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訓練場
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話には聞いていたが気に入らないと思っていた。
ヴァレリーは上昇志向の強い人間だったが、跡取りでもなければ、家格も低い為に、中々取り立てられなかった。
容姿も能力も、十二分にあると自負している。
それが、自分より何もかも劣る威張り散らすのが唯一の取り柄みたいな連中に良い様にされて、言いなりになるしかない。
悔しいと思って躍起になればなるほど、泥沼に嵌って、自分の立場が悪くなるばかりだった。
何時しか、何もかもまともに取り合うのを止めて、斜に構えるのが癖になってしまった。
そうするしかない、その方がいい、自分は上手くやっているのだと思っていた。
それはそれは美しい王子がいるというのは有名だった。
神が創った芸術品と呼ぶのに相応しく、美の女神が裸足で逃げ出すのではないかと言われていた。
その見た目に相応しく、音楽や、花を愛で、剣の訓練などまともにしないそうだ。
余程、蝶よ花よと、大切に育てられ苦労などしたこともないのだろう。
しかも、次期王にと、望まれているのに、嫌がって逃げ回っているということだった。
自分がこんなに努力して悔しく、惨めな思いをしているというのに、世の中にはそんな人間が存在するのか。
王子とはそういうものなのか。
運命とは生まれながらに決められているのか。
自らと比べ、余りの差に、ロナウという名を嫉妬と、蔑みの感情と共に記憶した。
どういうことだ…?
ある日、訓練場に人だかりが出来ていた。
ロナウ王子が来ているそうで、皆、自分の訓練そっちのけで、見物していた。
ヴァレリーも、例外ではなく、興味深く見ていた。
構えも剣筋も悪くない、いや、悪くない所か…
話に聞いていたような腑抜けには見えない。
まともに打ち合わないので、はっきりしないが、あれが女々しいだけの情けない男とは思えない。
対する相手は…
こちらも中々上手い。
だが、妙にまどろっこしい真似をして、試合が進まない。
終には、まるで自分からわざと当たりにいったかのように、ロナウ王子の勝ちで終わった。
「御指南ありがとうございます、ロナウ王子。いやあ、流石です。手も足も出ませんでした。」
「ありがとうございました…」
挨拶もそこそこに、ロナウ王子は訓練場を去ってしまった。
ガヤガヤと、先程の試合の話に花が咲く。
「全く、王子様のお相手も大変だ。お怪我をさせる訳にもいかん。こちらが勝って、恐れ多いと罰を受けても敵わん。怪我などさせず、気分よく勝って頂くのは苦労する。」
「ああ!通りでいつもと違っておかしいと思いました!」
「本気でお相手したら、一瞬で終わってしまいますもんね。」
「擦り傷でもつけて、断首されては敵いませんね。心中お察しします。」
ヴァレリーは堪えた。
何にかというと、己の醜さにだ。
ロナウを恨んでいる俺は、こんなにも醜いのだろうか?
ロナウの対戦相手は、よく知っている。
腕も、身分も、容姿も、そこそこだが、取り巻きが多く、上の人間に取り入るのが上手い。
以前、まともに努力している時は、ヴァレリーも、よく難癖をつけられ、苦い思いをした。
さっきの試合、まともにやっていれば、ロナウ王子の圧勝だった。
だから、逃げたんだ。
身分の高い王子が、己を知らず、迷惑をかけて、自分はその被害者なのだと。
取り巻きの前で、恥をかきたくなかったのだろう。
本当に、あの試合の意味が分かってない連中もいるが、大半は分かってるに違いない。
恨まれたくないんだ。
俺だってそうだ、睨まれたくはない。
もう、昔のように正しいことがまかり通るのだとは信じることなど出来ない。
だが…
今までのように、全てから目を反らして、生きていける自信は無かった。
様々な感情が渦まいて、己と似た連中を見ていられなくて、ヴァレリーは、訓練場を去った。
ヴァレリーは上昇志向の強い人間だったが、跡取りでもなければ、家格も低い為に、中々取り立てられなかった。
容姿も能力も、十二分にあると自負している。
それが、自分より何もかも劣る威張り散らすのが唯一の取り柄みたいな連中に良い様にされて、言いなりになるしかない。
悔しいと思って躍起になればなるほど、泥沼に嵌って、自分の立場が悪くなるばかりだった。
何時しか、何もかもまともに取り合うのを止めて、斜に構えるのが癖になってしまった。
そうするしかない、その方がいい、自分は上手くやっているのだと思っていた。
それはそれは美しい王子がいるというのは有名だった。
神が創った芸術品と呼ぶのに相応しく、美の女神が裸足で逃げ出すのではないかと言われていた。
その見た目に相応しく、音楽や、花を愛で、剣の訓練などまともにしないそうだ。
余程、蝶よ花よと、大切に育てられ苦労などしたこともないのだろう。
しかも、次期王にと、望まれているのに、嫌がって逃げ回っているということだった。
自分がこんなに努力して悔しく、惨めな思いをしているというのに、世の中にはそんな人間が存在するのか。
王子とはそういうものなのか。
運命とは生まれながらに決められているのか。
自らと比べ、余りの差に、ロナウという名を嫉妬と、蔑みの感情と共に記憶した。
どういうことだ…?
ある日、訓練場に人だかりが出来ていた。
ロナウ王子が来ているそうで、皆、自分の訓練そっちのけで、見物していた。
ヴァレリーも、例外ではなく、興味深く見ていた。
構えも剣筋も悪くない、いや、悪くない所か…
話に聞いていたような腑抜けには見えない。
まともに打ち合わないので、はっきりしないが、あれが女々しいだけの情けない男とは思えない。
対する相手は…
こちらも中々上手い。
だが、妙にまどろっこしい真似をして、試合が進まない。
終には、まるで自分からわざと当たりにいったかのように、ロナウ王子の勝ちで終わった。
「御指南ありがとうございます、ロナウ王子。いやあ、流石です。手も足も出ませんでした。」
「ありがとうございました…」
挨拶もそこそこに、ロナウ王子は訓練場を去ってしまった。
ガヤガヤと、先程の試合の話に花が咲く。
「全く、王子様のお相手も大変だ。お怪我をさせる訳にもいかん。こちらが勝って、恐れ多いと罰を受けても敵わん。怪我などさせず、気分よく勝って頂くのは苦労する。」
「ああ!通りでいつもと違っておかしいと思いました!」
「本気でお相手したら、一瞬で終わってしまいますもんね。」
「擦り傷でもつけて、断首されては敵いませんね。心中お察しします。」
ヴァレリーは堪えた。
何にかというと、己の醜さにだ。
ロナウを恨んでいる俺は、こんなにも醜いのだろうか?
ロナウの対戦相手は、よく知っている。
腕も、身分も、容姿も、そこそこだが、取り巻きが多く、上の人間に取り入るのが上手い。
以前、まともに努力している時は、ヴァレリーも、よく難癖をつけられ、苦い思いをした。
さっきの試合、まともにやっていれば、ロナウ王子の圧勝だった。
だから、逃げたんだ。
身分の高い王子が、己を知らず、迷惑をかけて、自分はその被害者なのだと。
取り巻きの前で、恥をかきたくなかったのだろう。
本当に、あの試合の意味が分かってない連中もいるが、大半は分かってるに違いない。
恨まれたくないんだ。
俺だってそうだ、睨まれたくはない。
もう、昔のように正しいことがまかり通るのだとは信じることなど出来ない。
だが…
今までのように、全てから目を反らして、生きていける自信は無かった。
様々な感情が渦まいて、己と似た連中を見ていられなくて、ヴァレリーは、訓練場を去った。
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