26 / 110
山猫のサリーナ。
山猫娘の見る夢は。【4】
しおりを挟む
「部屋に行く前に侍女服を取りに参りますよ」
そう言ったマリエッテはリネン室と思われる部屋にサリーナを連れて行った。
制服は一つ一つ新しいものを仕立てられる。
侍女になると決まったと同時に郷里であらかじめ寸法を測って知らせており、それがリネン室で支給される事になっていた。
リネン室の管理担当の使用人が侍女服を持ってくる。
試着するように言われたので着替えると、ぴったりだった。
「キツいところ、緩いところは無いですか?」
「はい」
「大丈夫そうですね」
制服は季節毎に支給されるそうである。
洗い替えも含めて何着か受け取ると、サリーナ達はリネン室を出た。
侍女の住まう部屋は屋敷でも奥向きの方にあった。一つの扉の前まで来ると、侍女頭マリエッテはノックをする。
「ヴェローナ、ヴェローナ・バラスンはおりますか?」
「はい、少々お待ちを」
やがて扉が開かれ、可愛らしい少女が顔を出した。年はサリーナよりも数年若い位だろうか。
柔らかいふわふわとした明るい金の髪に青い瞳の整った顔立ちをした娘だった。忘れていた劣等感が蘇り、胸がチクリと痛む。サリーナとは正反対の――キラキラした女の子。
「マリエッテ様、お待たせしました」
ヴェローナと呼ばれた少女は首を傾げてマリエッテを見、その後値踏みするようにサリーナをじろじろと見た。
サリーナと目が合った瞬間、瞳の青に安堵するような色が浮かんでいたように見えたのは恐らく気の所為じゃないだろう。
「こちらはサリーナ・コジー。今日より貴女と同室になる侍女見習いです。彼女の荷物はもう運び込まれているでしょう? 仲良くするように」
「ああ、ええ。荷物は届いております。そうじゃないかな、と思っていました」
ヴェローナは扉を大きく開いて室内にサリーナ達を招き入れる。
室内は侍女に与えられる部屋にしては豪華だった。
衝立を隔ててベッド、鏡台、ワードローブとチェストがそれぞれ置かれ、身だしなみは勿論の事、服や小物などの収納にも困ら無さそうである。
鏡台はちょっとした書き物も出来そうだ。
「侍女は一部屋を二人で使います。貴女のベッドはこちらです」
侍女頭が示した生活感の無い方に、サリーナの荷物がまとめて置かれていた。今日からここで暮らす事になるのだろう。
「これから荷解きをして場所を整えなさい。明日は侍女服を支給します。その後、挨拶回りをしますので、そのつもりでいるように。それから、ヴェローナ。今日の夕食時は彼女と共に食堂へ」
そう言って侍女頭マリエッテは部屋を出て行った。
ヴェローナがサリーナを振り返る。
「えっと、サリーナだっけ」
「はい。サリーナ・コジーと言います。同室同士、よろしくお願いします」
「ええ、こちらこそよろしくね。あたしも来て間もないし、年もきっと同じぐらいでしょ? 敬語は要らないわ。
どんな人が来るかなって不安だったけど、良い人そうで良かったわ! 聞いてたと思うけど、あたしは山羊ノ庄出身のヴェローナ・バラスン。
ところで、サリーナはやっぱり、コジー男爵家の? 娘が居るって聞いた事は無かったけど……」
「じゃあお言葉に甘えて。私は養女なの。元はシンブリ家。母がカメリア・コジーの娘で――」
サリーナは自分の身の上を説明した。
「ああ、コジー夫人の代わりに!」
ヴェローナは合点がいった、といったように手をポンと叩いた。
サリーナは「祖母に、マリアージュ様にお仕えするようにと言われまして」と頷く。
途端に、ヴェローナの目に同情的な光が浮かんだ。
「……あのマリー様付きかぁ。大変ね」
自分が仕える事になる姫君はやはり曰く付きらしい。サリーナは情報を引き出してみる事にした。
「マリアージュ様は、その……気難しい方なの?」
「うーん、そうね。気難しいというよりも、変わった方……かしら。サリーナはコジー夫人がぎっくり腰になった経緯は聞いている?」
「何でも、逃げるマリアージュ様を追いかけて屋敷中を駆け回ったって聞いてるわ」
サリーナがそう言うと、ヴェローナは首を傾げた。
「えっと……大体合ってるんだけど、馬の事は?」
「馬?」
今度はサリーナが首を傾げる。
馬が何か関係あるのだろうか? そんな疑問が顔に浮かんでいたのだろう。
「ああ、詳しくは聞かされて無かったのね。事件があったのよ。口で言うより実際に見た方が早いわ。明日の朝見せてあげる。早起きしてね」
そう言って、ヴェローナは顎に人差し指を当てて悪戯っぽく微笑んだ。
そう言ったマリエッテはリネン室と思われる部屋にサリーナを連れて行った。
制服は一つ一つ新しいものを仕立てられる。
侍女になると決まったと同時に郷里であらかじめ寸法を測って知らせており、それがリネン室で支給される事になっていた。
リネン室の管理担当の使用人が侍女服を持ってくる。
試着するように言われたので着替えると、ぴったりだった。
「キツいところ、緩いところは無いですか?」
「はい」
「大丈夫そうですね」
制服は季節毎に支給されるそうである。
洗い替えも含めて何着か受け取ると、サリーナ達はリネン室を出た。
侍女の住まう部屋は屋敷でも奥向きの方にあった。一つの扉の前まで来ると、侍女頭マリエッテはノックをする。
「ヴェローナ、ヴェローナ・バラスンはおりますか?」
「はい、少々お待ちを」
やがて扉が開かれ、可愛らしい少女が顔を出した。年はサリーナよりも数年若い位だろうか。
柔らかいふわふわとした明るい金の髪に青い瞳の整った顔立ちをした娘だった。忘れていた劣等感が蘇り、胸がチクリと痛む。サリーナとは正反対の――キラキラした女の子。
