【番外編】貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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山猫のサリーナ。

山猫娘の見る夢は。【4】

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 「部屋に行く前に侍女服を取りに参りますよ」

 そう言ったマリエッテはリネン室と思われる部屋にサリーナを連れて行った。
 制服は一つ一つ新しいものを仕立てられる。
 侍女になると決まったと同時に郷里であらかじめ寸法を測って知らせており、それがリネン室で支給される事になっていた。
 リネン室の管理担当の使用人が侍女服を持ってくる。
 試着するように言われたので着替えると、ぴったりだった。

 「キツいところ、緩いところは無いですか?」

 「はい」

 「大丈夫そうですね」

 制服は季節毎に支給されるそうである。
 洗い替えも含めて何着か受け取ると、サリーナ達はリネン室を出た。

 侍女の住まう部屋は屋敷でも奥向きの方にあった。一つの扉の前まで来ると、侍女頭マリエッテはノックをする。

 「ヴェローナ、ヴェローナ・バラスンはおりますか?」

 「はい、少々お待ちを」

 やがて扉が開かれ、可愛らしい少女が顔を出した。年はサリーナよりも数年若い位だろうか。
 柔らかいふわふわとした明るい金の髪に青い瞳の整った顔立ちをした娘だった。忘れていた劣等感が蘇り、胸がチクリと痛む。サリーナとは正反対の――キラキラした女の子。

 「マリエッテ様、お待たせしました」

 ヴェローナと呼ばれた少女は首を傾げてマリエッテを見、その後値踏みするようにサリーナをじろじろと見た。
 サリーナと目が合った瞬間、瞳の青に安堵するような色が浮かんでいたように見えたのは恐らく気の所為じゃないだろう。

 「こちらはサリーナ・コジー。今日より貴女と同室になる侍女見習いです。彼女の荷物はもう運び込まれているでしょう? 仲良くするように」

 「ああ、ええ。荷物は届いております。そうじゃないかな、と思っていました」

 ヴェローナは扉を大きく開いて室内にサリーナ達を招き入れる。

 室内は侍女に与えられる部屋にしては豪華だった。

 衝立を隔ててベッド、鏡台、ワードローブとチェストがそれぞれ置かれ、身だしなみは勿論の事、服や小物などの収納にも困ら無さそうである。

 鏡台はちょっとした書き物も出来そうだ。

 「侍女は一部屋を二人で使います。貴女のベッドはこちらです」

 侍女頭が示した生活感の無い方に、サリーナの荷物がまとめて置かれていた。今日からここで暮らす事になるのだろう。

 「これから荷解きをして場所を整えなさい。明日は侍女服を支給します。その後、挨拶回りをしますので、そのつもりでいるように。それから、ヴェローナ。今日の夕食時は彼女と共に食堂へ」

 そう言って侍女頭マリエッテは部屋を出て行った。
 ヴェローナがサリーナを振り返る。

 「えっと、サリーナだっけ」

 「はい。サリーナ・コジーと言います。同室同士、よろしくお願いします」

 「ええ、こちらこそよろしくね。あたしも来て間もないし、年もきっと同じぐらいでしょ? 敬語は要らないわ。
 どんな人が来るかなって不安だったけど、良い人そうで良かったわ! 聞いてたと思うけど、あたしは山羊ノ庄出身のヴェローナ・バラスン。
 ところで、サリーナはやっぱり、コジー男爵家の? 娘が居るって聞いた事は無かったけど……」

 「じゃあお言葉に甘えて。私は養女なの。元はシンブリ家。母がカメリア・コジーの娘で――」

 サリーナは自分の身の上を説明した。

 「ああ、コジー夫人の代わりに!」

 ヴェローナは合点がいった、といったように手をポンと叩いた。
 サリーナは「祖母に、マリアージュ様にお仕えするようにと言われまして」と頷く。

 途端に、ヴェローナの目に同情的な光が浮かんだ。

 「……あのマリー様付きかぁ。大変ね」

 自分が仕える事になる姫君はやはり曰く付きらしい。サリーナは情報を引き出してみる事にした。

 「マリアージュ様は、その……気難しい方なの?」

 「うーん、そうね。気難しいというよりも、変わった方……かしら。サリーナはコジー夫人がぎっくり腰になった経緯は聞いている?」

 「何でも、逃げるマリアージュ様を追いかけて屋敷中を駆け回ったって聞いてるわ」

 サリーナがそう言うと、ヴェローナは首を傾げた。

 「えっと……大体合ってるんだけど、馬の事は?」

 「馬?」

 今度はサリーナが首を傾げる。

 馬が何か関係あるのだろうか? そんな疑問が顔に浮かんでいたのだろう。

 「ああ、詳しくは聞かされて無かったのね。事件があったのよ。口で言うより実際に見た方が早いわ。明日の朝見せてあげる。早起きしてね」

 そう言って、ヴェローナは顎に人差し指を当てて悪戯っぽく微笑んだ。
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