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第二章

体育祭

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 「はっ!!」

私は急に目を覚ました。
青芽先輩の顔がある。

「大丈夫か?」
「えっ、あ、はい」

私はあたふたして返事をする。膝枕になっていたのか?
そうだ。私は、先輩からチョコレートを貰ったんだ。私も差し出した。そして何故か、気を失った。
周りを見渡す。此処はーーバス停か?日陰になっていて涼しい。

「すみません、急に倒れて……」
「いやいや、心配無いよ。大丈夫か聞きたいのはこっちだ」

まあ確かに、急に意識を失ったら驚く。

「私は別に、何とも無いです。目眩もしないし、吐き気も、頭痛もありません」
「それは良かった。其れと……」

先輩はゆっくりと言った。

「あ、ありがとう」

そう言って、先輩は私が差し出したチョコレートを見せた。
お礼を、言ってくれているーー。

「せせせせ、先輩の方こそ……!」

私は顔の前で手をぶんぶんと振り回す。
自分でも分かる。顔が赤くなっている。

「僕はただ、君に誕生日のプレゼントを渡しただけだよ。其れより、本当に大丈夫か?病院とか行かなくていいのか?」
「はい。暑さで貧血になってしまったのかもしれないし……」

今も日光が降り注いでいる。
本当に5月か?と言うぐらい暑い。

「そうだな。君も、この暑さには気を付けるように。もうすぐだしな」
「へっ!?」

体育祭。嫌いな言葉だ。
私は昔から体育が苦手で、体育が2時間も3時間もある日には、ズル休みもする程だった。
運動も苦手だし、第一体力が無い。

「たっ……体育祭……何時でしたっけ……」
「えっと、6月20日、だったような……」
「じゃあそろそろ、練習始まりますね……」

私の顔が暗くなっていくのが分かる。
いや、体育祭が嫌いという訳では無い。
私はただ、体育が苦手なだけだ。
それなのに、辛い練習を沢山しなければならないのが嫌なのだ。

「ええっと……お互い、体育祭に向けて、練習頑張りましょうね!」

作り笑顔を見せる。
まあ実際、あまり練習は頑張りたく無いのだが。

「ああ、そうだな。練習頑張ろう。じゃあ、学校で」
「はい!では」

そう言って先輩と私はその場を離れた。
私の顔は、しかめていた。


(はあ……テスト終わった……)

私は溜息を吐いた。
そう。今日は中間試験だったのだ。
今は試験が終わった直後。おそらく……。

「春~。数学と歴史、どうだった~?」

やっぱりだ。優が話しかけて来た。

「歴史は出来たけど……、数学はあんまりかな」
「だよね~。難しかったよね~。」
「歴史、苦手なの?」

私は首を傾げて訊く。すると優は、やれやれといった顔で呟いた。

「も~、さっぱりだよ。歴史人物の名前なんて、全然覚えらんない」
「えー、じゃあ問題ね。蘇我入鹿を殺して、大化の改新を成功させたのは誰?」
「え、えーーっと………………長野ホーえの皇子……?」

これは駄目だ。正解は中大兄皇子なかのおおえのおうじだが、何だ長野ホーえのって。

「な、中大兄皇子だよ」
「あー、それだそれだ。本当は分かってたよ」
「嘘つけ」

そんな会話をしている間に、時間は刻一刻と過ぎていっていた。

「あ、やばい!今から体育だった。早く着替えないと…!」
「……………体育、か……………」

来てしまった。体育の時間。中間試験も終わったから、おそらくもう体育祭の練習だろう。
体育祭とかの練習の時だけ先生が異様に厳しいのは何故なのか。

「はあ……でも、何時までも嫌々言っていても仕方ない……頑張るか」

私はそう言って、体操着に着替えた。


「はーい。先ずは、リレーの練習」

先生が大きな声で言った。
リレー。未だマシな方だ。
この高校では、毎年「スウェーデンリレー」というものがあるらしい。
スウェーデンリレーというのは、4人の走者が順に走り、1人ずつ、走る距離が長くなっていくという、大変プレッシャーが用いられる競技である。
中学の頃は走者の順番をくじで決めていた。私はくじ運が悪いため、何度も最終走者の400メートルを走っていた。
この高校ではどうなのか。
普通に足が速い人優先になるのか。それとも、前の中学のように、くじで決めるのか。それとも………。
そんな事を考えている間に、リレーの順番が来てしまった。
バトンを持った優が走って来た。私はバトンを受け取る姿勢をとる。

「走れ!」

優が私に走れの合図をした。それと同時に私は駆け出す。

「ーーっ!」

私は優からバトンを受け取った。
その途端、背筋がぞくりとした。
視線だ。
一番だからか。皆の視線が私に集まる。
ーーあ、拙い。
私はプレッシャーや視線に弱いタイプだ。
このままだと、上手く走れない。
まだ10メートル弱しか走っていない。
駄目だ、このままじゃ。

ガクンと、足が曲がる。
背後から、足音が迫って来た。
追い越される……。

「きゃあっ!!!」
「うおおっ!!!」

私と後ろの走者が同時に転んだ。
私の足がすくんだせいで、背後の走者の男子もそれにつまづいて盛大に転んだ。

砂埃が立つ。

「痛ててて……あっ、大丈夫だったか!?」
「うぅ………だ、大丈夫です……」
「大丈夫じゃあなさそうな声だが」

私の顔には砂が付いている。
肋を強打してしまった。バトンで手が塞がっていたから、手も着けなかった。

「保健委員!2人を保健室へ連れて行け!」

先生が叫ぶが、誰も返事はしない。

「今、保健委員は保健室に集まっていますよ……」

大勢の中の1人が言った。

「じゃあ、先生が……」
「私が連れて行きましょうか?」

何処かで聞いた声がした。
私はゆっくりと声のした方を向く。

「ーー!」

そこには、ロングヘアで、色白の美少女が居た。

「おお、助かる。君が連れて行ってくれ」

先生が言った。
その美少女が私と男子を担いだ。

「こ、凩先輩……保健委員なんですか?」

私を担いだ人物は、あの凩先輩だった。

「うん。こっそり抜け出して来たんだ。それにーー君と、話がしたくてね」
「私と……?」

凩先輩は薄っすらと微笑んだ。




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