「マリエッテ様、お待たせしました」
ヴェローナと呼ばれた少女は首を傾げてマリエッテを見、その後値踏みするようにサリーナをじろじろと見た。
サリーナと目が合った瞬間、瞳の青に安堵するような色が浮かんでいたように見えたのは恐らく気の所為じゃないだろう。
「こちらはサリーナ・コジー。今日より貴女と同室になる侍女見習いです。彼女の荷物はもう運び込まれているでしょう? 仲良くするように」
「ああ、ええ。荷物は届いております。そうじゃないかな、と思っていました」
ヴェローナは扉を大きく開いて室内にサリーナ達を招き入れる。
室内は侍女に与えられる部屋にしては豪華だった。
衝立を隔ててベッド、鏡台、ワードローブとチェストがそれぞれ置かれ、身だしなみは勿論の事、服や小物などの収納にも困ら無さそうである。
鏡台はちょっとした書き物も出来そうだ。
「侍女は一部屋を二人で使います。貴女のベッドはこちらです」
侍女頭が示した生活感の無い方に、サリーナの荷物がまとめて置かれていた。今日からここで暮らす事になるのだろう。
「これから荷解きをして場所を整えなさい。明日は侍女服を支給します。その後、挨拶回りをしますので、そのつもりでいるように。それから、ヴェローナ。今日の夕食時は彼女と共に食堂へ」
そう言って侍女頭マリエッテは部屋を出て行った。
ヴェローナがサリーナを振り返る。
「えっと、サリーナだっけ」
「はい。サリーナ・コジーと言います。同室同士、よろしくお願いします」
「ええ、こちらこそよろしくね。あたしも来て間もないし、年もきっと同じぐらいでしょ? 敬語は要らないわ。
どんな人が来るかなって不安だったけど、良い人そうで良かったわ! 聞いてたと思うけど、あたしは山羊ノ庄出身のヴェローナ・バラスン。
ところで、サリーナはやっぱり、コジー男爵家の? 娘が居るって聞いた事は無かったけど……」
「じゃあお言葉に甘えて。私は養女なの。元はシンブリ家。母がカメリア・コジーの娘で――」
サリーナは自分の身の上を説明した。
「ああ、コジー夫人の代わりに!」
ヴェローナは合点がいった、といったように手をポンと叩いた。
サリーナは「祖母に、マリアージュ様にお仕えするようにと言われまして」と頷く。
途端に、ヴェローナの目に同情的な光が浮かんだ。
「……あのマリー様付きかぁ。大変ね」
自分が仕える事になる姫君はやはり曰く付きらしい。サリーナは情報を引き出してみる事にした。
「マリアージュ様は、その……気難しい方なの?」
「うーん、そうね。気難しいというよりも、変わった方……かしら。サリーナはコジー夫人がぎっくり腰になった経緯は聞いている?」
「何でも、逃げるマリアージュ様を追いかけて屋敷中を駆け回ったって聞いてるわ」
サリーナがそう言うと、ヴェローナは首を傾げた。
「えっと……大体合ってるんだけど、馬の事は?」
「馬?」
今度はサリーナが首を傾げる。
馬が何か関係あるのだろうか? そんな疑問が顔に浮かんでいたのだろう。
「ああ、詳しくは聞かされて無かったのね。事件があったのよ。口で言うより実際に見た方が早いわ。明日の朝見せてあげる。早起きしてね」
そう言って、ヴェローナは顎に人差し指を当てて悪戯っぽく微笑んだ。
44
あなたにおすすめの小説
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
幼女と執事が異世界で
天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。
当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった!
謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!?
おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。
オレの人生はまだ始まったばかりだ!
【完結】魔王様、溺愛しすぎです!
綾雅(りょうが)今月は2冊出版!
ファンタジー
「パパと結婚する!」
8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!
拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
挿絵★あり
【完結】2021/12/02
※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過
※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過
※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位
※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品
※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24)
※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品
※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品
※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる