに声が入ってきた。
「殻釘先生。13年前の男児の死契約がーー短縮されました。5ヶ月後です」
「…………ほぅ」
殻釘は小さく答える。そして、ゆっくりと目を閉じる。
(然らばーー少年、景太よ)
山奥の小さな小屋。そこで事件は起きた。
小屋で休んでいた5人の人物の中の1人が足に痛みを感じて急に呻き出した。
痛みはだんだんペースアップしていき…
脚が折れた。
骨が折れたのでは無い。脚自体が折れたのだ。何の前触れも無かったかのように。
「この…中に…?」
「何故……」
一同が騒めく。一同の真ん中に立っている男だけは、冷めた真顔をしている。
「………何故かって?無論、恨みだ。被害者はこの全員から恨まれており、憎まれているからな」
「では一体……誰が……」
真ん中の男は目を細め、周りを見渡す。
この男の名は、殻釘霾徒。天才の探偵。
山小屋で起きたこの殺人事件を解く為にやって来た。
「もうーー犯人は分かっている」
「えっ!?」
一同が驚きに包まれる。騒めきでは無く。
「だが……犯人を言う前に、構造の説明だ」
殻釘はポケットに手を入れ、ゆっくりと語り始める。
「此れは誰でも出来る簡単な方法だ。時間差で足を削ぎ落とすだけだ」
「ですが殻釘探偵……」
弱気な青年が言う。
「被害者は一旦風呂に入った後、脚が取れ死亡しました。誰も被害者の脚やズボンに脚を削ぎ落とす様な事を仕組むのは無理かと…」
「先刻言ったろう。簡単な構造だと。可能だ」
殻釘は青年を軽く睨む。青年は後ずさる。
「犯人は被害者のズボンに予め刃物を仕込んでおいた。それも被害者が着替えた後のズボンにな」
「!!」
一同の中の1人の女が閃いたように目を見開く。
「糸………?」
「そうだ……」
殻釘は続けて言う。
「此れは糸を使った構造だ。被害者のズボンに糸を付けた刃物を括り付けておき、一斉に糸を何回も引けば脚なんて切れるだろう。其れも刃物は、随分と鋒がするどく、切れ味が良くないと駄目だがな」
殻釘は淡々と話す。犯人だけでなく、その場に居た全員を驚かしている。
「ですが、証拠が……」
「そうだ。証拠を手っ取り早く消してしまうのがこの構造のカギだな。バラバラにして森の中にばら撒いてしまえば探すのは容易では無いだろう。だが……」
殻釘は少し間を置き、言う。
「俺がこの話をしだしたのは、被害者が殺されてほんの数分後の事だ。犯人は未だ証拠品の糸を持っている」
すると、全員が全員を疑い始めた。
「疑っても意味は無いぞ。言ったろう。此れは誰でも出来る簡単な方法だと」
殻釘はその場の淀めきに驚きもせず、話を続ける。ゆっくりと全員の視線が殻釘に向けられる。
「……この中で唯一アリバイが無く、一番疑われにくい人物ーー君だ」
殻釘が指差した先には、あの弱気な青年が居た。
「そ、そんな………僕が………?」
殻釘はふう、と息を吐く。
「君の様な弱気な青年こそ、一番疑われにくいからな」
青年が小刻みに震え始める。顔は青ざめている。
「此れで謎は解けた。終いだ。後は警察に証拠固めしてもらえ」
殻釘は優々と歩いて去って行く。
青年は暫くその様子を見ていたが、急に殻釘の元に走って行った。
「危ないぞォ!!」
青年は殻釘に拳を振り翳す。
「危ないのは君だ」
ーー殻釘の放った一撃が、青年の拳よりも先に青年の腹に直撃する。
青年は小さく呻いたが、ばたりと床にひれ伏した。意識を失ったように。
「心配するな。発射式のスタンガンだ」
すると殻釘は銃のような物を見せた。此れが発射式のスタンガンか。
「では俺はこれで。然らば」
殻釘は手を振って去って行く。声は先程より高ぶっている。
外ではパトカーのサイレンの音が響いている。
「…………」
気付けば殻釘は冷徹な目をしている。
殻釘の耳に付いていたイヤホンに声が入ってきた。
「殻釘先生。13年前の男児の死契約がーー短縮されました。5ヶ月後です」
「…………ほぅ」
殻釘は小さく答える。そして、ゆっくりと目を閉じる。
(然らばーー少年、景太よ)
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
7
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる