清少納言 春来たり

月野さい

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プロローグ

春は

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 ある春の日。青く透き通った空に、鳴り響く車のブレーキやクラクションの音。
此処は新宿。
日本の中心であり、東京の県庁所在地。地上にはビルが立ち並ぶ。
その中のビルとビルの間。昼でも暗い路地裏だ。
そこに一人、机に突っ伏して頭を抱える女がいた。
(あーもう、どうしてこんな事に…)
物語は、数十分前に遡る。
     *    *
 「今日はとても良い天気ねぇ」
「そうですね」
平安時代。藤原道長や定子や彰子が権力を握っていた時代。そして、彰子に仕えていた女流作家が紫式部、定子に仕えていたのが清少納言だ。
定子や清少納言も含む女房たちが暮らしている平安京の宮中・大内裏。その大内裏のある縁側。定子や清少納言、他の女房たちが楽しく話をしていた。
「小納言よ。今日のような天候のことを其方の言葉で何と言う?」
空は快晴。日差しは気持ち良すぎて眩しいくらいだ。
「そうですね。こんな日は、春はあけぼの!なんちゃって、もうお昼ですけど!」
「あっはっは」
一同に賑やかな笑い声が響く。
(ああ、今日も平和だなぁ。)
そう、小納言が思った次の瞬間。
「⁉︎」
いきなり、小納言の周りだけが深い群青色に包まれた。何かがとても速く過ぎていっているような。小納言はそんな感覚がしていた。
(えっ? えっ⁉︎     何何何⁉︎    定子さまは⁉︎    他の皆は⁉︎)
そして、その群青空間が解き放たれ、暗い路地裏のような場所に一人。宿
「……え?」
     *   *
 そして現在に至る。小納言は困りに困り、迷いに迷った。だがまだ、此処が何処なのか。周りにあるあの大きな建物のような物(ビル)が何なのか。まだ何も分かっていない状態だった。
(いや、待って。大きな動いている謎の物(車)もあるけど、ちょっと変な格好した人間もいる!此処が何処なのか、あれは何なのか、全て聞きたい事を聞いてやる!)
小納言は、近くの道路沿いの道を歩いていたスーツ姿の男に声を掛けた。
「あの~、此処って何処ですか?」
「え、えっ?どこって、此処は新宿ですけど…」
「し、新宿⁉︎も、もうちょっと詳しく…」
「え、えーっと、東京都新宿区…?」
東京。平安時代の呼び方で言うと、埼玉と神奈川の一部をまとめて武蔵。だが、平安時代から直送で来た小納言には、東京と言われても分からない。
「東京…。だったら、質問を変えます。い、今は何時代ですか?」
「へっ⁉︎   えー、令和時代ですよ…?2021年の…」
「ににに、2021年⁉︎」
少納言が定子たちと会話を楽しんでいたのは1000年の少し前。という事は、約1000年後にタイムスリップして来たという事だ。

 「うーん…」
清少納言はまたも頭を抱えていた。
(今わかっている事を整理しよう…
 ・今は2021年の令和時代
 ・此処は東京都の新宿という所
ぐらいか…)
すると、先刻の男がやって来た。
「…あんた、大丈夫か?」
「大丈夫に見えますか?」
「すまない」
「あの…ところで、あそこの大きな建物のような物は何ですか?あと、出来ればすぐそこを走っている大きな物も…」
小納言は近くのビルと車を指差した。
だが男は冷静に答えてくれた。
「あの大きな建物がビル。ビルディングという。で、そこを走っているやつが車だ。車」
まるで父親が子供に物を教えている様にも見えた。
「ぐぬぬ…」 
小納言はやはり困っていた。この時代の大体の事は分かったが、この世界でどうやって生活していくか、そもそもなぜこの時代に来てしまったのかも分かっていない状態なのだ。この世界を生き抜く方法など無い…と、諦めかけたその時。その場を見て、先刻の男が声を掛けてきた。
「あ、あんた、名前も知らない人だけど、あんたを保護してくれそうなツテがあるから、その人に連絡してやるよ。その人、旅館を営んでいるんだよ」
「あ、ありがとうございます!」
正直、小納言は男が何を言っているかよく分かっていなかった。「ツテ」や「旅館」なんて言葉、平安時代には無かった。だが、小納言にとって、善い事が訪れるに違いないと思った。

 そしてこの後から、ある年の春からある年の春までの1年間の、ある楽しくて切ない清少納言の物語が、始まろうとしている。

 そして宮中でも、「清少納言探し」という、物語が始まっていた。

 「あんた、名前は?」
「せ、清少納言といいます!」
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